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9年越しのハッピーバレー初騎乗、香港の“新人女性騎手”ニコラ・ユエン騎手を成長させた「武者修行」

HKJCの騎手学校に入ってから9年。コロナ禍による足踏みと3カ国での武者修行を経て、ニコラ・ユエン騎手はついにハッピーバレーに立った。飛躍のきっかけをつくったアンドリュー・フォーチュン騎手が、成長の舞台裏を明かす。

9年越しのハッピーバレー初騎乗、香港の“新人女性騎手”ニコラ・ユエン騎手を成長させた「武者修行」

HKJCの騎手学校に入ってから9年。コロナ禍による足踏みと3カ国での武者修行を経て、ニコラ・ユエン騎手はついにハッピーバレーに立った。飛躍のきっかけをつくったアンドリュー・フォーチュン騎手が、成長の舞台裏を明かす。

勝負服を身にまとい、鞭を手にして、初めてハッピーバレー競馬場のパドックへ足を踏み入れる。それは香港の新人見習い騎手にとって、大きな節目だ。経験できる者は限られ、騎乗を任せるに足ると認められた証しでもある。

香港では、海外で実戦経験を積む期間を含めた育成課程を経て見習い騎手免許を取得しても、当初は直線が長く、コーナーも広い『大きな競馬場』、シャティン競馬場でしか騎乗を認められない。

香港競馬の歴史的な本拠地であるハッピーバレーでは、別の難しさが待っている。起伏のあるコース、きついコーナー、密集した馬群の中でのスピード勝負。そこで乗ることを許されるには、どれほど時間がかかろうとも、技術と度胸、戦術眼が問われるこの舞台で通用することを示さなければならない。

ニコラ・ユエン騎手は、免許を取得するまでに、ほかの多くの騎手より長い時間を要した。まして、都心にある象徴的な競馬場で乗るまでとなれば、なおさらだった。

ただし、それにはコロナ禍が大きく影響している。100年に一度という世界的なパンデミックにより、大切な時期に育成が中断される不運に見舞われたのだ。海外での武者修行は2021年までお預けとなり、南オーストラリア州、ニュージーランド、いったん香港へ戻った後に、南アフリカへと渡った。

そして2026年9月9日、25歳のユエンは、香港の騎手学校に入ってから9年を経て、レースで初めて騎乗するためにハッピーバレーのパドックに足を踏み入れた。

その数分後、デニス・イップ調教師が管理するリーンマスターに跨ると、照明に照らされたコースへ向かった。背後には活気に満ちた観客とそびえ立つスタンド。前方にはコーズウェイベイの高層ビル群を彩る灯りと、1200m戦のスターティングゲートがあった。

「あまり良い結果ではありませんでした。最初から悪い枠が続きましたから」とユエンは語る。すべて敗れたハッピーバレーでの最初の4鞍を振り返り、Idol Horseの取材にそう話した。

「でも経験という意味では良かったです。初めてあそこでレースに乗れて、良い勉強になりました」

実のところ、この日は経験を積むことがすべてだった。本人だけは勝利を思い描いていたかもしれないが、10ポンド(約4.5kg)減量の見習い騎手がいきなり勝ち切ると考えていた者は、ほかにはほとんどいなかっただろう。

大切なのは学びながら成長すること。その鍵を握る一人が、南アフリカの元チャンピオン騎手、フェリックス・コーツィー氏だ。

サイレントウィットネスの主戦を務めたコーツィー氏の知識と経験を、香港ジョッキークラブ(HKJC)は早くから見込んでいた。以来、代々の見習い騎手を指導する役目を託している。

リーンマスターに騎乗する前、ユエンはすでにハッピーバレーを下見していた。開催前にコーツィー氏とコースを一周歩いていたのだ。コーツィー氏は、騎手学校の責任者であるエイミー・チャン氏とともに、すべての見習い騎手に接するのと同じように、育成の一歩一歩でユエンを身近で支えてきた。

「フェリックス(コーツィー氏)は騎乗指導者として本当に優れています。とても柔軟な考え方を持っていて、自分自身もまだ学ぼうとしていますから」

こう話すのは、かつてコーツィー氏と検量室をともにし、59歳となった今も南アフリカの第一線で騎乗するアンドリュー・フォーチュン騎手だ。

「私たちはよく互いの騎乗について意見を交わします。私の騎乗映像を一緒に見て、『なぜこう乗ったのか、そのとき何を感じていたのか』と私が説明することもあります。そうやって話し合ったことを、フェリックスが香港の見習い騎手たちに伝えてくれるのです」

自身の長い騎手人生も終幕が近づくなか、フォーチュンは、ユエンにとって海外武者修行の最終地となった南アフリカ競馬で、指導に携わる機会を得た。ケープタウンの有力厩舎、ジャスティン・スネイス厩舎でユエンと一緒に取り組んだ。

2025年9月に現地入りしたユエンにとって、そこは総仕上げの場のようなものになり、コーツィー氏とチャン氏も指導に加わった。

その時点でユエンは、南オーストラリア州のリチャード・ジョリー厩舎、続いてゲイリー・サール厩舎を拠点に騎乗し、1日4勝を含む61勝を記録していた。さらにニュージーランド競馬では、リース・イネス元騎手の指導を受けて10勝を挙げていた。

だが、そうして何年もかけて学び、積み重ねてきた経験が一つにつながったのは、ケープタウンだった。

「面白いことに、こちらへ来たばかりの頃は少し苦戦していました。序盤に1勝か2勝は挙げていたのですが」とフォーチュンは話す。「ところが香港へ戻る数カ月前、少しずつ何かが腑に落ち始めたように見えました」

「最後の3カ月で、本当に大きく成長しました。私に言わせれば、身体の位置や手の位置といった、小さなことの積み重ねです」

「それが分かるようになると……、一流騎手には多くの共通点があると分かります。フェリックスと私は、オーストラリアのチャンピオンジョッキー、ジェームズ・マクドナルド騎手をはじめ、トップジョッキーの騎乗をよく観察します。手の位置が正しいことも、その一つです」

「本物のトップジョッキーの話です。名ばかりのトップジョッキーではありません。トップと呼ばれていても、本当はそうではない騎手もいますから。本物の一流騎手は、いつも自然な位置に手を置き、馬もいつも楽そうに走っています」

「ニコラはここで過ごした最後の頃に、ようやくその感覚をつかみ始めました。手を正しい位置に置けるようになり、こちらを離れる前の2、3カ月で、ものすごく、ものすごく成長したのです」

Hong Kong apprentice jockey Nichola Yuen
NICHOLA YUEN / Photo by HKJC

ユエンが騎手への道を歩み始めたのは10歳のときだった。香港の鯉魚門公衆騎術学校へ通い、馬に夢中になった。

その2年ほど前には、香港で馬術競技が行われた2008年北京五輪に心を奪われていた。16歳になる頃には、進学は自分の進む道ではないと考え、騎手学校に応募した。

同校は1971年以来、香港競馬の人材育成で中心的な役割を果たしてきた。最初の入校生には、名手のトニー・クルーズ元騎手(現調教師)や、のちにチャンピオントレーナーとなる元騎手のリッキー・イウがいた。

見習い騎手を目指す者は皆、シャティンの施設で基礎を学ぶ。元バドミントンのトップ選手で「校長役」を務めるチャン氏は、スポーツ心理学と、アスリートとしての能力を引き出す視点を指導に取り入れている。一方、コーツィー氏は、レース騎乗に関する深い知識と技術、判断力を伝えている。

ユエンは小柄で、力も足りなかった。それでもユエンには、騎手を志す者の中から、実際にシャティンやハッピーバレーでレースに乗るところまでたどり着くために必要な何かが備わっていた。

そこでは、ザック・パートン騎手やヒュー・ボウマン騎手のようなチャンピオンを相手に、激しい重圧と厳しい視線にさらされながら戦わなければならない。

「彼女は昔から強い心を持っていました」とジミー・ティン調教師は、騎手学校に入ったばかりの頃に初めて会った若きユエンを振り返る。ユエンはティン厩舎、コディ・モー厩舎、マンフレッド・マン厩舎、イウ厩舎で厩舎実習を経験し、最終的にイウ師が所属先の調教師となった。

「若い頃に私の厩舎へ来たときは、少し非力でした。でも、とても努力家でした」とティン師は続ける。「強い気持ちを持っていて、騎手になるには懸命に努力し、挑み続ける必要があると分かっていました」

「自分が何をすべきか理解し、いつも成長していました。人柄の良い子で、乗るのもうまい。そして今も成長しているのが分かります」

ユエンが香港で見習い騎手免許を取得した3月、イウ師はIdol Horseの取材に対し、彼女を厩舎所属の見習い騎手として迎えるにあたり、同じく受け入れを申請したほかの6人の調教師との争いを制したと語っていた。

そして「相性はいい」と話す一方、愛弟子は調教ではすでにうまく乗れているものの、レースでどこまでやれるかについては「まだ分からないことが多い」とも述べていた。

フォーチュンには、ユエンが帰国後も十分に通用するという確信に近いものがあった。南アフリカへ来た時点ですでに姿勢と考え方は身についており、コーツィー氏とフォーチュン騎手がともに最後の仕上げを施した。

「彼女には何度か騎乗を指導しました」とフォーチュンは話す。

「上達していくのが目に見えて分かりました。『よし、ここでは手を下げて。力を抜いて、呼吸して、落ち着いて』と声をかけたんです。その後、フェリックスがやって来て、『これは驚いた。どうしてここまで上達したんだ』と言ったほどでした」

「一緒に練習するうち、彼女の中で少しずつ何かが腑に落ち始めたのだと思います。私が指導したのは数回だけですが、フェリックスからは、ニコラを重点的に見て、馬を使った実演でも彼女を中心に指導してほしいと言われていました」

「見習いジョッキーたちを馬に乗せて見守るだけでなく、私自身も馬に跨り、『こうやるんだ。今のを見ていたか。よし、今度は自分でやってみよう』と実演しました。そうした練習を重ねるうちに、ニコラはしっかりとコツをつかんだのです。今の彼女を見れば、それがよく分かります」

Nichola Yuen after a win at Sha Tin in April 2026
NICHOLA YUEN, PI LEGEND / Sha Tin // 2026 /// Photo by HKJC

ユエンがシャティンで初めてレースに臨んだのは4月1日。2鞍目にはイップ厩舎のピーアイレジェンドで初勝利を挙げ、シーズン終了までに勝率約13%で14勝を記録した。今季もすでに17鞍で2勝を挙げている。

「馬に乗ることは、かなりシンプルです」とフォーチュンは言う。「跨ったら、馬自身に走らせればいい。あれこれ指図しすぎず、走りやすい位置へ導く。そのあとは、ひたすらリズムと勢いです。馬は走り方を知っていますから。こちらがすべきことは、バランスを保つことだけです」

ハッピーバレーでのデビューから1週間後、声をかけてフォーチュンの名を出すと、ユエンの目が輝いた。

「とても飾らない人です。本当に個性的で」とユエンは評した。「面白いけれど、同時に真剣でもあります。それに、もちろん、馬乗りとしても一流です」

フォーチュンの人柄と指導がユエンに強い印象を残したことは明らかだ。一方のフォーチュンも、ユエンの明るい人柄に好感を持ち、見て学ぶ力を高く評価していた。

「レースで馬と一緒にどう進んでいくか、その感覚です」と、フォーチュンから何を学んだか尋ねられたユエンは答えた。

「手の使い方が素晴らしく、馬を楽に走らせる方法を教えてくれました。引っ張るのではなく、感覚を持って乗ること。馬の声を聞き、馬とつながることを教わりました」

ハッピーバレーでの初騎乗、リーンマスターは8着に終わった。それでもユエンは12番の大外枠から積極的に出していき、無理なく先頭を奪った。手を低い位置に保ち、リラックスしたバランスの良い騎乗姿勢を崩さない。馬群が迫り、抜き去っていく中でも、最後まで整った追い方を見せた。

この夜は4鞍に乗り、最高着順は4着。ユエンはもっと上を望んだが、この夜は結果以上に、成長の次の段階へ進んだことに意味があった。

あと4勝もすれば、減量特典は7ポンド(約3.2kg)に縮小される。だが、それに気後れする様子はない。むしろ本人は「楽しみ」と表現する。

「もちろん、まだまだ改善しなければなりません」とユエンは言い、「進路をきちんと見つけることと、馬を良い位置につけること」を伸ばすべき点に挙げた。

「これからもっと上達できればと思います」と付け加えた。

騎手学校に入った初日からハッピーバレーで騎乗するまで、ユエンには9年を要した。しかしフォーチュンは、ここで考えるべき重要な点を指摘する。都市部の香港から見習い騎手学校へ入る若者の多くは、課程に受け入れられるまで、馬に乗るどころか触れる機会すらないという事実だ。

「馬に乗れるようになるには時間がかかります」とフォーチュンは話す。

「年齢の問題というより、どれだけ時間をかけたかの問題です。馬を理解すること、そして理解するまでに必要な時間の問題なのです」

「彼女は見習い騎手学校に入ってから、ここまでたどり着くのに9年かかったんですよね。これを見ても分かるように、決まった道筋などありません」

「その人がコツをつかめるかどうかは、誰にも分かりません。だからこそ、人には優しく接するべきです。その人がどんな苦労をしているか、こちらには分からないのですから」

フォーチュンは自身の指導哲学を「80対20の考え方」と呼ぶ。「私はいつも、『20%を見ないでくれ』と言います。80%は良いところで、20%は欠点です。私があなたの20%ばかりを見れば、必ず何か悪いところを見つけられます」

ユエンの心に響いたのは、その前向きな姿勢と、フォーチュンとコーツィー氏が力を合わせた教え方だった。すべてが「腑に落ちた」とき、彼女の準備は整った。

「私はいつもフェリックスに、彼女の成長に1%の、そのまた1%でも関われたことを誇りに思うし、その姿を見られるのは本当に素晴らしいと話しています」

「ニコラが乗ると、何もかもが簡単そうに見えます。結局、大切なのはそこなのです」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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