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競馬の目的を問われれば、表面的にはたった一つのように思える。特定の条件下で、最も速く走るサラブレッドを見つけ出すことだ。

しかし、このスポーツはそれだけではない。レースを取り巻くストーリー、年間を通して創り上げられる物語こそが醍醐味なのだ。

そうした観点から見ると、2024年は競馬界に活気が戻ってきた年だと言える。世界最高峰レースのいくつかに、どこか欠けていたノスタルジーが帰ってきた。

例えば、メルボルンカップ。ここ数年は論争が巻き起こり、かつてのような国民的レースからは遠ざかっていた。

今年もまた、セントレジャー勝ち馬のヤンブリューゲルが獣医検査で怪我のリスクを指摘され、回避を余儀なくされるという騒動が起こった。地元馬も次々と回避に追い込まれ、海外からは「保護主義的だ」と抗議する声も上がった。

Warp Speed finishes second in the G1 Melbourne Cup
WARP SPEED, AKIRA SUGAWARA / G1 Melbourne Cup // Flemington /// 2024 //// Photo by William West

結局、ヤンブリューゲルやコックスプレート馬のヴィアシスティーナが不在となったレースを制したのは、伏兵のナイツチョイス。歌手としても活動するロビー・ドーラン騎手、夫婦調教師のシーラ・ラクソンとジョン・シモンズのチームが波乱を巻き起こした。

戦績だけを見れば、今年のメルボルンカップはレベルが高かったとは言い難い。しかし、メルボルンカップの本質はそこではない。2マイルを超える距離のハンデ戦、格下の馬でもエリート相手に番狂わせを起こせるレース、それが醍醐味だ。

ナイツチョイスの存在は、メルボルンカップの理想を体現するものだった。主要なメディアでも報じられ、レースもクリーンだった。年に一度、このレースだけ見る層も「世界最高峰のレースを応援できて良かった」と満足してくれたことだろう。

では、ジャパンカップはどうだろうか?このレースはJRAが1981年に創設し、国内のトップホースと世界の強豪を対戦させることを目論んでいた。

時が経つに連れて、やがて日本は世界屈指の競馬大国へと成長し、ここ20年間のジャパンカップは平凡な海外遠征馬を一方的に打ち負かす舞台となっていた。

しかし、今年のジャパンカップは海外の一流馬が参戦。英ダービー馬のオーギュストロダン、キングジョージ勝ち馬のゴリアット、ドイツ競馬のスターホースであるファンタスティックムーンが来日、大物たちが東京競馬場に集まった。それでも、武豊騎手とドウデュースが海外勢の前に立ちはだかり、タイトル奪還を阻止した。

Yutaka Take guiding Do Deuce to victory in the Japan Cup
DO DEUCE, YUTAKA TAKE / G1 Japan Cup // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

アメリカでは、フォーエバーヤングが日本馬初のケンタッキーダービー制覇にあと一歩まで迫ったが、ミスティックダンとシエラレオーネがそれを阻止した。

レース前、ボブ・バファート調教師の出場停止延長が話題を呼んだ。ムースやナイソスを要するバファート厩舎だったが、この判断により回避を余儀なくされた。しかし、当日は各路線の有力馬が一堂に会し、歴史に残る大激戦を演じることになった。

バファート調教師は2025年に戻ってくる。ケンタッキーダービー最多勝の新記録を狙い、すでに有力馬を揃えた強力な布陣を整えつつある。しかし、史上最多の7勝目が実現したとしても、2024年の歴史に残る大激戦ほどの名場面とはならないだろう。

2024年のG1も数レースを残すのみ、今年を彩った競馬界の物語もほぼ完結している。

今年の公式レーティングは来月にロンドンで行われるセレモニーで発表されるが、128を記録したドバイワールドカップ馬のローレルリバーが世界一に輝くと見られている。これは過去20年間のうち、レーティング世界一の競走馬としては最も低い数字タイだ。

パフォーマンスの水準としては全体的に低調な一年だったかもしれないが、それだけが全てではない。2024年は一部の大レースが本来の姿を取り戻し、競馬界の後押しとなった一年でもあったのだ。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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