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ウィリアム・ビュイック騎手は冷静沈着な集中力を持ち、どんなレースのプレッシャーにも動じないジョッキーとして名高い男だ。馬が自分のリズムで走れるよう巧みに導き、その上で絶妙なタイミングの追い出しと、力強いゴール前の追いで勝利をつかみ取る。

ビュイックはノルウェー出身、オスロで生まれ育った。父のウォルター・ビュイックは英国出身で、スカンジナビア各国で何度もリーディングジョッキーに輝いた名騎手。母のマリアは馬術競技の選手だった。幼少期から騎乗を始め、登校前に競走馬の運動をこなしていたという。

幼少期の夏休みは毎年イングランドで過ごし、10代になると長期滞在中にレグ・ホリンズヘッド、アンドリュー・ボールディング、マーカス・トレゴニング各師のもとで調教に騎乗。ボールディング厩舎で見習い騎手となり、2006年8月に初騎乗を果たした。2008年には英国のリーディング見習い騎手に輝く。

その才能は多くの一流調教師の目に留まり、2010年初頭には英国・ニューマーケットの名門、ジョン・ゴスデン厩舎の主戦騎手に抜擢。その5年後、2015年にはゴドルフィンに加わった。 

Jockey William Buick

トム・マーカンドやホリー・ドイルといったトップジョッキーも強力なライバルだが、その筆頭はオイシン・マーフィーだ。マーフィーは2019年から2021年まで3年連続で英国リーディングに輝き、その間ビュイックは常に追う立場にあった。特に2021年は最終日までもつれ込む激しいタイトル争いとなった。

2022年、マーフィーの騎乗停止により、ビュイックが初の英国リーディングジョッキーの座を獲得。2023年にはマーフィーが復帰したものの、ビュイックが再びタイトルを手にし、マーフィーは大きく離れた2位に終わった。

Jockey William Buick and apprentice Billy Loughnane

ビュイックは “仕事人” なジョッキーだ。他の高い知名度を持つ騎手のようにスポットライトを浴びることは少ないが、経験豊富でレースを熟知しており、堂々とした立ち居振る舞いを崩さない。自分の仕事はきちんとこなす、ビジネスライクな姿で知られている。

もし彼をスポーツチームに例えるなら、それはサリー・カウンティ・クリケットクラブだろう。ビュイックが拠点とするイギリスの名門チームだ。

Jockey William Buick

ビュイックと弟たちは、グロリアス・グッドウッドのような真夏の大きな競馬開催期間中、競馬場の記者室でよく見かけられる名物兄弟だった。

父のウォルターが当時プレス・アソシエーションの競馬解説者として働いていたため、兄弟そろって報道関係者に混じって記者室に来ていたのだ。今も昔も、競馬関係者の間では有名な存在だったようだ。

ビュイック騎手はこれまで数多くの大レースを制してきたため候補は多いが、現地で見た者にとって忘れがたいのは、2018年、シャティン競馬場で行われたG1・クイーンエリザベス2世カップでのパキスタンスターの勝利だ。

気性面で課題があり、しばしば走るのをやめてしまうことで知られた同馬だが、高い身体能力と鋭い末脚も備えていた。この日、初めて手綱を取ったビュイック騎手は好スタートを切ると、逃げるタイムワープを見ながら内ラチ沿い3番手で進み、リズム良く追走。

パキスタンスターは頭を左に傾けたまま走っていたが、ビュイック騎手はその動きを乱さず、直線では馬群の間を割って抜け出すと末脚を解放。一気に後続を3馬身突き放した。

William Buick and Pakistan Star

このレースを特別なものにしたのは、何よりもスタンドの反応だ。パキスタンスターが先頭に立った瞬間、シャティンのスタンドは大歓声に包まれ、その音量はかつての名馬、サイレントウィットネスの時代を彷彿とさせるとも表現された。

だが今回は、それ以上の意味を持っていた。幾度も称賛され、幾度もファンや熱心な馬券師に支持されながら、裏切り続けてきた “人気者” が、ついに8連敗を断ち切ってG1を勝ったのだ。

その歓声はゴールを過ぎても止むことはなかった。パキスタンスターとビュイック騎手は、まるで英雄のように検量室へ戻り、道中の一歩一歩に惜しみない声援が送られたのであった。

William Buick and Pakistan Star

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