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2024年ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)、最終順位に従って一人ずつ名前が呼ばれるなか、13番目と14番目、最後の2人として札幌競馬場のパドックに入ってきたのが戸崎圭太騎手と川田将雅騎手だった。

厳密に言えば、観衆に最後に名前を呼ばれたのは川田だ。最終獲得ポイントは、ほかの全騎手を下回る10点。そのうち6点は、騎乗馬がレース前に競走除外となったことで与えられたものだった。最下位の騎手としてパドックを横切り、列の端にある自分の位置まで長い距離を歩くことになっていた。

ところが、騎乗用ズボンとブーツに、大会共通の濃色ジャケットを身につけた川田は、突然駆け出した。大げさな全力疾走に、観衆から歓声と笑いが湧き起こった。

川田は、Idol Horseの取材に当時のことを問われると、「ほかの先輩日本人騎手たちに最下位をいじられていたので、表彰式に入場するとき全力で走って、楽しんでいる姿を見てもらおうとしたんです」と説明。当時を楽しそうに振り返った。

その川田を待っていたのが、同じくJRAリーディングジョッキーに輝いたことのある戸崎だ。

戸崎はその数カ月後、咄嗟に飛び出した「Very very horse」というコメントが大きな話題となり、ネット上で数々のミームを生んだだけでなく、戸崎のユーモアのセンスや、自分自身を笑いの種にできる人柄を印象づけた。

さらには、自身が主役を務めるYouTube番組『戸崎圭太のベリベリチャンネル』の誕生にもつながった。肩肘を張らない気楽さと楽しさ、そして欠かせないユーモアが番組全体を貫いている。

それから2年近くの月日が経ち、北海道で行われたセレクトセールで、あのWASJでの出来事について話を向けられた戸崎は、Idol Horseの取材にこう話した。

「競馬の魅力を伝えたいなと。ジョッキーが表に出る機会はなかなかないので」

「ユーモアがあると言っていただけるのは嬉しいです。YouTubeチャンネルを通じて、騎手の仕事以外にも、普段のプライベートも出せたら良いなと思っています」

Keita Tosaki's YouTube Channel
KEITA TOSAKI’S YOUTUBE EPISODES / Tosaki’s Very Very Channel // Image by Idol Horse

札幌競馬場でのあの夕方に話を戻そう。パドック外周の観客エリアからは、2人の様子を面白がる好意的な声が聞こえてきた。

そこは、憧れの騎手たちを一目見ようとその場に残ったファンで埋め尽くされ、最終戦で土壇場の勝利を挙げて総合優勝を決めたブラジルの『マジックマン』こと、ジョアン・モレイラ騎手にも声援が送られていた。

一方、戸崎と川田は勝利から遠く離れ、騎手たちの列のいちばん端の方に立っていた。それでも、この日の散々な結果に気分まで沈んでいないことは明らかだった。

控えめながらもどこかコミカルな表情、さりげなくおどけた仕草、笑顔や笑い声。そのすべてが、目を凝らしていた人々の視線を引きつけた。戸崎と川田は自分たちの成績を笑いに変え、札幌のパドックを、昔ながらのコメディーをもう少し控えめにしたような舞台を展開した。それは往年の喜劇コンビ、ローレル&ハーディを思わせ、マルクス兄弟をもほうふつとさせる掛け合いだった。

「騎手控室では大体、騎手同士でああいうやり取りをしています。ファンの皆さんにその日常を見てもらえる、めったにない機会でした」と川田は説明する。

入場料を払い、JRAの巨大な馬券市場に賭け金を投じ、憧れのヒーローを見るように騎手たちを見つめ、応援するごく普通の人々。札幌で川田と戸崎が観衆を楽しませた背景には、そうしたファンとつながりたいという思いがあった。

「競馬はファンの皆さんとつながっていく必要があると思います」と戸崎は述べる。

「競馬は『ファンがあってこそ』だと思っているので、こうした取り組みを通じて、もっともっと盛り上がってくれたらなと思います」

戸崎のYouTubeでの活動は、ファンへの恩返しであり、自分の世界を紹介するための、戸崎なりの取り組みの一つだ。

『戸崎圭太のベリベリチャンネル』という番組名とコンセプトそのものに、自身の言い間違いを笑いに変える自虐的なユーモアが込められている。

そのチャンネル名は、ダノンデサイルが2025年のG1・ドバイシーマクラシックを制した後、戸崎が口にした英語の言い間違いをもじったものだ。マイクを向けられ、興奮も冷めやらぬなか、戸崎は英語でこう言った。「Very very horse」。競馬ファンはその瞬間を逃さず、瞬く間に拡散させた。

戸崎は、その“ネタ”を受け入れた。番組は気取らず、楽しく、情報に富み、親しみやすく、人気も高い。チャンネル登録者数は13万9000人。最も再生された回は48万3000回を記録し、同じくベテランの岩田康誠騎手がゲスト出演していた。2人が着ていたTシャツの胸元には、ドバイで生まれた不朽のフレーズがプリントされていた。

「Very Very Horse. Good Horse. Very Very Happy.」

ほかの回では、「ベリベリBBQ」を楽しんだり、競馬界のスターたちと語り合ったりしている。友人たちと食べ物やワインを買い出しに行き、その後、夕食を囲んで語り合う回もある。ある回は、戸崎が「Very Very Horse」のキャップをかぶって羽田空港に現れるところから始まる。2025年の英インターナショナルステークスでダノンデサイルに騎乗するため、英国へ渡って帰国するまでの旅を記録したものだ。

ドーハで乗り継ぐ空の旅、ヨーク観光、そしてレース後の様子まで、ファンは追体験できる。リーディングジョッキーの世界の舞台裏をのぞくこの番組で、鍵を握るのはユーモアと親近感だ。

「YouTubeの企画は自分で考えます」と戸崎は説明した。「チャンネルを手伝ってくれているスタッフもいるので、提案したり話し合ったりして運営しています」

川田は自身のYouTube番組を持っていないが、以前からInstagramを通じて体験を共有してきた。スポンサーである飲料ブランドのサントリーも登場するその投稿には、キャンプ、釣り、食事、馬、レース、競馬場外でのイベント、そして愛車のハーレーダビッドソンが並ぶ。

ワールドオールスタージョッキーズ後のあの楽しい時間は、川田が持ち前のユーモアを見せると同時に、騎手も馬を下りれば、それぞれに個性があることをファンへ意識的に伝えようとしたものだった。

Yuga Kawada and his Harley Davdison photo shoot in 2024
YUGA KAWADA & HARLEY DAVIDSON MOTORCYCLE / 2024 // Photos by @yuga.kawada_official (Instagram)

「普段、レースに臨むときは、『きちんと仕事をしないと』という思いで臨んでいます。ただ、WASJ表彰式のあのときはジョッキーだけの時間でもありましたので、楽しんでいる姿を出しました」と川田は話した。

「より自分たちのプライベートな一面を見てもらい、ファンの皆さんに楽しんでもらいたいと思っていました。なので、戸崎さんと冗談を言い合いながら楽しんでいました」

「僕らが日本で公の場に出るのは、記者会見と勝利騎手インタビューくらいしかありませんが、どれも真面目な場なので、ふざけたことは言えません」

「なので、ああしたイベントやYouTubeチャンネルを通じて、自然体でリラックスした一面もファンの皆さんに届けたいと思っています」

川田は、自身の騎手人生の大半を真剣に、集中して仕事へ取り組んできたと説明する。レースに向けて馬にまたがるその瞬間まで、馬の準備に携わったすべての人に対して「責務」があると感じているという。

「騎手の仕事は、たくさんの人が馬に関わってきた中で、最終的にジョッキーが乗っているという立場だと思っています。なので、僕がどういうより、『みんなでやっている』という思いがあり、『楽しんでやっている』という感覚はありませんでした」

「でも、もう40代になりましたし、騎手として残された時間の方が限られる中で、引退の方が明らかに近いことも分かります。それでも、この仕事が本当に好きでやっているからこそ、自分自身も楽しませてあげたいな、と思うようになりました」

結局のところ、スポーツの本質は人々を楽しませることにある。多彩なスポーツが競い合うなかで、競馬が地位を保ち、存続していけるかどうかは、一般の人々、つまりファンやこれからファンになるかもしれない人々と、どれだけ深くつながれるかにかかっている。

ユーモアは、人と人を結びつける強い力だ。その何よりの証明となっている戸崎は、自身についてこう表現した。

「母親もユーモアある人柄だったので、自分もそこから受け継いだのだと思います」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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