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騎手にとって、香港競馬ほど素晴らしい騎乗の場は世界のどこにもない。ただし、ほかのどの国や地域ともまったく違い、どれほど腕の立つ騎手でも向き合わなければならない難しさがある。

11月8日の日曜開催では、英セントレジャーを制したサフィー・オズボーン騎手が香港で初めてレースに騎乗。12月2日には、ロッサ・ライアン騎手が初の短期騎乗を始める。

ここへ招かれるほかの外国人騎手と同じく、2人とも十分な実績を持っている。だが、母国での実績は香港競馬への扉を開いてくれるだけで、来たからには、ここの競馬に適応しなければならない。

まず違うのは、レースの進み方だ。人々はゴール前の攻防に目を向けるが、香港競馬ではスタート直後の攻防がレースの行方を大きく左右する。騎手たちは最初の100mか200mで、あっという間に位置を取る。隊列が落ち着いたときにどこにいるかで、勝敗が分かれることもある。

また、序盤のペースがほかの国や地域よりかなり速いことも、頭に入れておかなければならない。

ハッピーバレー競馬場では、対応はさらに難しくなる。最初のコーナーまでの距離が短い1650mでは、ゲートが開いた瞬間から集中して的確に動き、自分がどう乗るかをはっきり決めておく必要がある。1200mの発走地点もコーナーに近く、最初のコーナーまでに位置を取る時間はほとんどない。

ほかの国や地域では、外を回るロスも香港競馬ほど勝敗に響かない。香港では、内から3頭目か、それ以上の外を回って余計な距離を走るわけにはいかない。今年、新たにやって来る騎手への3つの教訓を取り上げたコラムでも説明したように、香港のレースで最も大切なのは、距離のロスを抑えることだ。

その理由はレーティング制度にある。香港ではすべての馬にレーティングが与えられ、近いレーティングの馬同士が同じクラスで走る。ハンディキャッパーは、すべての馬に等しく勝つチャンスがあるよう、負担重量を決める。

この仕組みが実によく機能しているため、各馬の力は本当に拮抗している。10頭が2馬身以内にひしめいてゴールすることもある。だからこそ、わずか1mがものをいい、ミスは許されない。

開催は週に2回しかないので、出走馬の戦績やレースぶりを研究する時間はある。その時間を活用すべきだ。レースでの各馬の勝負服の色も覚えておく。ゲートが開いたら、勝つ可能性が高いのはどの馬かを見分け、その後ろについていけるようにしたい。

だからこそ、相手それぞれの勝負服の色を知っておくことは、勝つためにとても大切なのだ。

調教での騎乗も非常に重要だ。香港に来たら、レースで乗る予定のない馬も含め、追い切りから軽めの調教まで、数多くの馬に乗らなければならない。そして、調教を終えても競馬場に残ることだ。

外国人騎手の多くは競馬場内に住んでいる。最後の調教が終わればすぐに帰りたくなるだろうが、残っていれば得るものがある。調教師が調教を見るスタンドへ行き、話をして、調教師たちのことをよく知ることだ。

Saffie Osborne winning the 2026 St Leger aboard Highwayman
HIGHWAYMAN, SAFFIE OSBORNE / G1 St Leger // Doncaster /// 2026 //// Photo by Richard Sellers/PA Images via Getty Images
Bluestocking wins the Arc
BLUESTOCKING, ROSSA RYAN / G1 Prix de L’Arc de Triomphe // Longchamp /// 2024 //// Photo by Scoop Dyga

新たにやって来る騎手には、一つ有利な点もある。香港の騎手には、オーストラリアや英国のような騎乗依頼を仲介するエージェントはいない。

ただし、初めて来たときだけは、マネージャーがつく。香港ジョッキークラブ(HKJC)がエージェントを手配し、実際に騎乗馬の確保を手伝ってくれるのだ。香港競馬を常時の拠点にするようになったり、当地で繰り返し騎乗する常連になったりすれば、この支援は受けられない。

その支援がある間も、エージェントに頼り切ってはいけない。毎朝、調教師に話しかけ、調教で管理馬に乗せてもらえないか聞くことだ。

競馬場の外では、さまざまな馬主から昼食や夕食に誘われるだろう。付き合う相手は、きちんと見極めなければならない。調教師や、自分が乗っている厩舎の馬主と一緒に行くのがよい。そうすれば、自分の身を守れると分かるからだ。関わるべきではない人たちと付き合うことは避けたい。

香港競馬の賞金は世界最高水準であり、騎手は勝つたびに優勝賞金の10%を受け取る。大きなお金が動く世界だからこそ、不適切な付き合いで自分の立場を危うくしないよう、関わる相手を慎重に見極めなければならない。

そして、香港競馬での騎乗には、メンタリティの難しさもある。これに適応できない騎手は多い。多くの場合、自分の実力を過大評価するところから問題が始まる。母国で成功してきたため、香港でも勝てて当然だという気持ちでやって来る。

しかし、新たに香港に来た騎手に有利な条件はない。誰もがもう一度、一から自分の力を証明しなければならない。

開催日程も、その難しさに拍車をかける。ほかの国や地域では連日レースがあるのに対し、香港の競馬開催は週に2回だけだ。そのため、勝てない騎乗が続くと、未勝利の期間が何週間にも及び、その現実を受け入れるのは難しいこともある。

シーズンを通じて1開催当たり平均1勝を超える騎手は、通常、香港の騎手全体で1人か2人しかいない。母国で圧倒的に勝ってきた騎手なら、その現実に慣れるまでには時間がかかる。

腕のいい騎手でも、力の劣る馬で勝つのは難しい。そして、香港に来たばかりの騎手は、まさに腕はよくても、そうした馬に乗る立場にある。有力馬の騎乗依頼は、すでに当地で実績を築いた騎手たちに回っている。

新顔が乗るのはたいてい人気薄で、近走不振だったり、今のレーティングでは力が足りなかったりする馬だ。そういう馬に乗るには、考え方を変える必要がある。馬の力だけで勝たせてもらおうと思ってはいけない。騎手が馬を助けなければならないのだ。

勝っているとき、香港競馬ほど素晴らしい場所は世界にない。だが、うまくいかないときには、これほどつらい場所もない。

香港競馬で思うように勝てなくても、落ち込まないでほしい。同じ思いをしているのは、自分だけではない。非常に優れた騎手の多くが、厳しい現実を思い知らされて香港を去っていった。

それでも、これだけは覚えておいてほしい。その経験を経て帰国するときには、誰もが以前より上手な騎手になっている。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

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