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巧みな手綱捌き、秀逸なレースセンス、ゴール前での勝負強さ、そして優れた身体能力を持つザック・パートン(ザカリー・パートン)は、歴代トップクラスのジョッキーと言えるだろう。

騎手として目立ったウィークポイントはない上に、香港競馬での信頼や厩舎とのコネクションといった『場外戦』でも隙はなく、完璧な騎手を体現したような存在だ。

パートンの優れたバランス感覚や、仕掛けどころでの判断力は高く評価されている。かつては体重制限の問題に悩まされたこともあったが、プロ意識の高さで乗り越え、香港競馬を代表する騎手の一人となった。彼の忙しさを考えれば、これは驚異的である。

パートンの家族に競馬関係者はいない。彼は、オーストラリアのニューサウスウェールズ州、北中海岸地域のコフスハーバーという自然豊かな街で幼少期を過ごした。ニュージーランドのネルソン、南オーストラリア州のマウントガンビアに住んでいたこともあるという。

パートンが初めて馬と出会ったのはネルソンで、その後マウントガンビアでもスタンダードブレッド種の馬と触れ合っていた。

パートンは平均より小柄な身長だったが、運動神経は抜群で、心肺能力も高かった。

故郷のコフスハーバーに戻ったパートンは14歳で学校を辞め、地元に厩舎を構えるトレバー・ハーディ(Trevor Hardy)調教師に弟子入りした。パートンを騎手として育てたのは彼だが、ハーディはこう語る。

「みんなから『凄い仕事じゃないか』と褒められるが、別に私の手柄というわけではなく、彼に素質があっただけですよ。ただ、人としての成長には貢献できたかもしれませんね」

パートンの母親、リズは当時の息子についてこう振り返る。

「彼はレースが終わって馬から降りた途端、馬主に向かって『この馬はロバだ』と言い放ったんです。まあ、言いたくなる気持ちは分かりますが、馬主本人に向かって言うべきことでは無いですよね」

ハーディは荒削りなダイヤの原石だったパートンを磨き上げ、立派な騎手へと成長させた。次第に騎手として頭角を現し、2003年には見習い騎手ながらブリスベン地区のリーディングジョッキーとなった。

シドニー地区に拠点を移すと、2年連続でダレン・ビードマン騎手に次ぐリーディング2位となり、2007/2008シーズンから香港競馬に移籍した。

パートンは香港で現在の地位を築くまで、多くの苦労を重ねてきた。ダグラス・ホワイト騎手やジョアン・モレイラ騎手といった強力なライバルがひしめき合っており、有力な調教師たちから信頼を勝ち取るには時間を要した。

2023/2024シーズンには新記録となる179勝を挙げ、6度目の香港リーディングジョッキーを獲得したが、宿敵であるホワイトとモレイラはその時既に香港を去っていた。

パートン最大の偉業と言えば、この2つが挙げられる。

一つ目は、モレイラとの激闘の末に首位を勝ち取った2021/2022シーズンのリーディング争いだ。シーズン最終日、絶好調のパートンは4勝を稼いだ一方、モレイラは勝ち星を挙げられなかった。最後の最後で明暗が分かれ、長きに渡る大激戦に終止符が打たれた。その年、パートンは5度目のタイトルを手にしたのだ。

もう一つは、ホワイトが樹立した香港通算最多勝記録を塗り替えた功績だ。2025年1月22日、ハッピーバレー競馬場でビューオブザワールドに騎乗し、通算1814勝目を挙げた。この瞬間、パートンはホワイトを抜いて単独首位に浮上し、歴史にその名を刻んだ。

Zac Purton

かつて香港競馬を席巻した、ジョン・ムーア厩舎のパワフルな先行マイラー、ビューティージェネレーションとのコンビは最も有名だろう。怒涛の10連勝を含め、このコンビでは通算で14勝を挙げた。

2018/2019シーズンはこのコンビで8戦8勝、無敗で1年を終えている。

ハッピーバレー競馬場の条件戦を見ていると、パートンの巧さがよく分かる。非常にトリッキーなこの競馬場はスタート、位置取り、そしてレースペースの判断力が全てを分ける勝負の鍵となり、パートンはそれに見事に対応している。

G1での名騎乗だと、2つの名レースが思い浮かぶ。2013年のドミナントで制した香港ヴァーズは、パートンの鋭い洞察力と仕掛けのセンスが垣間見えた。12番枠に入ったドミナントは、単勝13倍の穴馬と見られていた。レースが始まると最後方ラインに位置し、最終コーナーの辺りで捲り気味に進出開始。人気馬たちをまとめて負かした。香港ヴァーズは北半球のステイヤーが席巻していたレースのため、ドミナントの勝利は15年ぶりの地元香港馬による勝利だった。

2015年のG1・高松宮記念、エアロヴェロシティが勝ったときのレースも、パートンの冷静さが際立っていた。エアロヴェロシティにとっては不利な稍重馬場だったが、冷静にコーナーで加速体制に入ると、直線では鋭い伸び脚を見せた。パートンは追える豪腕騎手としても知られているが、このレースではオーストラリア人騎手らしい巧みな手綱捌きも見れた。

パートンとジョアン・モレイラのライバル関係は、香港競馬そのものを新たなる高みへと押し上げた。10年間でパートンは6回、モレイラは4回もリーディングジョッキーのタイトルを獲得した。しかし、パートンを最も苦しめた相手である、ダグラス・ホワイトとのライバル関係はさらに熾烈なものだっただろう。

パートンの前に立ちはだかり、リーディングのタイトルを防衛し続けたのはホワイトという巨人だった。ホワイトは2000/2001シーズンから13年連続でチャンピオンを獲得していた。2012/2013シーズンになると王座を脅かす存在としてパートンが台頭し始めるが、今度はその一挙手一投足に注目が集まり始めた。『どちらかがレース中に潰しに行った』のような些細な出来事にも関心が集まるようになり、時にはマスコミを介した言葉の応酬も見られた。

ホワイトからパートンに乗り替わりとなったアンビシャスドラゴン、ホワイトの新たな相棒となったグロリアスデイズの2頭によるライバル関係は、今となっては伝説だ。

大接戦の末、グロリアスデイズに軍配が上がったG2・ジョッキークラブマイルでは、ホワイトはパートンを指差して挑発したとして裁決委員から非公式の警告を受けた。アンビシャスドラゴンが逆転した香港マイルでは、パートンが反撃とばかりにホワイトを指差しながら捲し立てる光景が見られた。

ホワイトは現在調教師に転身しているが、あの頃のわだかまりはもう無いようだ。先述にあった2021/2022シーズン最終日の4連勝には、ホワイト厩舎の管理馬での勝利も含まれている。

パートンはナショナルラグビーリーグ(NRL:13人制のラグビーリーグ)のシドニー・ルースターズの大ファンとして知られているが、いくつかの共通点を見出すことができる。

ルースターズが歩んだ歴史は、パートンのキャリアと重なる部分がある。かつてのルースターズは労働者階級の地元チームだったが、現在は国を代表するエリートチームへと進化している。最近、ルースターズの試合ではビールよりシャンパンの方がポピュラーだという。コフスハーバーの一般市民として生まれたパートンも、香港で一流へと成長し、国際的なファッション雑誌に登場し、一流レストランで食事をするセレブとなった。

常に誇りと期待を併せ持つルースターズは、時に傲慢の象徴だと批判される。しかし、その度に結果を出して黙らせてきた。パートンにも同じことが言えるのではないだろうか。欲しいのは人気でなく、目の前の一勝だ。香港では、彼より圧倒的な成績を残した者はいない。

2023年、シドニー地区で騎乗中だったパートンは、ルースターズに招待されてチームメンバーと対面している。

パートンの妻、ニコールさんは殿堂入りジョッキーのジム・キャシディ元騎手の娘だ。2人の間には、キャッシュとロキシーという2人の子供がいる。

2016年、パートンはG1・サイアーズプロデュースSをヤンキーローズで制した。調教師のデイヴィッド・ヴァンダイクは、パートンの優れたバランス感覚についてこう述べた。

「彼の騎乗フォームは本当に美しい。騎手が馬に騎乗する写真を撮るとしたら、これが理想的な題材だろう」  

Zac Purton celebrates another Hong Kong win

Purton Recalls Whyte’s Push Button Prank

【各不相讓】潘頓回想電梯整蠱事件

ザック・パートン騎手、ダグラス・ホワイトのいたずらエピソードを暴露

Zac Purton spoke to The Idol Horse podcast about aspects of his career, including the respect he has for Douglas Whyte and how the competitive edge stretched to an off-track prank.

潘頓在節目《The Idol Horse Podcast》談到其職業生涯的林林總總,包括他對韋達的尊敬,以及競爭如何從跑道內延伸到賽場外。

ザック・パートン騎手が、『The Idol Horse Podcast』で自らのキャリアの様々な側面について語った。話題はホワイト調教師への敬意や、競争心が引き起こしたレース外でのいたずらにまで及んだ。

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1,814: Zac Purton’s Record By The Numbers

【1814場】潘頓在港頭馬全面統計

1814勝: 数字で見るザック・パートン騎手の偉業

Zac Purton’s path to history has been far from straightforward. The statistics paint a fascinating portrait of his storied Hong Kong career so far.

潘頓締造歷史之路並不平坦。我們統計了他的成績,描繪出他至今在香港的傳奇策騎生涯。

ザック・パートン騎手が、香港における最多勝利数でダグラス・ホワイト元騎手の記録を更新した。その軌跡を統計的に分析した。

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Zac Purton and Ka Ying Rising

あの鐘を鳴らすのは: パートン騎手が歩む前人未踏の頂への道のり

騎手、調教師、ファンを問わず、最近香港競馬の世界に入ってきた人々が知るザック・パートンの姿は、競馬界に君臨する圧倒的な王者としての姿だけである。しかし、彼はこれまでの香港のチャンピオンたちとは違った道のりを辿ってきた。

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Hong Kong trainer Douglas Whyte

Whyte Gives Respect As Purton Closes On His Record

D・ホワイト騎手、記録に迫るZ・パートン騎手を賞賛

Douglas Whyte’s epic Hong Kong win record is about to fall to Zac Purton and the all-time great is happy to celebrate the feat with his ‘worthy’ one-time rival.

ダグラス・ホワイト騎手の香港における偉大な勝利記録は、まもなくザック・パートン騎手によって更新されようとしている。この元ライバルに「相応しい」偉業を、ホワイト騎手は喜んで祝福しようとしている。

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世界のスタージョッキーたち

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