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香港出身の女性ジョッキー、ニコラ・ユエン騎手が今週、香港競馬で騎手としてのキャリアをスタートさせる。本人も大いに胸を躍らせているはずだが、このニュースを聞いて私には昔の記憶がよみがえった。

1978年、ニュージーランドのマタマタ競馬場で、リンダ・ジョーンズ騎手が初騎乗を迎えた日のことだ。当時11歳だった私は、その場に立ち会った。

リンダは大きな騒動を巻き起こしていた。当時は女性がレースで騎乗すること自体、認められていなかった。だが彼女は支援者とともに粘り強く働きかけ、世論の後押しも受けて競馬界を動かし、その年、ニュージーランド競馬でついに女性にも騎手免許が認められた。

初騎乗の日、現場には報道陣があふれていた。あのようなローカル開催であれほどの光景を見たのは初めてだった。

その1週間後、彼女はテラパ競馬場でビッグビッキーズに騎乗して初勝利を挙げたが、その反響はまるで人類が初めて月面に降り立った時のようだった。女性騎手が競馬で勝った。1978年当時、それは信じがたい出来事だった。

ニュージーランド競馬での先駆者がリンダ・ジョーンズ騎手なら、オーストラリア競馬がそれに続くまでにはさらに1年を要した。

道を開いたのはクイーンズランド州のパム・オニール騎手だ。彼女は男性と同じように職業騎手として戦う権利を求め、競馬界の関係者へ140通を超える手紙を送り続けた。

ジョーンズやオニールのような女性騎手たちが約50年前、何度も訴え、粘り強く働きかけ、決して引かなかったからこそ、ニコラ・ユエンや香港競馬で騎乗するもう1人の女性見習いジョッキー、ブリトニー・ウォン騎手も、今こうして免許を得られているのかもしれない。

Apprentice jockeys Britney Wong and Nichola Yuen at Happy Valley in 2026
BRITNEY WONG, NICHOLA YUEN / Happy Valley // 2026 /// Photo by Idol Horse
Trainer Ricky Yiu has taken on Nichola Yuen as his stable apprentice in 2026
RICKY YIU, NICHOLA YUEN / Sha Tin // 2026 /// Photo by Idol Horse

そうした先駆者たち以降、優れた女性騎手は数多く現れた。

アメリカではジュリー・クローン騎手が3700勝を超える勝ち星を挙げ、女性として初めて米三冠の一戦を制し、競馬の殿堂入りも果たした。ハッピーバレー競馬場での騎乗経験があるシャンタル・サザーランド騎手もまた、香港競馬ファンには馴染み深いだろう。彼女たちは高い道標となった存在だった。

私の身近なところでも、上手い女性騎手はこれまで何人もいた。ニュージーランドでは、マリー・リンドン騎手やリサ・オールプレス騎手とライバルとして競ったが、2人とも非常に優秀な騎手だった。

そしてもちろん、オーストラリアでは2015年のメルボルンカップを私は決して忘れない。

あの日、私はフレミントン競馬場に足を運び、ミシェル・ペイン騎手が単勝オッズ101倍のプリンスオブペンザンスを勝利に導くのを見届けた。

目には涙が浮かんだ。競馬にとって本当に素晴らしい出来事だった。女性騎手がメルボルンカップを勝つなど、この時までは誰も予想していなかった。あの勝利は騎乗で勝ち取ったものだった。

あの日、勝ちに値する馬は他にもいたが、不運や拙い騎乗で勝てなかった。ミシェルはあの馬に完璧な騎乗をした。あのメルボルンカップを100回やり直しても、同じ結果になることはまずないだろう。

そして昨年は、ジェイミー・メルハム騎手がコーフィールドカップに続いて、ハーフユアーズでメルボルンカップも制した。彼女は本当に優れた騎手だ。ホリー・ドイル騎手やレイチェル・キング騎手も結果を残している。

豪ブリスベン地区を見てもそうだ。アンジェラ・ジョーンズ騎手が昨季、女性として初めて同地区のリーディングジョッキーを獲得し、そのすぐ後ろにつけたのがエミリー・ラン騎手だった。アンジェラは注目すべき存在だ。とてもいい騎乗をする。

では、騎乗面では何が違うのか。私の経験で言えば、女性騎手は総じて馬を扱う感覚に優れている。

どういうことかと言えば、男性騎手だと行きたがってしまう馬でも、女性騎手だとそうならないことが多いということだ。女性騎手はバランス感覚に優れ、騎乗時の動きも静かだ。そのため馬がリラックスして走れ、自然と力を発揮しやすくなるのだと思う。

もちろん、ここで議論をしたいわけではないが、男性の方が身体的に強いのは事実だ。だから男性騎手の方が女性騎手より力は強い。だが騎乗は力だけで決まるものではない。

しかも現代競馬では、ルール改正によってムチの影響力が大きく抑えられ、以前ほど使えなくなった。そのことで男女の差はかなり縮まった。

もっと大きな視点で見れば、女性が見習い騎手になるのは、馬が好きで、その世界に強く惹かれているからだ。女の子たちはポニークラブ(乗馬クラブ)で育ち、ひとたび馬の魅力に取りつかれると、その思いは簡単には消えない。

オーストラリアやニュージーランドでは、ポニークラブが職業騎手への確かな入口になっている。一方で男性の場合は、体が小さいから「ジョッキーを目指してみたらどうだ」と勧められて乗り始めるケースが少なくない。動機としてはかなり違う。

それが現実になるのは、この先20年、30年ではないだろう。だがひとつ断言できる。50年後には、男性より女性騎手の方が多くなっているはずだ。斤量面の優位性と、この世界に入ってくるまでの道筋を考えれば、それは避けがたい流れだ。

ニコラ・ユエン騎手の健闘を祈りたい。香港競馬は、騎手にとって世界でも屈指の厳しい舞台だ。だが彼女の背後には、この50年にわたって道を切り開いてきた先駆者たちの歩みがある。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

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