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トップ5: 日本馬の香港国際競走での忘れられない勝利

フジヤマケンザンが日本馬として初めて香港国際競走を制してから29年。これまでの印象深い日本馬の勝利を、ランキング形式で振り返る。

トップ5: 日本馬の香港国際競走での忘れられない勝利

フジヤマケンザンが日本馬として初めて香港国際競走を制してから29年。これまでの印象深い日本馬の勝利を、ランキング形式で振り返る。

香港国際競走において、日本からの遠征馬はもはや不可欠な存在だ。1995年以来、12月の4レースでこれまで20勝を挙げている。これらの勝利の中には、香港国際競走を象徴するようなレースも含まれている。観客を魅了し、興奮させ、スポーツとしてより高みへと導くレースだ。

今年の日本からの遠征馬には、名牝リバティアイランド、同じくクラシック牝馬のステレンボッシュ、そしてマイル路線の強豪ソウルラッシュなどが名を連ねている。シャティンでの決戦が迫る中、日本馬の勝利を代表するレース5選と、惜しくも選外となったが見逃せないレースをいくつかピックアップする。

Yuga Kawada guides Liberty Island to victory in the G1 Shūka Sho
LIBERTY ISLAND, YUGA KAWADA / G1 Shūka Sho // Kyoto /// 2023 //// Photo by Shuhei Okada

5. モーリス、香港マイル

モーリスが香港に挑戦した2015年、香港マイルは9年連続で地元馬が勝っており、まさに香港馬の独壇場だった。堀宣行厩舎のモーリスはこの年5戦5勝、安田記念とマイルCSの春秋マイル制覇も達成していたが、その前に立ちはだかる地元馬はエイブルフレンド。香港を代表する強豪マイラーが待ち受けていた。

前年覇者であるジョン・ムーア厩舎のエイブルフレンドは、シーズン始動戦のG2・プレミアボウルにて1200mのレースとしては世界最高峰のパフォーマンスを披露。しかし、前哨戦のG2・ジョッキークラブマイルではまさかの敗北となり、1.4倍のオッズながら3着に屈した。

それでも、シャティンの競馬ファンからの信頼は揺るがない。香港の競馬ファンは地元のヒーローが日本からの挑戦者を退けると信じ、1.7倍の1番人気に押し上げた。そして、世界最高峰の騎手同士による激突という要素も盛り上がりに拍車をかけた。モーリスの鞍上はイギリスの名手、ライアン・ムーア騎手。対するエイブルフレンドの主戦は、『マジックマン』ことジョアン・モレイラ騎手だった。

レースは残り300m地点でエイブルフレンドがエンジン点火、モーリスを交わし去ったかと思われたとき、モレイラは勝利を確信していた。しかし、ムーアはまだ切り札を隠し持っていた。モーリスが最後の力を振り絞ると、エイブルフレンドを差し返し、1馬身差で大激戦を制した。

ジャイアントトレジャーが最後に追い上げ、2頭の間に割って入る2着。まさに名勝負と言えるこのレースを機に、モーリスはその名を世界に轟かせた。

4. ステイゴールド、香港ヴァーズ

2001年の香港ヴァーズは、武豊騎手の鋭い直感が光ったレースだった。これまでの5年間で50走、日本のビッグレースには欠かせない存在となっていた古豪のステイゴールドだが、天皇賞春は2着、天皇賞秋では2着2回、宝塚記念では2着と3着、有馬記念では3着と、G1レースでは勝ちきれない日々が続いていた。しかし、このレースではその年2度目となる、海外レースでの勝利を手にした。

同年の3月にG2・ドバイシーマクラシックを制したステイゴールドは、G1・ジャパンカップでジャングルポケットの4着という好走を見せ、引退レースの舞台である香港へと飛び立った。前走が高く評価され、強豪揃いのヴァーズでも単勝2.0倍の1番人気に支持されたが、ゴドルフィンのエクラーに騎乗したフランキー・デットーリ騎手は簡単には勝たせてくれなかった。

残り600m地点から早々と動き出し、直線入り口でのリードはすでに6馬身。その動きをいち早く察知した武豊はステイゴールドにスパートの合図を送ったが、残り300mの段階でもその差はまだ詰まらない。しかし、この厳しい状況にも武豊は動じず、完璧なレース運びでステイゴールドは失速したエクラーを捕らえきった。残り200m付近で右手綱を落としかけるというアクシデントがあったものの、最後はアタマ差で勝利を勝ち取った。

日本が誇る名手、武豊が当時世界最高の騎手だったデットーリを破ったという事実は大きかった。当時、世界進出の勢いを強めていた日本馬と日本人騎手にとって、その自信を後押しする結果となった。

3. モーリス、香港カップ

香港マイルがモーリスの世界進出の序章だとしたら、その1年後の香港カップはその強さと逞しさをさらに見せつけ、彼はまさに世界最高峰の存在なのだとアピールするようなレースだった。

5歳を迎えたモーリスは、春のドバイ遠征は体調が整わず断念となったが、4月のチャンピオンズマイルで鞍上にモレイラ騎手を迎えて復帰。復帰戦を勝利で飾ると、すぐさま日本に戻って、検疫中の状態でG1・安田記念に向けての調整を続けた。しかし、それが影響したのか2着に敗れると、秋初戦のG2・札幌記念も2着で連敗。それでも、G1・天皇賞秋では見事な勝利を収め、2000mへの不安を払拭した。

香港カップでは再び鞍上がライアン・ムーア騎手に戻り、地元のオッズも1.7倍の1番人気。そして、その期待に応えて見事な勝利を披露した。今では『The Beast from the East(東洋から来た野獣)』と称されるモーリスだが、レース終盤になっても内ラチ沿いにその雄大な馬体を潜め、逃げるエイシンヒカリから15馬身差の位置にいた。

しかし、ムーアが合図を送ると内側をスムーズに抜けて猛追。残り200mの時点で先頭に立つと、ゴールまでその脚を緩めることなく3馬身差の快勝という結果に終わった。

まさに真のチャンピオンというパフォーマンスを見せたモーリスだったが、香港国際競走の2レースを制覇しただけでなく、シャティンで異なるG1レース3つを制した史上3頭目の外国馬となった。これまでの2頭は、エイシンプレストンとジムアンドトニックだ。

2. 武豊騎手とエイシンヒカリ、香港カップ

エイシンヒカリが制した2015年の香港カップは、多くの『驚き』をもたらした。武豊騎手はこの芦毛馬で軽快に走らせ、最初の400mを26.13秒で駆け抜けたかと思いきや、その後は絶妙なペースコントロールを見せて4つの区間でそれぞれ23秒台をマーク。見る者を驚かせる逃げを打った。

単勝38倍のエイシンヒカリが向こう正面に入った時点で、2番手のダンエクセルとの差は3馬身以上。後続のライバルが焦り始める中、残り350m地点で武豊は鞭を持ち替えて左鞭を打つ。最後まで軽快な逃げのリズムが崩れることはなく、2:00.6という勝ちタイムで勝利。2000mのレースとしては並外れたペースだった。

レース後の光景もまた壮観だった。日本から来た応援団と地元ファンに温かく出迎えられた武豊騎手は、このレースが2007年3月のドバイデューティーフリー(アドマイヤムーン)以来となる海外G1制覇だった。

1 . ロードカナロア、2度目の香港スプリント

日本勢の象徴的な勝利という点では、ロードカナロアの香港での偉業は外せない。しかも、1度だけではなく2度もだ。2012年の香港スプリントは、彼が世界的な注目を浴びるきっかけとなった。後に調教師として独立した安田翔伍助手を背に、レース前日に猛烈な時計を叩き出してトラックマンを驚かせたあの追い切りは、今や香港国際競走の伝説となっている。

ロードカナロアは翌年の2013年も調教で抜群の動きを披露。シャティンの芝コースを単走で追い切り、ラスト400mは20.4秒、ラスト200mは10.2秒で駆け抜ける圧巻の追い切りを見せつけた。さらに、今年も前日に速い時計を叩き出し、レース当日を迎えた。

日曜日のパフォーマンスも鮮烈なものだった。14頭立ての12番枠という不利な枠順にも関わらず1.8倍の1番人気に支持されたロードカナロアだったが、この日はこれほど圧倒的ならば枠順なんて関係ないと言わんばかりの走りだった。

最終コーナーを回った時点で楽々と先頭に並びかけると、岩田康成騎手の合図に応えて急加速。このレースとしては史上最大の着差となる5馬身差をつけて、他のトップスプリンターたちを子供扱いした。

マイルのG1・安田記念も含め、数々のレースを制したロードカナロアだったが、その素晴らしいキャリアを締め括るに相応しいパフォーマンスだった。このセンセーショナルな香港スプリント2勝目は世界的な注目を集め、11年の月日が経った今でも語り草となっている。  

惜しくも選外、印象深い勝利

エイシンプレストンの2001年香港マイルは、トップ5から惜しくも選外となった。当時の香港競馬に現れた新進気鋭のスターマイラー、エレクトロニックユニコーンを3馬身1/4差で撃破、現地オッズ24倍から番狂わせを起こした。

1995年のフジヤマケンザンが制した香港カップ、日本馬が初めて香港国際競走を制したこのレースも確かに象徴的な勝利だが、トップ5には届かなかった。海外遠征の先駆者、森秀行調教師が送り出したこの7歳馬は、蛯名正義騎手を背にこのレースを制した。

Fujiyama Kenzan wins at Sha Tin
FUJIYAMA KENZAN, MASAYOSHI EBINA / International Cup // Sha Tin /// 1995 //// Photo by David Thorpe

サトノクラウンが制した2016年の香港ヴァーズも惜しくも選外だったが、その歴史的な意義は素晴らしいものがある。ジョアン・モレイラ騎手のアクションに応えてハイランドリールを差し切ったとき、この日すでにモーリスで香港マイルを制していた堀宣行調教師は、史上初の香港国際競走で1日2勝を挙げた外国調教師となった。

また、ジョアン・モレイラ騎手は別の日本馬でも印象深い勝利を挙げている。2021年の香港ヴァーズ、グローリーヴェイズでの勝利だ。最後の直線では鋭い追い込みを見せ、イギリスのパイルドライヴァーを1馬身差で差し切り勝ち。出走しなかった前年を挟み、2年ぶりにこのレースを制した。

ラヴズオンリーユーがアタマ差で制し、同年のQE2Cに続く勝利を手にした2021年の香港カップも特別なものがある。一方、アドマイヤマーズが勝った2019年の香港マイルも感動的だった。香港王者のビューティージェネレーションを抑えきって三連覇を阻止しただけでなく、一ヶ月前に亡くなった近藤利一オーナーの弔い合戦という意味合いも持っていた。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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