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アーモンドアイの“ラスボス”伝説、ルメール騎手が語る「ジャパンカップ2勝」の記憶

アーモンドアイのラストランとなった2020年のジャパンカップから5年。クリストフ・ルメール騎手がIdol Horseに、2度のジャパンカップ制覇を挙げた名牝の伝説を語った。

アーモンドアイの“ラスボス”伝説、ルメール騎手が語る「ジャパンカップ2勝」の記憶

アーモンドアイのラストランとなった2020年のジャパンカップから5年。クリストフ・ルメール騎手がIdol Horseに、2度のジャパンカップ制覇を挙げた名牝の伝説を語った。

クリストフ・ルメール騎手は、アーモンドアイが2018年のG1・ジャパンカップでゴール板を駆け抜けた時の時計を尋ねられると、迷うことなく答えた。

「2分20秒6ですね。2400mの世界レコード。特別なものでした」

また、2年後の2度目のG1・ジャパンカップ勝利後、彼女が受けた畏敬の念に満ちた称賛も忘れることはないだろう。彼女のラストランであり、コロナ禍の影響による入場制限が敷かれる中で、東京競馬場の巨大なスタンドには約1万人のファンしか入ることができなかった。

「スタンドの前、ファンの前に姿を見せるのはあれが最後で、日が沈みかけていて、あの日はどこか神秘的な雰囲気に包まれていました」とルメールは語る。

「大歓声ではなく、拍手が起こり、人々が『今、凄いことが起こった』と言っているかのように感じられました。『日本競馬のレジェンド、アーモンドアイのラストランを目撃できて幸せだ』みたいな。あれは私のキャリアの中でも本当に特別な瞬間でした」

アーモンドアイが“特別”でなかったことなど、ほとんどない。

引退後もアーモンドアイは、ゲームとアニメで展開される『ウマ娘プリティーダービー』で人気を博している。『The Twinkle Legends』シナリオ内のコンテンツ『Dream Fest』でシークレットボスとして登場するウマ娘としての名牝は、ユーザーの間で「ラスボス」との異名をとっている。

言うまでもなく、彼女を倒すのは至難の業だ。

しかし現実においても、アーモンドアイは驚異的な実績を残した。2度のジャパンカップ制覇のうち最初の勝利は、クラシック戦線で無敗のまま桜花賞、オークス、秋華賞を制し、牝馬三冠を達成した3歳シーズンの締めくくりに訪れた。

2年後、5歳となった2度目のジャパンカップは、キャリアを締めくくるだけでなく、その伝説をさらに高めるものとなった。

その間、アーモンドアイはG1・天皇賞秋を2度、G1・ヴィクトリアマイルを制し、適性距離より短いG1・安田記念でも2回入着。海外遠征先では、G1・ドバイターフでその輝きを世界に証明した。

ルメールは、国枝栄厩舎のアーモンドアイが出走した15戦のうち、1戦を除くすべてのレースで手綱を取った。このコンビは新潟1400mの新馬戦でスタートしたものの、陣営がトップクラスの期待馬だと信じていた割には、予想通りの結果とはならなかった。

アーモンドアイは1.3倍の1番人気に推されたが、結果は2着に敗戦。裁決委員はルメールに進路妨害の制裁を科した。

ルメールは、アーモンドアイがスタートに遅れて後方からの競馬になり、その後馬群を縫うように進出していったところで前が詰まった場面を振り返る。前方では減量を利かせた野中悠太郎騎手が、ニシノウララで逃げ込みを図っていた。

「最後、アーモンドアイは飛ぶような走りでした」とルメールは言う。「彼女があまりにも猛烈に加速したため、目の前にいた馬との距離がすぐに詰まってしまい、他馬と接触してしまいました。他の馬の倍のスピードが出ていたので、制裁を受けてしまったのです」

「レース後、トレーナーにはこう言いました。『OK、今日は負けでした。でも心配しないでください。アーモンドアイには素晴らしい加速力があります。次は間違いなく勝ちますから』と」

そして、アーモンドアイはその通りにしてみせた。東京での未勝利戦を皮切りに、快進撃を続けた3歳シーズンを通じて、7連勝を飾ったのである。

「馬が成長していく過程を作り上げ、G1レースで戦える馬に育て上げること、これこそが私の仕事の醍醐味です」とルメールは語る。

「もちろん、アーモンドアイには天性の能力がありました。馬体も逞しく、心肺機能に優れ、精神的にもタフでした。それでも勝ち続けるにはレースごとに良化していく必要があり、実際それに応えてくれました」

「オークスには勝てると確信していましたが、マイルの桜花賞については、その時点ではマイルG1を勝つ準備がまだできていないのではないかと思っていました。しかし彼女はずば抜けた存在だったので、結局は見事な形でそれをやってのけました」

「ですが、アーモンドアイには間違いなくまだ良化の余地があり、さらに強くなり、レース前半からもっとスピードに乗れる余地がありました。最初のジャパンカップまでは、ずっと成長途上にあったのかもしれません。そして、そのレースで彼女は頂点に達し、完成の域に達したのでしょう」

Almond Eye 2018 Japan Cup
ALMOND EYE, CHRISTOPHE LEMAIRE / G1 Japan Cup // Tokyo Racecourse /// 2018 //// Photo by @s1nihs

2018年のジャパンカップは、早い逃げを打った前年の菊花賞馬キセキの演出もあって、衝撃的なレースとなった。

出走メンバーにはジャパンカップ前年覇者のシュヴァルグランや、アーモンドアイ不在の翌年にジャパンカップを制覇するスワーヴリチャードも名を連ねていた。その中で、アーモンドアイは1.4倍の1番人気だった。

「彼女はすでにスーパースターと見なされていました」とルメールは言う。「この世代の最強牝馬でしたが、古馬や牡馬相手にどのようなパフォーマンスを見せるのか。誰もがそのような相手との対戦を楽しみにしていましたし、アーモンドアイは自身の実力を示してみせました」

「私の観点から言えば、向こう正面で勝負はついていました。アーモンドアイはその時点でとても楽に走っていたからです」

「キセキが引っ張るペースは私たちにとって良いものでしたし、彼ならラスト200mまで連れて行ってくれると確信していました。私の頭の中では、アーモンドアイをリラックスさせ、彼女自身のリズムで走らせることができた、向こう正面の時点でやる事は終わっていたのです」

アーモンドアイはキセキに並びかけ、他の馬たちはすでに勝負あったかのように置き去りにしていった。ルメールが合図を送ると、その加速は鮮やかで、決定的なものだった。

年度代表馬のタイトルを決定づけたこのジャパンカップについて、ルメールはこう語る。

「3歳牝馬として斤量の恩恵は少しありましたが、ハイペースにもかかわらず、彼女はラスト200mで再びギアを上げました。あれは本当に、本当に印象的でした」

2年後、状況は異なっていた。アーモンドアイは、すでにトップホースとしての地位を確立した存在として、3歳馬の新たな波を迎え撃つ立場にあった。相手は2頭の三冠馬、翌年のジャパンカップを制する三冠馬のコントレイルと、無敗の三冠牝馬となったデアリングタクトである。

「彼女は3世代の馬たちと対戦し、そのすべての世代にトップクラスの馬がいましたが、アーモンドアイはそのすべてを打ち負かしました。あのレースは彼女の強さを本当に証明するものでした」

「三冠馬と三冠牝馬を破り、彼らが2着と3着だったわけです。そう、アーモンドアイこそがすべての中で最強でした。あれは驚くべきパフォーマンスでした」

「アーモンドアイとのレースの中で一番楽しかったレースです」とルメールは明かす。

「その前、天皇賞秋では日本馬最多となるG1・8勝という記録を樹立しました。あの時はプレッシャーがありました。絶対に勝たなければならないレースでしたし、長い休養明けの復帰戦でもありましたから。あの日、記録更新は至上命題で、負けるわけにはいきませんでした」

「アーモンドアイが勝った時、ジャパンカップが最後のレースになると分かっていたので、もうプレッシャーはありませんでした。パドックからウイニングランまで、彼女の背中での一分一秒を楽しみたいと思っていました。私にとって100パーセント、喜びに満ちた30分間でした」

世界の競馬ファンが初めてアーモンドアイの衝撃を知った勝利は、4歳シーズン初戦となったメイダン競馬場の1800m戦、2019年のG1・ドバイターフだった。2017年の優勝馬、ヴィブロスを1馬身1/4差で下すのに、ベストの状態である必要さえなかったとルメールは明かす。

「ポテンシャルを発揮するという点では、あれはベストパフォーマンスではありませんでした」

「それでも、残り400mで違いを見せつけるような、あの卓越した末脚はありました。少なくとも、あの海外遠征での勝利によって、『海外でも一流だ』と言えるようになりました」

アーモンドアイのキャリアで、唯一と言っていい“つまずき”は、4歳シーズン最終盤のG1・有馬記念だった。もう一頭の名牝、リスグラシューの遙か後ろで9着に敗れ、期待を裏切る結果に終わった。

ルメールは「あのときだけでしたね。有馬記念の1ヶ月前にスケジュールが変わり、フレッシュすぎて気持ちが入りすぎていたのが痛かったです。レース当日は非常に力んでいて、最高のレースをさせてあげることができませんでした」と述べ、休み明けの調整過程を悔やむ。

「アーモンドアイはとても賢い牝馬で、他のすべてのレースでは、ジョッキーにとって夢のような乗り味でした。すぐに折り合いがつき、自分で息を入れて、何をすべきか分かっているかのようでしたから」

「私はただ、勝つためにアーモンドアイを正しい位置取りに誘導するだけでよかったんです。調教などではとても大人しい馬でしたが、コースに足を踏み入れた途端、彼女は戦士のようでした。リングに向かうボクサーみたいなイメージです」

「ゲートに入ると、『さあ!ゲートを開けなさい、レースの時間よ』という感じでした。だからレース前の数分間、落ち着かせる時間が必要でした。アーモンドアイは身体能力だけでなく、強い精神力を兼ね備えた真の競走馬でした」

引退後、アーモンドアイは繁殖牝馬としてノーザンファームに帰郷した。

これまでの産駒には、エピファネイア産駒で2勝を挙げているアロンズロッド、8月にデビュー勝ちを収めたモーリス産駒のプロメサアルムンド、キタサンブラック産駒の1歳牝馬、そして近年のシルクレーシングを代表するもう一頭の大スター、イクイノックスを父に持つ当歳牡馬がいる。

アーモンドアイがターフに残した功績はあまりに大きく、子供たちがその領域に匹敵する可能性は低いかもしれない。それでもファンは、母の輝きを少しでも受け継いでいることを期待して、熱心に産駒たちを見守り、その活躍を追っていくだろう。

しかし、引退後もアーモンドアイの伝説には続きがある。『ウマ娘』の世界での活躍だ。ゲームやアニメシリーズでのキャラクター化を通じて、この名牝は特別な存在であり続け、かつて彼女が支配した競馬というスポーツに、新たなファンを呼び込んでいる。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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