Aa Aa Aa

もし、香港競馬で新たに騎乗する騎手に助言するとしたら。私の言葉はシンプル、3つだけだ。

距離損を避けること。出遅れを無理に取り返しに行って傷口を広げないこと。そして内枠を生かそうとして無理をしないこと。

どれも基本的な話に聞こえるだろう。実際、基本そのものだ。だが、香港ではその基本こそがすべてになる。なぜなら、香港ではミスはほとんど許されないからだ。

ハンデ戦が中心の香港競馬では、斤量設定は非常に公平で、各馬の力量差もきわめて小さい。1馬身の中に1着から5着まで収まることすらある。どのレースも12頭か14頭立て、どの馬も勝負になる。勝てたはずの馬が4着に終わるかどうかは、最初の400mで騎手がやったこと、あるいはやらなかったことの小さな差で決まることが多い。

エネルギーは少しも無駄にできない。1メートルたりとも余計に走れない。そしてミスは必ず代償を伴う。外を回る余裕はない。序盤で脚を使いすぎる余裕もない。思い通りにいかなくても慌ててはいけない。

実際、どのレースもそうだが、馬群が横一線でゴールへ飛び込む時、もっともスムーズに運び、もっとも距離損を抑え、最後まで余力を残していた馬が、最後に鼻差だけ前へ出ることが多いのだ。

そこが香港競馬が他と違うところだ。オーストラリア競馬なら、頭の中に2つ、3つとプランを持っておいて、その場で微調整できる。全体の流れにもう少し余裕があるからだ。頭数も少ない。ペースにもまだ余裕がある。少し外を回っても勝てる。ゲートで後手を踏んでも押して立て直せる。

だが、香港競馬ではそれができない。序盤のペースは本当に速い。特に1200m戦や1400m戦では、オーストラリア競馬とは比べものにならない。勝敗が紙一重で決まるからこそ、無駄に使ったエネルギーは最後にそのまま表れる。

ハッピーバレー競馬場はさらに難しい。コースはタイトで、コーナーがきつく、上り下りもある。レースの途中でペースが一気に上がったり、逆に緩んだりもする。そのすべてに気を配っていなければならない。

私が14歳か15歳の頃、まだ初騎乗も迎えていなかった頃のことだ。最初に世話になったデイヴ・オサリバン調教師に、今でも忘れられないことを教わった。彼は地面に楕円を描き、その周りに紐を1本這わせた。次に、それよりひとつ外側にもう1本。そのさらに外側にもう1本。そして3本が重なるところで切って、空中に持ち上げて見せた。

紐の長さの差は驚くほど大きかった。その光景は私の頭に焼きついた。いちばん短い道はラチ沿いだ。それは、私がレースでの騎乗について最初に学んだことのひとつだった。そして香港競馬では、ゴール前の差がこれほど小さいだけに、その教訓がどこよりも重要になる。

だから私は、初めて香港で乗るどんな騎手にも、この3つを伝えたい。毎週のように、まだ香港仕様に切り替えきれていない実力ある騎手たちが同じミスをするのを目にしているからだ。そしてその差が、勝ち馬に乗るか、勝てたはずの馬で取りこぼすかの違いになる。

距離のロスを「軽視するな」

香港競馬において、ラチ沿いがどれだけ重要かは結果を見ればすぐに分かる。

日曜のシャティン開催を振り返ってみよう。全11レースのうち、直線競馬が1つあり、それを除くと、コーナーを回るレースは10競走あった。そのうち8勝はラチ沿い。残る2勝もそのひとつ外だった。それだけだった。外を回して勝った馬はいなかった。

しかも、これは珍しいことではない。毎週のように起きている。

多くの騎手に見られる問題は、特にオーストラリアから来たばかりの騎手に顕著だが、前の空いた進路を取りたがることだ。

オーストラリア競馬では、少し外へ出しても、前が開ければ馬を伸び伸び走らせることができる。流れにも余裕があるから、それでも最後には間に合う。

香港競馬ではそうはいかない。頭数は多く、ハンデ差はきわめて小さい。2m、3mでも余計に走れば、それだけで勝負圏から外れたも同然だ。ゴール前の差がそれほど小さいのである。

問題は距離だけではない。速い流れの中で外を回される馬は、道中ずっと余計に脚を使っている。一方でラチ沿いの馬は、内で脚をため、ロスなく運べる。余計な脚をほとんど使わずに済む。

残り200mで脚を使う場面になると、その差が出る。内でじっくり運べた馬にはまだ余力がある。外を回された馬は、たとえよく走っていても、同じようには加速できない。香港では、そのひと伸びこそが勝敗を分けるのだ。

その点をまさに示していたのが、先日の日曜開催で、カリス・ティータン騎手がノーティカルフォースで見せた見事な騎乗だった。

あの馬は気性面を考えて、後ろでじっくり運ぶ必要がある神経質なタイプだった。そこでティータンは、前へ出したり外を回したりせず、うまく内へ入れて終始ロスなく運んだ。そして勝負どころでちょうどいいタイミングで進路を確保し、勝ち切った。

レース後、ジョン・サイズ調教師は、もしティータンが別の乗り方をしていたら勝てなかっただろうと話していた。その通りだ。香港で勝つのは、ああいう騎乗である。距離損を避けることだ。

もちろん、いつもラチ沿いの進路があるわけではない。前が詰まってうまくいかないこともある。だが多くの場合、狙うべきは勝ち筋はやはりラチ沿いにこそある。

出遅れても「無理に取り返すな」

まず言っておきたいのは、騎手が出遅れるわけではないということだ。

レース後、調教師が来て「どうして出遅れたんだ?」と言うのを聞くと、私は腹が立つ。ゲートの中でスタートを待っている時、騎手はぼんやりしているわけではない。やるべきことは、スタートに集中することしかない。

出遅れるのは馬の方だ。脚を替えることもあるし、ゲートの中で腰を落とすこともある。初めてブリンカーを着けている馬なら、ゲートが開いた瞬間にうまく反応できず、スタートが遅くなることもある。

それは騎手の責任ではない。だが騎手は、毎回その責任を負わされる。

そのあと何をするかは、騎手次第だ。そして香港競馬では、そのあとの対応が非常に重要になる。

馬が出遅れた時、とりわけプレッシャーを感じている若い騎手が陥りやすいのは、すぐに押して失った位置を取り返そうとすることだ。調教師からは前々でと言われていた。想定では先行3番手以内のはずだった。見ている側も、そこにいるものと思っている。だから位置を取り返そうとして追い始める。

それだけは避けなければならない。香港競馬の序盤のペースは本当に速い。特に短い距離では、オーストラリア競馬のそれよりずっと速い。

そこで位置を取り返そうとして押せば、馬に無理な脚を使わせることになる。そして、たいてい結末はふたつのどちらかだ。前へ行こうとして序盤で余計に脚を使ってしまい、直線で何も残らない。

あるいは、こちらの方がさらに悪いのだが、猛烈な前半のあとでペースが少し落ちた時に馬群へ取りついたとしても、馬の気持ちはもう前へ前へと向いてしまっている。落ち着かせられないこともある。行きたがって力み、引っ掛かってしまい、勝負どころに来た時にはもう勝てる力は残っていない。

正解は、何もしないことだ。馬に任せて、慌てずに構えていればいい。ペースは必ず落ちる。そうなれば、馬は何も無駄な脚を使わずに自然と差を詰めていく。そうすれば、残り200mに必要な脚を残せる。

この点を完璧に示したのが、4月12日のシャティン開催で、ジョアン・モレイラ騎手がフォルツァトロに騎乗した時だった。馬はゲートが開いた瞬間に立ち遅れ、約7馬身の出遅れになった。

しかし、モレイラは押さなかった。慌てもせず、馬に任せ、自分のリズムで馬群に取りつかせた。

終始ロスなく運び、最後に脚を使わせて、アタマ差の2着まで持ってきた。敗れはしたが、非常に価値のある内容だった。あれこそ経験というものだ。最初のプランを捨て、その時に目の前にある状況に応じて乗るだけの自信である。

若い騎手の多くは、まだそれができない。調教師も、馬主も、裁決委員も、まわりの声はすべて脇に置いて、「もう最初のプランは消えた。いまこの馬に必要なのはこれだ」と判断できなければならない。

香港競馬へ来るなら、それを早く身につける必要がある。

内枠を「無理に使い過ぎるな」

これも毎週のように見かける。馬が1番枠を引くと、騎手はラチ沿いの3番手を確保しようとして、ゲートを出てから押して押して位置を取りに行く。

だが多くの場合、無理に押す必要はない。レースの序盤の流れが自然にその位置へ連れていってくれたはずだからだ。

つまり、こういうことだ。1番枠を引き、前に壁を作ったラチ沿いの3番手を取りたいと分かっている。だから確実にそこを取ろうとして押し続ける。そうして実際にラチ沿いの3番手は取れたとする。

だが、そこへ行くまでに馬の本来のリズムを崩してしまっている。使わなくていいエネルギーを使ってしまっているのだ。

残り200mで、本来なら脚を使って抜け出せるはずのところで、それができない。もう脚がない。そこで使うはずだったエネルギーをすでに使ってしまっているからだ。見た目の位置は、じっとしていた場合と同じでも、馬はもう別の馬になっている。

必要なのは、何がハナへ行くのか、そして外の枠から何が来るのかを把握することだけだ。それが分かっていれば、押さなくても自分がどこへ収まるかは計算できる。

2番枠に入った先行馬がいて、ハナへ行きたがっているなら、行かせればいい。その後ろへ潜り込めばいい。競りかける必要はない。レースの自然な流れに任せれば、必要な位置に、しかもまだ脚を残したままで収まることができる。

データ重視の馬券購入者が、外枠を引いた逃げ馬を狙うのも、まさにこのためだ。外枠の逃げ馬は、必ずしも無理に押してハナを取りに行く必要がない。自然に前へ行き、そのままペースを支配し、そこへ行くまでに余計なエネルギーを使わずに済むからだ。

しかも外から来る時には、しばしば馬場のより良い部分、まだ荒れていない箇所を通れる。内は荒れていることがある。だが1番枠に入って、外から先行馬が来る形になると、本能が先に立つ。プレッシャーを感じて、押してしまう。そして、そこで馬のエネルギーが失われる。

それでは、せっかくの内枠の利点が消えてしまう。1番枠からそれだけ強く押すのなら、結局は外から無理に位置を取りに行くのと同じだけのエネルギーを使っているからだ。

私はこれを、どこよりもハッピーバレーでよく目にする。コースはタイトで、着差はごく小さい。どうせ自然に取れたはずの位置を守るためだけに、最初の400mで馬を押してしまえば、1番枠から得られるはずだった利点はもう失われている。

言いたいことはシンプルだ。内枠を引いたなら、まず各馬の脚質と想定ペースを把握し、どの馬が外から来るのかを読んで、慌てないことだ。

そして何より、香港競馬で初めて騎乗する騎手に私が伝えたいのはこういうことだ。あなたがここにいるのには理由がある。あなたは優れた騎手だからだ。馬を信じ、自分の腕を信じてほしい。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

シェーン・ダイの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録