ジェームズ・マクドナルド騎手の短期免許での成功がひと区切りを迎えようとしている今こそ、ザック・パートン騎手と比較し、誰もが抱く疑問を投げかけるには理想的なタイミングだ。
もし彼が香港に通年免許で来たなら、香港競馬のリーディング争いでザック・パートンの対抗馬となるのか?
結論から言えば、答えはイエスだ。だがそこに行き着く前に、2人をきちんと同じ基準で比較しておくことが重要になる。どちらもスーパースターだが、まったく違うタイプの騎手だからだ。
ザック・パートンとジェームズ・マクドナルドは、ともに傑出した騎手であることに疑いはない。だが2人には大きな違いがあり、その出発点は「どうやって偉大になったか」にある。
ザック・パートンは、ジョッキーになるために生まれてきたわけではない。天賦の才があったわけでもない。努力しなければならなかった。しかも、徹底的に積み重ねなければならなかった。並外れた決意、精神的な強さ、そして積み重ねによって、自分自身をスーパースターに作り上げた。
パートン最大の武器は、精神面のアプローチだ。彼は信じられないほど強い。揺さぶることも、崩すこともできない。だからこそダグラス・ホワイト騎手を上回り、最後はジョアン・モレイラ騎手にも勝った。精神力でモレイラに勝ったのだ。
ザックは香港競馬に攻めのスタイルを持ち込んだ。レースが落ち着いて隊列が決まった時点で、自分の馬は4番手以内にいるべきだと、あらゆるレースで信じて乗っている。だがその考え方は、強みであると同時に弱みにもなる。
そのメンタリティゆえ、パートンはスタート直後から非常にアグレッシブだ。ポジションを取りに行く。自分の馬を不利のないところに置き、レースの“中”に入れたい。香港競馬では大抵、それが勝利につながる。確率の勝負であり、ザックほどそれをうまくやる者はいない。
だが時には、その攻めが弱点にもなる。すべての馬が、あの乗り方を望むわけではないからだ。馬をリラックスさせて静かに運ぶ必要がある時、ザックは自分の自然な本能を意識して抑え込まなければならない。そしてそれができた時には、後方でじっくり脚をためて運ぶ騎乗も非常にうまい。
ジェームズ・マクドナルドはまったく違う。ジェームズはジョッキーになるために生まれてきた。才能がある。生まれ持った上手さが、最初からそこにあった。馬が彼のために走る。彼は生まれつきバランスが良く、柔らかく、直感的だ。
彼の騎乗を見ていると、馬が彼の下でリズムを崩しているようには決して見えない。そのバランス力こそが最大の強みだ。
パートンとは違い、マクドナルドは馬を自分が望む位置で走らせようと無理に押し込まない。むしろ馬が走りたい位置で走らせることのほうが多い。必要もないのに、ゲートを出てからアグレッシブに行くことはしない。馬の声を聞く。それが、彼の下で良い馬が偉大な馬へと変わる理由だ。
彼の弱点は、以前は、プレッシャーがかかると早仕掛けになってしまうことだった。600m、あるいは700mも残ったところで動いてしまう。内で不利を受けて運が悪くなるリスクを負うより、外に出してスムーズに運ぶことを好んだからだ。
だがこの2、3年で、ジェームズはそれを修正した。だからこそ今、かつてないほどビッグレースの勝利を量産している。今の彼はより頻繁に『運を味方にする騎乗』をする。以前なら行かなかった内の進路を今は取る。そしてそのぶん、彼の騎乗は良くなっている。
直近12開催は、もし2人のスーパースターが毎週のように同じ舞台でぶつかり合ったら香港競馬がどうなるのか、その一端を見せてくれた。Jマックは12開催で13勝を挙げ、ザックは同じ期間に17勝だった。
2人は違う騎手だが、どちらもスーパースターだ。現在のオーストラリアで、真のスーパースターと言えるジョッキーはジェームズ・マクドナルドただ一人だ。もし彼が香港に通年免許で参戦するなら、パートンとマクドナルドのチャンピオン争いは大激戦になることは間違いない。

オーストラリアの騎手は実は過酷な世界
これには驚く人もいるだろうが、ジェームズ・マクドナルドのようにオーストラリアを拠点とする騎手は、世界のほかの地域に比べて報酬が非常に低い。
オーストラリアの賞金は非常に高いが、騎手が受け取るのは獲得賞金のわずか5%で、世界のどこよりも低い部類に入る。
長い間、その低さを和らげていたのが『スリング』と呼ばれる慣行だった。オーナーや調教師が好意の支払いとして、騎手の5%にさらに5%を上乗せする、時にはそれ以上を払うこともあった。
だがその文化は、いまやほとんど消えた。
一方、香港、アメリカ、そしてヨーロッパの多くでは、騎手は標準で少なくとも8%、多いと10%の勝利賞金を受け取る。さらに海外のトップジョッキーは、オーストラリアの騎手が受けられない形で手厚く扱われることが多い。移動費が出る、滞在先が用意される、などだ。
ヨーロッパ競馬では、トップクラスの牡馬を擁する陣営の場合、専属契約料や、種牡馬に関わるインセンティブが付く場合もある。
具体的に言えば、フラヴィアン・プラ騎手やイラッド・オルティスJr.騎手のようなアメリカのトップジョッキーは、あるシーズンで騎乗馬の獲得賞金が4000万米ドル近くに達することがある。
日本は賞金が非常に高い。香港では、ザック・パートンの騎乗馬はシーズンを通して一貫して2億香港ドル超を稼ぐ。そのうち勝利騎乗では10%を受け取り、税負担も軽い。特にオーストラリアと比べればなおさらだ。
香港にはほかにも特典がある。住居は用意され、移動も手当てされ、オフシーズンには家族とともに帰国するためのビジネスクラス航空券まで出る。
ジェームズ・マクドナルドの騎乗馬は昨季、オーストラリアで3300万豪ドル超を稼いだ。だが彼が受け取るのは5%だけだ。賞金は大きく見えるが取り分は小さく、税は高く、福利厚生もない。それが現実だ。
では、なぜジェームズ・マクドナルドは香港に通年免許で来ないのか?
今の彼は、両方の利点を享受できている。オーストラリアで最良の馬に乗りつつ、ビッグレースのときだけ香港に飛んでくる。さらに私は、彼がダミアン・オリヴァー騎手が持つG1最多勝記録、129勝を破りたいと思っているのではないかとも感じている。
ジェームズはいま122勝だ。その記録への挑戦が、当面は彼をオーストラリアに縛り付けるだろう。
香港の生活が好きな人もいれば、そうでない人もいる。適応できるかどうかだ。 私個人としては、香港のほうがいつも生活としては良かった。オーストラリアで乗るのは大好きだったが、香港では本当に手厚く扱われた。すべてが整っている。競馬のレベルや賞金も高く、税制も理にかなっている。
ジョッキーにとって、成功しているなら、香港以上の場所はない。
だからこそ香港は、私には長期的に合っていた。ジェームズと家族にとっても同じように合うかどうかは、彼ら次第であり、決められるのは彼らだけだ。

ロマンチックウォリアー陣営には「最善策」を選ぶ権利がある
ロマンチックウォリアーがフォーエバーヤングとの再戦のためにサウジアラビアへ再遠征しないことについて、その判断を非難する余地はない。
この馬で、彼らはできることはすべてやってきた。誰も避けていない。海外に遠征し、レースを走り、世界の最高峰で結果を出してきた。8歳になった今、彼らには「この馬にとって何が最善か」と信じることを選ぶ権利がある。
ロマンチックウォリアーを香港に残すことは、地元競馬にとっても、地元ファンにとっても素晴らしい。関係者は一貫して正しい判断を重ねてきたし、いまその判断を疑う理由はない。