2024 スプリンターズステークス: G1レビュー
競馬場: 中山競馬場
距離: 1200m
賞金総額: 3億2880万円 (約230万米ドル)
穴馬のルガルが波乱を巻き起こしたG1・スプリンターズステークスだったが、人馬ともにG1初勝利となった鞍上の西村淳也騎手はまさに感極まった様子だった。
この日の中山競馬場は雨の影響にあっての馬場状態で行われたが、香港から遠征してきた2頭や人気勢は凡走に終わるという、波乱の結果となった。荒れたレースを勝ち抜いた西村騎手の表情からは、安堵の様子が見て取れた。
杉山晴紀調教師にとっては今年G1初制覇、通算では5度目のG1制覇となった。これまでには、ジャスティンパレスやデアリングタクトといったG1馬を育てている。
レース展開
JRAのG1レースで逃げ馬が早いペースを刻むことは珍しいケースでもないが、ピューロマジックの逃げは凄まじいものがあった。単勝オッズは34.5倍の人気薄だったこの馬だが、残り1000mから800mまでの1ハロンは9.9秒、残り800mから600mの区間は10.4秒というハイペースでの逃げを披露。その後もペースは緩むことなく、残り600m地点の時点で早くも追い始める馬も現れた。
多くの馬にとって追走だけでも厳しいペースだったが、道中はキックバックも激しく(ジョアン・モレイラ騎手のコメントより)、さらに厳しい状況となっていた。それでも、ルガルは流れに上手く乗り、ハイペースの影響もあって1:07.0という早い勝ち時計で制した。

馬場状態
中山競馬場は直線が短く、カーブも多いトリッキーなコースだが、そこにレース前の雨が加わるとさらに荒れる可能性が高まる。6着に終わったビクターザウィナーのモレイラ騎手が残したコメントは、この日敗れた有力馬の走りを評価する際に役立つかもしれない。
芝コースは良馬場と発表されていたが、レース前に降った雨、それがたとえ少量であっても、波乱を巻き起こした要因になっていた可能性は捨てきれない。モレイラはビクターザウィナーにとって理想的な競馬となる前を見ながらの追走でレースを進めたが、勝負どころで失速、勢いを失った。
「800mを過ぎた辺りから芝は荒れ気味で馬場状態は悪くなり、後方の馬たちは顔に猛烈なキックバックを浴びる形に。それで失速してしまいました」とモレイラは説明する。
「その時点でビクターザウィナーは手応えが悪くなり、離されないように追い始める必要がありました。馬場の影響も少しはあったとおもいますが、それは他の馬にとっても同様なので…」
また、『縁起』を大事にする競馬ファンの中には、ビクターザウィナーとモレイラは14番枠を引いた時点で終わっていたと見る者もいた。香港ジョッキークラブのCEO、ウインフリート・エンゲルブレヒト=ブレスゲス氏も指摘しているが、広東語での14という数字の発音は『死ぬ(實死)』という言葉の空耳に聞こえるそうだ。
香港からの遠征馬はムゲンもいたが、こちらは末脚不発で後方に沈む結果に終わった。
1番人気のサトノレーヴは3連勝中の実績から人気を集めたが、レースでは上位争いに加わることはなく、中団のまま7着でゴールとなった。
注目馬たち
2着のトウシンマカオと3着のナムラクレアは、中盤の勝負どころで位置取りを下げる場面もあったが、直線では鋭い末脚を見せて追い込んできた。
トウシンマカオの高柳瑞樹調教師はレース後、香港スプリントへの遠征を検討していると語っている。
33.2秒という最速の上がり3ハロンを記録したナムラクレアだったが、またしても惜敗に終わり、ファンはその結果を嘆くことになった。過去4回のスプリントG1も含め、これまでG1で3着以内に終わったレースは5回に上る。若手の長谷川浩大調教師にとって代表馬でもある5歳牝馬だが、香港遠征も簡単な選択肢ではなく、国内G1制覇のチャンスも徐々に遠のきつつある。
33.3秒を記録して上がり3ハロンで2位だったのは、ゴールデンイーグル制覇のオオバンブルマイだった。内枠からのスタートで出遅れ、最後方からの競馬を強いられて11着に終わった。この4歳馬にとって最適なマイルレースはあるのか、まだまだ模索は続きそうだ。

血統
ルガルの血統表を見ると、『G1スプリンター』という印象は感じられない。父のドゥラメンテは昨年のリーディングサイアー。現役時代は日本ダービーを勝っており、産駒も中距離場が多いスタミナ型の種牡馬だ。母父は2008年の英ダービー馬、ニューアプローチとなっている。
レース後コメント
杉山晴紀調教師
「G1レースはホースマンにとって本当に夢ですので、こうやって勝たせていただいて最高の思いです。馬の動きも、馬体も良く、良い調子だと思っていました。騎手とは今日の中山の傾向を考えて、スタートを出すだけと話していたので、それが決まった時点で厩舎の最後の仕事を終えたと思いました。あとは冷静に見ていられました」
「騎手もオーナーも初のG1制覇だと知っていたので、私も声に出して喜びが爆発しました。高松宮記念は1番人気を裏切ってしまったので、スプリンターズSには並々ならぬ決意で挑みました。牧場のスタッフの方々とも、しっかりと連携してやって、結果として出てうれしいです。今後は、海外も含めて色々な選択肢があります。馬の様子を見て、オーナーとも時間をかけて検討します。本当に馬に携わる仕事は大変ですが、本当にやりがいのある仕事だと思います」

西村淳也騎手
「本当に、騎手生活を続けてきてよかったです。杉山晴紀調教師や、杉山厩舎のスタッフ、関係者の方には一生懸命馬を作っていただき、感謝しています。高松宮記念では本当に悔しい思いをしていたので良かったです。競馬のことは何も覚えていないです」
「まず、感謝を伝えたいのは母親です。女手一つで僕を育ててくれました。騎手になってからはたくさんの方に支えられてここまで来られましたし、馬にも迷惑をかけたりしましたし、感謝したい人はたくさんいます。G1ジョッキーは目標のひとつでしたが、まだまだ僕の目標はいっぱいありますし、そこへ向けてもっともっと頑張っていきたいと思います」
今後は?
日本国内のスプリントG1は数が限られており、G1・香港スプリントが次の選択肢となってくる。ルガルや今回敗れた馬にとっては、必然的にここが目標となってくる。