ロブチェンは10月25日(日)、京都で行われるG1・菊花賞で、日本競馬史上9頭目の三冠馬を目指す。勝てば、祖父ディープインパクトをはじめとする歴代の名馬に肩を並べることになる。それでも、レースを迎えるまでの盛り上がりは、明らかに控えめだ。
もちろん、日本中央競馬会(JRA)おなじみの、ファンの心を揺さぶるプロモーション映像はある。満員になるであろうスタンドの指定席抽選に多くの申し込みが寄せられていることからも、ファンが結末を見届けたがっているのは間違いない。
しかし、そのJRAの映像でさえ、歴代の三冠馬だけでなく、三冠を阻んだ馬も織り交ぜた慎重な構成になっている。なんとも慎重な宣伝ではないか。
三冠挑戦を前に、盛り上がりがここまで控えめなのは意外だ。世界最高水準の競馬国のうち、競馬関係者とファンが今なお三冠を、意義があり、かつ達成可能な偉業と捉えている国は2つ、おそらく3つしかないからだ。
その一つが米国である。米国では2015年にアメリカンファラオが現れるまで、37年間も米三冠馬が誕生しなかったが、その後ジャスティファイも続き、今なお成し遂げられる偉業であることを証明した。
英国でも、元祖三冠が今なお語られ、再び達成してほしいという思いはある。最後の英三冠馬は1970年のニジンスキーだ。しかし、その受け止め方には、再現を信じ切れないまま過去を懐かしむようなところがある。
「英三冠など、もはや時代遅れの夢物語にすぎない。いつかアーサー王が帰還してイングランドを救うという伝説と同じようなものだ」とでも言うように。最後に三冠へ挑んだキャメロットでさえ、達成できなかった。
だからこそ、日本の競馬ファンにとって特別な偉業へ挑むロブチェンをめぐり、盛り上がりが抑え気味であることは、外から見る者には興味深い。今年のクラシック世代に分かりやすいライバル物語がないからかもしれない。ロブチェンが本当に傑出した存在なのか、信じ切れない部分があるのかもしれない。
その疑念の背景には、今年のクラシック世代のレベルはそれほど高くないという見方もありそうだ。スーパースターとしてたたえる前に、「本当にできるのか、まずは様子見だ」という空気があるのだろう。
興味深いことに、今年5月の日本ダービー出走馬で、その後にレースを勝ったのは2頭しかいない。1頭がロブチェンで、もう1頭はライヒスアドラーだ。ライヒスアドラーは条件戦を勝った後、G2・毎日王冠で古馬を相手に5着に敗れ、力の差を見せつけられた。
理由が何であれ、こうした空気によって、ロブチェンが積み重ねてきた実績の価値が損なわれてはならない。約520キロの黒鹿毛の馬体を誇る同馬は、アスリートとしても素晴らしい存在だ。2歳時は無敗で、G1・ホープフルステークスを制した。
ただし、その頃も大きく騒がれてはいなかった。デビュー戦では2番人気で、2着となった1番人気馬は現在まで8戦して未勝利だ。ホープフルステークスでも19.8倍の7番人気だった。
クラシック路線の始動戦で3着となった後は、一度も期待を裏切っていない。春のクラシック二冠を制し、夏の休養明けとなったG2・神戸新聞杯でも勝利を収めた。
ただし、3馬身差をつけたデビュー戦の後は、勝利時の着差が最大でも4分の3馬身にとどまっている。日本ダービーはアタマ差、前走はハナ差だった。こうした僅差の決着が、熱狂を抑えているのかもしれない。
それでも勝つ。それこそが、これまでのロブチェンだった。どんな挑戦者にとっても、才能と勝負根性を兼ね備えた手強い相手であることは証明済みだ。

一方で、どこか安心し切っている面もあるのかもしれない。高い支持を集め、主な相手の大半にはすでに勝っている。過去の三冠候補には、菊花賞の3000mをこなせるかという厄介な未知数があったが、ロブチェンにはむしろ距離が合うと見られている。父ワールドプレミアは7年前に菊花賞を制し、その後は3200mの天皇賞春も勝った。
杉山晴紀調教師と松山弘平騎手をめぐる物語も興味深い。2人はコロナ禍の2020年、デアリングタクトで牝馬三冠を制した。牡馬三冠と牝馬三冠の両方を同じコンビで成し遂げた調教師と騎手は、過去にいない。
ロブチェンの杉山晴紀調教師は、前哨戦の神戸新聞杯を振り返ってこう話した。
「スローペースで一度ポジションを下げましたが、騎手が外へ出すと、いい脚を使ってくれました。松山騎手がこの馬に大きな自信を持っていることが、よく表れたレースだったと思います」
ロブチェンは、当歳時にノーザンファームミックスセールで比較的手頃な2100万円で取引された、将来性豊かな“庶民派”だった。三冠候補の中の「サラリーマン」と呼べるかもしれない。そう考えると、台頭してきたライバルが、セレクトセール出身で4億2900万円の良血馬・ダノンヒストリーというのもまた面白い。
もしこの馬がクラシック制覇の「サラリーマン」というなら、その物語を前面に押し出してはどうか。何か一つの切り口に絞り、全面的に売り込む余地は残されていることだろう。
今回の三冠挑戦をめぐる熱気と期待は、沸騰するまでには至らず、静かな熱を帯びるにとどまっている。それでも、ロブチェンが先頭でゴールを駆け抜ければ、ファンはその偉業にふさわしい賛辞を送り、いつまでも英雄としてたたえるはずだ。そして何より、日本で調教されている馬なので、来年も走る姿を見られる可能性が高い。
世界の競馬場から
米メリーランド州ボルティモアのピムリコ競馬場は、1870年10月25日に開場した。開場の翌日、ディナーパーティーステークスを制したのが、プリークネスという馬だった。その3年後の1873年、同馬の名にちなんでプリークネスステークスが創設され、後に米三冠の第2戦となった。
1986年10月25日には、豪州の「世紀の一戦」が行われた。ボーンクラッシャーとアワウェイバリースターがコックスプレートで激突。ニュージーランドの王者2頭は早めに進出すると、ゴールまで壮絶な一騎打ちを繰り広げた。ボーンクラッシャーがアワウェイバリースターをかわした後に差し返されたものの、再び盛り返し、クビ差で勝利した。
世界の注目馬リスト
10月18日(日)、京都の芝1400m新馬戦で鮮烈なデビュー勝ちを飾ったシェフザーデは、将来が楽しみな存在だ。この2歳馬は支持を集めてオッズを下げ、最終的に2.2倍の1番人気となった。レースでもその期待に応え、3馬身差で快勝した。
同馬を管理する野中賢二調教師は、10月7日に大井のJpn1・ジャパンダートクラシックをシルバーレシオで制している。シェフザーデにも、重賞やリステッド競走へ進めるだけの素質がありそうだ。
岩田望来騎手は、シェフザーデを先団のすぐ後ろで折り合わせた。最終コーナーでは馬の間から進出し、直線の早い段階で態勢を整えた。残り200mから鋭く加速すると、耳を立てたまま楽々と勝利した。
シルバーステート産駒の同馬は、2009年のJRA最優秀短距離馬ローレルゲレイロと同じ牝系の出身だ。ローレルゲレイロはG1・スプリンターズステークスとG1・高松宮記念を制し、2010年のG1・ドバイゴールデンシャヒーンでは4着に入った。
ワールドレーシングカレンダー:今後の注目レース
コックスプレートデー
フレミントン競馬場(オーストラリア)、10月24日
馬齢重量戦で争われる豪州最高峰の約2000m競走、G1・コックスプレートは今年、ムーニーバレー競馬場の改修・再整備に伴い、フレミントン競馬場で開催される。
実力馬12頭が顔をそろえ、前走のG1・ターンブルステークスでそれぞれ3着、4着だった牝馬アエリアナとサーデリウスも名を連ねている。
G1・アンダーウッドステークス勝ち馬のバードマンに加え、前週のG1・コーフィールドカップで2着に入ったセイントジョージと、4着のコスミッククルセーダーも有力。G1・マイトアンドパワーステークスを波乱の勝利で制したランドレジェンドも候補に名を連ねる。
3歳馬によるコックスプレート制覇は13年間途絶えているが、13年ぶりの勝利を狙うのがG1・コーフィールドギニー勝ち馬のウォーウーヴンだ。4連勝を狙う同馬は、今回初めて1600mを超える距離に挑む。