香港ダービーデーまで、今日であと半年。長いようで、決して長くはない。
香港競馬の馬主なら誰もが勝ちたいレースだ。手元にそこそこ走る4歳馬がいれば、短距離馬だろうと長距離馬だろうと、最初に浮かぶ問いは同じ。「ダービーを走れるか?」である。
そこへ至る道は一つではない。ルガーやピンハイスターのように、遅れて頭角を現し、一気にクラスを駆け上がる馬がいる。ラッパードラゴンやゴールデンシックスティのように、3歳時にマイル路線で実績を積んでレーティングを上げ、4歳で2000mにも対応できるだけの力を備えた馬もいる。
そして今週取り上げたいのは、近年になく層が厚いもう一つのタイプ、『PP』だ。
まず、『PP』とは何かを指しているのか、簡単に説明しておこう。
馬が香港へ入る経路は三つある。PPG(個人購買の未出走馬)は、一度もレースを走っていない。ゴールデンシックスティやカーインライジングがこの経路で香港へ来た。
ISGも同じく未出走輸入馬の区分だが、こちらは香港ジョッキークラブ主催の香港インターナショナルセールで購入された馬が対象だ。ISGの中でもロマンチックウォリアーの実績は群を抜いている。PPGとISGはいずれもレーティング52からスタートし、実績を重ねて数字を上げていく。
一方、PP(個人購買の既走馬)は違う。国外ですでに出走して実績を残しているためだ。香港ジョッキークラブのハンデキャッパーがその成績に基づき、一定のレーティングを与えた状態から入ってくる。
2026年の豪G1・クイーンズランドダービーを勝ったプロヴィデンスは、今週、レーティング83を与えられた。香港移籍後はジェームズ・カミングス調教師の管理馬となる。
同年のクイーンズランドダービー出走馬から香港向けに購入された馬は6頭、同馬はそのうちの1頭だ。
かつてジョン・ムーア調教師が中距離馬で成功を収めた時代を思い起こさせる。例えば、2015年クイーンズランドダービーで2着に入り、その後2016年の香港ダービー馬となったワーザーのような馬だ。
ただ、はっきりさせておきたい。このクイーンズランドダービー組が豪州出身馬で「最も強い馬」というわけではない。しかし、手頃な価格で買える馬としては、おそらく最良の部類に入る。
豪州競馬ではニューサウスウェールズ州を中心に賞金が大幅に増え、この10年で総額は倍以上になった。本当に強い馬は豪州に残っても多額の賞金を稼げるため、香港の馬主が買おうとしても、まず手に入らない。
数年前、シドニーの3歳G1で3着以内に入った馬について、ある馬主から電話をもらった。豪州の馬主が求めたのは250万豪ドル(約2億8000万円)という大金。「高すぎる」と香港の馬主は言ったが、私は買うべきだと伝えた。
結局、その馬主は買わなかった。その馬は今、豪州で700万豪ドル(約7億8000万円)以上を稼いでいる。G1勝ちは一つだけなのに、だ。10年前なら100万豪ドル(約1億1000万円)、せいぜい150万豪ドル(約1億7000万円)の馬だっただろう。
豪州で最もレベルの高い競馬が行われるのはシドニーとメルボルンだ。ブリスベン、アデレード、パースは、それに次ぐ位置づけにある。だからといって、クイーンズランドダービーを軽んじるつもりはない。実績馬であっても馬主が売却に応じるのが、このレースなのだ。
今年、同レースの出走馬が6頭も香港向けに買われたのは、昨年このレースに出走したナンバーズが香港へ移籍し、2026年の香港ダービーで2着に入った影響かもしれない。

では、今後半年間は何に注目すべきか。鍵は「環境への適応」だ。
まずは時期を見てほしい。大半の馬が売られるのは、豪州では冬シーズンの最中に当たる6月から7月。冬毛が生えた状態で、数カ月後には夏の香港へ到着する。慣れるまでには時間がかかることもある。
こうした馬の多くは、香港競馬への移籍時にレーティング80以上を与えられる。そのため、香港で実績を積み、同等のレーティングに達した経験豊富な馬たちと、いきなり競わなければならない。通用するには、初戦からほぼ本来の力を出す必要がある。
豪州・ニュージーランドから来る馬にとって救いなのは、香港競馬でも調教のやり方がよく似ていることだ。短めの距離を、速い時計で走る。欧州馬より早く適応できる。この点は後で詳しく触れよう。
バリアトライアルの結果も、深読みしすぎないほうがいい。多くは2000mが合う馬なので、1200mのトライアルでは後方からの競馬になる。本当の力を知るには、実戦を待たなければならない。
香港クラシックマイルは2027年1月31日、香港クラシックカップは2月28日、香港ダービーは3月21日。一部の馬にとって、相手はライバルではなく時間なのだ。
これからも、その歩みを追っていく。気になる馬を見つけたら、ぜひ教えてほしい。
北半球から移籍する「PP」はどう見るべきか
まだレーティングが付いていない注目の輸入馬が、欧州からさらに3頭来る。
ロイヤルアスコット開催の勝ち馬、ジェームズ・カミングス厩舎のジェネリック。英G3・グリーナムステークスの勝ち馬、ダグラス・ホワイト厩舎のアルパルスラン。そして仏ダービー6着で、現在はトニー・クルーズ厩舎に所属するドルマランだ。
では、欧州から来るPPはどう評価すればいいのか。
簡単に言えば、優秀な中距離馬なら欧州馬のほうが、豪州馬より強い。一流スプリンターなら豪州馬のほうが英国馬より強い。マイルを超える距離では、大抵の場合は北半球勢に分がある。
ただし、香港競馬でその力を発揮するには時間が必要だ。
英国やアイルランドでは、ニューマーケットやカラのような広々とした調教場で馬を鍛える。大きな隊列で長めの調教を行い、歩かせる時間も長い。そうして、ゆったりと仕上げていく。
気候もこの二地域では違う。香港は暑く湿度が高い上、夏場の期間が長い。馬は汗をかきやすく、それだけ体力を消耗する。要するに、シャティンでの調教は別世界だ。北半球から来た馬が、その環境に慣れるのは容易ではない。
だからこそ、北半球からの輸入馬を香港ダービーに間に合わせるのは、時間との勝負になる。
過去14年間の香港ダービー馬のうち、北半球から来たPPは2013年のアキードモフィード、2014年のデザインズオンローム、2024年のマッシヴソヴリンの3頭だけ。同じ期間に南半球から来たPPは5頭が勝っている。

その3頭がどう勝ったかにも注目したい。デザインズオンロームは2歳時に香港へ来たため、香港ダービー当日には移籍から1年以上がたっていた。アキードモフィードは7月の愛ダービー後に購入され、翌3月の香港ダービーまで十分な時間を残して香港入りした。
一方、マッシヴソヴリンは11月初旬に到着し、短期間で仕上げて勝った。
力のある欧州馬でも、時間が足りなかった例は多い。ミリタリーアタック、タイムワープ、グロリアスフォーエバー、エグザルタントは、いずれも香港ダービーを勝てなかったが、後にトップレベルで勝利を挙げた。レーティングに見合う走りを見せるまで、もう少し時間が必要だっただけだ。
レーティングそのものが問題になる場合もある。欧州馬が、実力に見合わない数字を背負って香港へ来ることがあるのだ。母国で水準の低いリステッド競走や重賞に勝ったり好走したりしただけで、高いレーティングを与えられることがある。
つまり、今後数カ月で欧州からの移籍馬が冴えない走りを見せても、早めに見限ってはいけない。本来の力を発揮するのは1年後かもしれないからだ。
セレブレーションカップ、有力馬たちの復帰戦に注目
今週日曜日のG3・セレブレーションカップ(1400m)は興味深い一戦だ。昨季の有力4歳馬が、すでに実績を築いた馬たちとの対戦に戻ってくる。ただ、私が最も気にしているのは、最近厩舎を移った1頭だ。
それはギャラクシーパッチだ。
この馬の能力は高い。ただし乗り難しい馬でもあり、これまで必ずしも力を引き出す騎乗ばかりではなかった。
2年前、ピエール・ン調教師のもとでシャティントロフィーを勝ち、重賞3連勝を達成。昨季はG2・ジョッキークラブマイルでマイウィッシュを破った。私としては、すでにG1馬となっていてもおかしくない馬だ。2024年の香港マイルは勝つべきレースだった。
昨季末、ブレット・クロフォード調教師のもとで走った初戦は素晴らしかった。プレミアカップでは、リトルパラダイスより15ポンド(約6.8kg)重い斤量を背負いながら、僅差の2着に入った。今回は斤量差が11ポンド(約5kg)に縮まり、前回より4ポンド有利になる。
十分な休養を経て厩舎に戻ってきた。新しい環境では、以前より気分よく過ごせるかもしれない。クロフォード師によれば、従化での休養を楽しみ、たくましくなって帰ってきたという。
馬が気分よく過ごせれば、走りも変わるものだ。

そして5歳になった2頭もいる。優秀な馬が4歳シーズンを終え、どう戻ってくるかを見るのはいつも楽しみだ。
インビンシブルアイビスは昨季、非の打ちどころがなかった。香港ダービーを勝利し、戦績は9戦5勝。古馬と対戦した昨季最後のチャンピオンズマイルでも、勝ち馬から1馬身差の4着と見事な走りを見せた。
マーク・ニューナム調教師は当面マイル路線を使い、後に距離を2000mへ延ばすことも選択肢に入れている。ロマンチックウォリアーが去った今、その道は魅力的だ。
ただ、そこへ進む必要はないかもしれない。香港国際競走の日は、欧州勢や日本勢はマイルより2000mのほうが手強い傾向にある。
リトルパラダイスは、素晴らしい走りを見せる可能性がある。2月の香港クラシックマイル勝利がそれを示した。その後のシーズンは、香港ダービーへ向けて2000mに対応させることが大きな課題だったが、うまくいかなかった。
ところが距離を1400mへ戻すと、ギャラクシーパッチを破った。今はジミー・ティン調教師がマイル路線で使う方針で、目標は香港マイル。鞍上にはザック・パートン騎手を迎える。
香港ダービーで敗れた後に距離を短縮し、そこで圧倒的な強さを見せた先例は存在する。リトルパラダイスが一流マイラーとして復活すれば、それに続くことになる。
リッキー・イウ調教師は、今週末のヴォイッジバブルの復帰を見送った。いずれ戻ってきたときには、このベテランを軽視しないでほしい。香港ダービー、香港三冠馬、香港マイル連覇と、未達成のタイトルを探すほうが難しいほどの実績馬だ。
しかし、もう8歳。昨季の走りは以前ほど良くなく、昨年12月の香港マイル以来、勝ち星に恵まれていない。
では、ヴォイッジバブルは全盛期を過ぎたのか。昨季を見ればそう思うだろう。ただ、能力を疑う人はいない。
実績ある古馬には気をつけたい。平凡に見えても、突然大仕事をやってのける。スーパーインポーズは8歳でコックスプレートを勝った。ヴォイッジバブルは休み明けを一度叩いてから良くなる馬だから、復帰初戦の走りだけで判断するつもりはない。
シーズンを通して頂点に立ち続けるとは思わないが、香港国際競走で会心の走りを見せる可能性はある。