2019年以来初めて、香港のマイラーたちは年末の大一番、G1・香港マイルをゴールデンシックスティという絶対的な存在抜きで迎えることになる。この偉大な馬はつい先日引退し、香港マイルでは3勝と1回の僅差の2着という輝かしい記録を残した。

ゴールデンシックスティが引退し、今は彼が手にしていた香港マイル王者の座は空白の状況となっている。今後2か月間で、その座を奪う新王者が決まるだろう。特に日曜のG2・シャティントロフィー(1600m)や、11月のG2・ジョッキークラブマイル、そして本番の香港マイルがその候補を大きく絞り込むことになる。

2022年の香港マイルでゴールデンシックスティを破ったカリフォルニアスパングルは、過去シャティントロフィーを2勝しているが、今年はスプリント路線を進む予定だ。

「まだ混戦だと思う。実力のある馬がその王座を掴むチャンスは十分にある」と、リーディングジョッキーのザック・パートンはIdol Horseに語っている。

猛者たちの意気込み

パートンが現在主戦を務めるのは、昨シーズンのG1・チャンピオンズマイルを制したビューティーエターナルだ。ジョン・サイズ厩舎所属のこの6歳馬は、その勝利によってマイル路線の第一線に立っている。

そして、ピエール・ン厩舎のギャラクシーパッチも有力候補だ。この5歳馬は昨シーズン、香港ダービーで2着となりシーズン終盤にはG3レースを2連勝しているが、これは1年前にビューティーエターナルが見せた結果と類似している。

ゴールデンシックスティの主戦で、ギャラクシーパッチをこの2つのG3レースの勝利に導いたヴィンセント・ホー騎手は、この馬がG1レベルのスターになる素質を十分に備えていると考えている。

「彼はG1を勝てる素質を持っていると思うよ」と、ホーは語った。

Galaxy Patch
GALAXY PATCH, VINCENT HO / G3 Premier Plate // Sha Tin /// 2024 //// Photo by HKJC

一方、リッキー・イウ厩舎の2023年香港ダービー馬ヴォイッジバブルも、マイル界の頂点を狙う上で有力な存在だとイウ調教師は確信している。

「面白い展開になるだろうね」とイウ調教師は言い、さらに自信たっぷりにこう続けた。「ゴールデンシックスティが引退した今、この馬はマイル戦で他に負けない力があると思うんだ。元々この馬は優れたマイラーだと思っていたよ。ダービーでの勝利は少し幸運に恵まれただけで、真の実力はマイルにあると感じているよ」

これら3頭の有力馬は全て、今週末のシャティントロフィーでシーズン初戦を迎える予定だ。同レースにはビューティーエターナルと同厩で、昨シーズンのチャンピオンズマイルで2着に入ったレッドライオンも参戦する。

ハンデ戦の妙味

シャティントロフィーはG1馬たちにとってごく普通のシーズン初戦のレースだが、今回の条件ではヴォイッジバブルがトップハンデの135ポンドを背負い、10頭立ての下位3頭の軽量馬に20ポンドのハンデ差があることになる。

一方、ビューティーエターナルは131ポンド、ギャラクシーパッチは129ポンドを背負うことになる。しかし、これは香港競馬の仕組みの一部であり、最強馬たちが過酷な斤量に対処しなければならないことが香港競馬の魅力の一つだ。

「彼らには他に行く場所がないんだ」とパートンは言う。「シーズンの初戦をこなし12月の最初の大一番に向けて準備を進めたいなら、これらのレースに出るしかない。避けて通ることはできないし、できることも限られている。斤量のハンデもあるし、現時点では調整も万全とは言えないけれど、彼らの格を信じて状況が整えば十分に対応できるはずだ」

ヴィンセント・ホーにとっても、このようなレースがもたらす挑戦には慣れている。

「こういうレースでは展開次第なんだよね。大体スローペースで進むけれど、今回は数頭が前に行きそうだし、中盤でペースが落ちるかもしれない。その後、レースがどう展開するかが鍵になる」

「軽ハンデ馬も無視はできないよね。115ポンドの軽量で好調な馬もいるし、こういうレースでは有利でもある。でもギャラクシーパッチなら追い込んでいけると思うし、そういう乗り方が彼には合っているんだ」

リッキー・イウも、6歳馬のヴォイッジバブルに信頼を寄せている。このセン馬は、今年1月のG1・スチュワーズカップでマイル戦を制した実績があるが、6月の東京で行われたG1・安田記念では完敗している。

「初戦で重い斤量を背負うのは心配だけど、それ以外はそんなに厳しいレースではないと思う。うちの馬なら十分に対応できるし、2着以内に入れると楽観的に考えているよ」とイウは語った。

Voyage Bubble contests G1 Yasuda Kinen
VOYAGE BUBBLE / G1 Yasuda Kinen // Tokyo /// 2023 //// Photo by Shuhei Okada

期待の新星?

ギャラクシーパッチは、多くの人がG1馬候補という評価をしており、その点では昨年のビューティーエターナルと同じ立場にある。大きな期待がかかる新星として注目されているのだ。

「国際G1レースでも通用する素質はあると思う。昨シーズン彼が見せたパフォーマンスを考えれば、間違いなく優れた馬だとわかるはずだ」とホーは語る。

ギャラクシーパッチは昨シーズン、ハンデ戦から始動し1200m戦で5戦中4勝を挙げた。さらには1000mにも出走し、1400mのG1で2着、2000mのダービーで2着、1600mと1800mでG3を勝利している。

「様々な距離で好走できる馬はかなり例外的な存在だ。彼はまだ若くレースの駆け引きを学んでいる途中だ。時々状態が良すぎると掛かってしまうこともあるけど、ピエール先生は彼をうまく管理しているので、レースではその分楽になるはずだ」とホーは続けた。

ビューティーエターナルもちょうど昨年のこの時期に、”レースを学んでいる途中”だったが、その後、失敗を重ねながらもG2・ジョッキークラブマイルを制し、シーズン終盤にはG1勝利を手にした。

「ビューティーエターナルにはもっとポテンシャルがあったと思うが、それを完全に発揮できていないと感じていた。でも、チャンピオンズマイルでは全てがうまくいき、彼がいいリズムに乗るとその本当の実力を発揮したんだ。それをコンスタントにできるかどうかが今後の課題になる」

「ゲート内で少し落ち着きがなく、スタートの瞬間にしっかりと地面を捉えられないことがある。だから、スタートで半馬身ほど遅れてしまうことがあるんだ。少し押されるだけで掛かってしまい、無駄に力んでしまう」

「そうなるとチャンピオンズマイルを勝った日のようなレースができないが、ペースが整ってリズムよく走り呼吸がスムーズで快適に進めば、彼は間違いなく一流の馬だ」とパートンは語る。

Beauty Eternal wins Champions Mile
BEAUTY ETERNAL, ZAC PURTON / G1 Champions Mile // Sha Tin /// 2024 //// Photo by HKJC

サイズ厩舎の最も評価の高いこの馬について、パートンは今シーズンで少し成長の兆しを見せていると感じているようだ。

「今シーズンここまでの彼の様子を見ていると、精神的に少し落ち着いてきているように思う。でも、レース当日になると全く違う馬に変わるんだ。レース本番でどうなるかを見てからじゃないと安心はできないね」

一方で、イウはヴォイッジバブルに対して心配は全くないようだ。

「順調に仕上がっているし、彼には非常に満足している。2回の追い切りも問題なくこなした。最近の調教を見ても調子は上向きだし、彼は着実に成長している。彼はよくやっているし仕事が大好きな馬なんだ。いつも飼い葉をきちんと食べるし扱いやすい馬だ」

ただ、昨シーズン海外での2戦は不調だったため、イウはしばらく海外遠征の予定は考えていない。「左回りのレースが合わなかったようだ。だから当面は香港に専念する」とイウは説明する。

だが、海外遠征を考えるのはまだ先のことだ。目の前にあるのは香港マイルという大舞台だ。香港での頂点を目指すこの戦いでは、シャティントロフィーがその第一歩となる。

「大事なのはこのレースでポジティブな結果を出し、今後の重要なレースに向けて何を期待できるのかを確認することだ」とホーは言う。

この言葉は、出走するすべての陣営に共通する思いだろう。最終的に目指すのは、香港マイルの栄光に他ならないのだから。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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