Aa Aa Aa

多くの名馬は、終盤に速いラップを刻むことができる。しかし、それがカーインライジングと他馬を分けているわけではない。

違いを生むのは、その終盤のラップに至るまでの走りと、速いペースを持続したうえで、さらに加速できる稀有な能力だ。

日曜のシャティン競馬場で、カーインライジングは135ポンド(約61.2kg)を背負って1200mを「1:06.11」で走り、7馬身3/4差で勝利した。誰もが勝ち時計に注目するだろう。だが私が取り上げたいのは、その中のわずか200m、残り400mから200mまでのラップだ。

この200mを10秒44で走った。後方で脚をため、徐々に加速した馬が記録したものではない。先行しながら速いラップを刻んでいた馬が出した数字なのだ。残り400mまでにも200mを10秒51、10秒64で走っていた。

それなのに、そこからもう一段速くなるのだから驚異的である。速い流れを先行し、そこからさらに加速する。あのレース運びでは、後方から差し切ることは物理的に不可能だ。

私は現役時代、150m、200mの加速だけで一気に後続を置き去りにできる名馬に数多く騎乗した。しかし、すでに先行しながらそれができた馬はいなかった。

前で運べばエネルギーを消耗する。エネルギーを使えば、そこからもう一段ギアを上げることはできない。それが、カーインライジングが他馬と違うところだ。

ウィンクスは私が見てきた中でも屈指の名馬で、中団か、それより後ろから直線でライバルを差し切ることができた。ただし、それは後方でエネルギーを温存し、末脚にすべてを懸ける走りだった。

カーインライジングは、そのような乗り方をされることがない。レースを支配する馬だ。巡航速度が驚くほど速く、そのラップを楽々と刻んでいく。一方、ライバルたちはその時点ですでに限界まで脚を使わされている。だから残り400mでスパートをかける時には、追いつくことが物理的に不可能になっている。

どちらを選んでも苦しくなる。射程圏に入れておこうとすれば、ついていくためにエネルギーを使い、最後には何も残らない。

反対に、脚を温存して後方に控えれば、埋めなければならない差が大きすぎて、やはり追いつけなくなる。比較できる唯一の馬はキングストンタウンだ。先行して、さらに加速を求められるとそれに応え、後続を置き去りにした。

この走り方が、カーインライジングを追う馬たちに何をもたらすかを見てほしい。2着のコパートナープランスは、800mから600mまでの200mを、カーインライジングとまったく同じラップで走っている。

しかし、そこから苦しくなっていく。残り400mではすでに3馬身離され、そこからカーインライジングが10秒44を叩き出した。過去2年以上にわたって戦ってきた他のすべての馬と同様、コパートナープランスも失速した。

あのレースで、最後の400mを22秒40未満で走った馬はほかにいない。直線入口に差しかかる頃には、後続はすでに全力だった。だが、カーインライジングはそこから走り始めたも同然だった。

ザック・パートン騎手は以前から、ペースが速くなればなるほど、この馬には好都合だと話している。

KA YING RISING, ZAC PURTON / G3 HKSAR Chief Executive’s Cup Handicap // Sha Tin /// 2026 //// Video by HKJC

昨年のジ・エベレストで2着に入り、土曜に今季初戦のコンコルドステークスを勝ったテンプテッドを例に取ろう。正真正銘のG1級スプリンターで、今回の休養明けではさらに成長している。自身も終盤に速いラップを刻める馬だ。

ただし、その末脚は前から離れた位置で脚をためることで生まれる。カーインライジングに本気で挑むなら、道中でもっと近い位置につける必要がある。

問題は、ほとんどの一流馬と同じように、後方でエネルギーを温存してこそ、あの末脚を繰り出せることだ。

前との差を詰め、道中で脚を使った時にも、これまで見せてきたような末脚を使えるのか。たいていの場合、答えはノーだ。競馬の歴史を見ても、ほとんどの馬にはできなかった。

だからこそ、カーインライジングは怪物なのだ。

ジ・エベレストでこの馬が敗れるとすれば、馬自身に何らかの異変が起きた時だけだろう。パートンの乗り方なら、不利を受けることもない。

常にトラブルとは無縁の位置にいるからだ。前が飛ばしすぎれば、その後ろに控える。誰も先頭に立とうとしなければ、自ら逃げる。前に馬を置いた3頭分外の位置になったとしても、何の問題もない。カーインライジングは行きたがらず、落ち着いて走れる。

ランドウィック競馬場の坂の頂上からは、どの位置にいようと加速する。3頭分外でも、内ラチ沿いでも、どこでも関係ない。周囲の馬より、ただ強いのだ。

ウェイン・ホークス調教師が、カーインライジングは3頭分外を回ってジ・エベレストを勝つことはできないと話しているのを聞いた。おそらく、4頭分外でも勝てるだろう。

昨年のジ・エベレストで、カーインライジングが本来の走りを見せていなかったことは明らかだった。日曜の走りが、今年はその真価を見られる兆しであってほしい。

ただ勝つところが見たいのではない。圧倒的な走りで、その強さを示してほしい。

ザック・ロイド騎手は別次元へ、その進化を示した一鞍

ザック・ロイド騎手がスターになることは、初めから分かっていた。私は父のジェフ・ロイド騎手と一緒に騎乗し、ザックのことも子供の頃から知っている。

この数年、豪州の騎手を見渡しても、「この若者が正しく導かれれば、頂点まで行く」と思えたのは、ザックただ一人だった。

ただし、見習騎手時代からスーパースターだったわけではない。非常に優秀ではあったが、ミスも犯した。積極的になりすぎ、仕掛けるタイミングも正しくなかった。その代償は、裁決室でも、本来なら勝てたはずの馬に乗ったレースでも払うことになった。

今では、そうしたミスがなくなった。どんな騎手でも間違いは犯すが、優れた騎手ほどその数は少ない。この6カ月で、ザックはスーパースターへと変貌した。

G3・サンドメニコステークスでゲストハウスに騎乗した時のレースを見てほしい。内ラチ沿いで逃げ馬の後ろにつけ、進路がなかったが、じっと待った。スペースが開くと、そこを突き、馬も抜けてきた。

2、3年前なら待てなかっただろう。焦って外へ出そうとし、直線入口で無理に進路を求め、おそらく他馬を妨害していたはずだ。

我慢することの大切さを身につけた。若い騎手に教えるのが最も難しいことだ。以前より内ラチ沿いを走るようになり、距離のロスを抑えている。自信も週を追うごとに増している。

父ジェフの影響は大きいと思う。事実として知っているわけではないが、もしザックが私の息子ならどうするかは分かる。すべてのミスを指摘し、甘いことは言わない。

ジェフはチャンピオンジョッキーだった。ザックの何が間違っているのかを正確に見抜き、きっと修正したのだろう。オフシーズンに英国へ行ったことも役立っている。ほかの騎手の乗り方や、別の土地でレースがどう流れるかを見て学べば、帰国する頃には以前より優れた騎手になっている。

ザック・ロイド騎手とジェームズ・マクドナルド騎手が、現在のオーストラリア競馬で最も優れた2人だ。3番手との差は、今や大きく開いている。

Guest House winning the G3 San Domenico at Rosehill
GUEST HOUSE, ZAC LLOYD / G3 San Domenico Stakes // Rosehill /// 2026 //// Photo by Jeremy Ng (Getty Images)

ムチ使用違反への異議申し立て、競馬当局は安易な道を選んだ

豪州の競馬当局者はまたしても、自ら定めたムチの規則を理解していない。

今回は、ムチ使用違反を理由に関係者が着順に異議を申し立てる権利を奪うという判断を誤っただけではない。裁決委員は、完全に白旗を揚げたのだ。

「異議申し立てを廃止する」のは、自分たちには判断が難しすぎたと認めることに等しい。それは弱さである。

ムチの使用が結果を変えたかどうか判断できないのなら、裁決委員であるべきではない。私はレースを見れば、ムチが馬にどのような影響を与えたか分かる。実際にレースで騎乗したことのある人なら、誰でも分かるはずだ。

ゴールデンスリッパーのようなレースで、これが何を意味するか考えてみてほしい。勝った牡馬には4000万~5000万豪ドル(約45億~56億円)の価値がつく。2着なら1000万~1500万豪ドル(約11億~17億円)だ。

この制度なら、騎手は騎乗停止と罰金を受け入れ、馬主が罰金を負担すればいい。それでも狙う価値があまりに大きいからだ。もはや、規則を破るリスクは残っていない。

これのどこが公平なのか、誰か教えてほしい。先頭でゴールした馬の騎手が規則を破ってハナ差で勝ち、2着馬の騎手は規則を守っていた。それなのに、なぜ違反した側が1着のままでいいのか。2着馬の馬券を買った人は、どう守られるのか。

現役を引退した日から、賞金額が上がり、G1がはるかに増えた今に至るまで、もう一度乗りたいと思ったことは一度もない。だが全盛期の自分に戻り、残り300mのゴールデンスリッパーを戦ってみたいとは思う。

間違いなく勝てるからだ。大レースに勝つためなら、私は100パーセント規則を破る。トップ騎手の大半も、正直に答えれば同じだろう。

2008年、ある競馬当局者から電話があり、新たなムチ規則を導入する予定だが、どう思うかと聞かれた。私は「うまくいくはずがない」と答えた。実際、うまくいっていない。その後も規則は何度も変更されたが、世界中で騎手による違反が続いている。

残念ながら、競馬当局者はまるで分かっていない。なぜ騎手が制限回数を超えるのかを理解すべきだ。レースの最中はアドレナリンが高まり、勝とうと必死になっている。回数など数えていない。競馬当局者は、数えることが簡単だと思っている。そんなことはない。

規則が存在すること自体に異論はない。しかし、規則は守られなければならず、違反しても結果が伴わない規則は規則ではない。

ムチを過剰に使うことと、馬に能力向上薬を使用することに違いはない。どちらも、本来なら得られない優位性をもたらす。競馬界は薬物を排除した。一方、ムチは騎手の安全に必要なため、なくすことはできない。

規則には、違反に対する相応の代償が必要だ。そして騎手にとって最大の代償は、レースを失うことである。

これは危険な前例になると思う。新規則が施行される10月1日以降は、規則を破ってレースに勝つことが、公式に認められるも同然になる。

豪州競馬の裁決委員は、騎手の安全確保では世界トップクラスであり、他馬への妨害を裁くことにかけては世界一だ。ところが、ムチの規則となると判断できない。

規則を設けるなら執行すべきだ。そうしないのなら、最初から規則など設けなければいい。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

シェーン・ダイの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録