クリストフ・ルメール騎手はこの秋、日本で目覚ましい快進撃を続けている。
シーズン終盤に調子を上げ、リーディングジョッキーの座を奪取する好調ぶりは、過去8年で7度のタイトルを手にしてきたフランス出身の名手にとっては、決して珍しいことではない。だが、今季はその中でも際立ってペースが速く、日本の熱狂的な競馬ファンを魅了し続けている。
10月19日以降、ルメールはJRAのG1を3連勝し、さらに地方交流のJpn1・JBCクラシックも制した。この間の勝率は46パーセントに達し、その勢いのままリーディング首位へと駆け上がっている。そして今週末には、JRAのG1・4連勝が懸かる大一番に臨む。
彼自身が『ポジティブサイクル』と呼ぶこの流れは、競馬場の外にも及んでいる。京都市中心部にオープンした“競馬”がテーマのカフェ&ブティックは、業界の枠を越えてこのスポーツの魅力を伝えようとする、ルメールの新プロジェクトだ。
ルメールが香港ジョッキークラブ(HKJC)主催の騎手招待競走、インターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ(IJC)への招待を受けたのも、ここ最近の好調ぶりを考えれば不思議ではない。大会は12月の第2水曜日、ハッピーバレー競馬場で開催される。
もっとも、その招待は2018年の大会以来で、空白の長さは一見不思議にも映る。しかし、ルメール自身は一定の理解を示している。
ルメールはIdol Horseの取材に、「日本でリーディングジョッキーのタイトルを獲っていても、ここ数年はIJCに招待されませんでした」と語る。
「とはいえ、日本で騎乗する外国人として、日本や他国の代表に外国人を選ぶのは容易ではないことも理解しています」
「そのことで不満や怒りを抱いたことはありません。今年は声をかけていただき、日本を代表できることをとても誇りに思っています。私は日本に来て10年、日本馬で世界各地のレースを勝ってきました」
「日本は私の第二の母国です。私はフランス人ですが、自分の中では日本はフランスと同じくらい大きな存在です。日本という国を代表して、名手が集う香港競馬で騎乗できるのは、とても楽しみです」
今年12月のIJCは、とりわけ豪華な顔ぶれが揃う。ザック・パートン、ジェームズ・マクドナルド、ジョアン・モレイラといった香港お馴染みの名手に加え、レイチェル・キング、ホリー・ドイル、ウィリアム・ビュイック、ウンベルト・リスポリ、ミカエル・バルザローナが名を連ねる。
さらに、ライアン・ムーア騎手も大腿骨骨折からの回復次第で参戦に意欲を示している。
ルメールは2009年、ライアン・ムーア、ジョニー・ムルタと並ぶ三つ巴でIJCタイトルを分け合い、その後もIJCの総合成績で2位、3位に入っている。ハッピーバレー競馬場の特別な舞台に、再び立てるのを心待ちにしている。
「ハッピーバレーで騎乗すること自体が、とても大きな興奮を与えてくれます」とルメールは話す。
「あそこは本当に独特な場所で、世界の他の競馬場とはまったく違います。ビル群の真ん中でナイターが行われ、小さくてトリッキーなコースを走る。とても特別で、なかなか味わえない瞬間です」
「香港のジョッキーにとっては同じ競馬場で毎週乗るのが習慣かもしれませんが、海外から遠征する私たちには本当に特別な場所です。照明や雰囲気に加えて、トリッキーだがフェアなこのコース形態もまた素晴らしい。騎手には高い技術が求められ、それがさらにエネルギーを引き出してくれます」
そんなルメールは今週末、今季未勝利ながら素質の高さを評価されるステレンボッシュとともに、G1・エリザベス女王杯に挑む。そのエネルギーは、相変わらず前向きそのものだ。これもまた、『ポジティブサイクル』である。
「最近、私が乗っている馬たちはコンディションが良くて、本当にいい走りをしてくれています」とルメール。「連勝するとジョッキーはもっと自信を持てるようになり、自信を持って騎乗するとレースに勝てるようになります。レースに勝てば、さらに自信がつく。本当にポジティブなサイクルなんです」
「私はただ、馬たちを勝てるベストポジションに導くだけです。馬はそれに応えてくれます。騎乗スタイルを変えたわけではありません。自信を持って乗れているときは、正しいタイミングで正しい判断ができる」
「それが、良い馬に乗ることと同じくらいジョッキーにとって大事なことだと思いますし、今まさにそれが自分の中で起きているんです」
「もちろん、G1を3連勝したことでファンから大きな期待がかかっているのは分かっていますが、馬の状態が良くなければ結果は出ません。僕は特別なことや魔法のようなことをしているわけではなく、いつも通り自分のスタイルで乗っていて、馬がそれに応えてくれているだけです」


一方で、京都のカフェ&ブティックでは、ルメールは明らかに「特別なこと」をしている。
ルメールには、競馬をプロモーションし、このスポーツの裾野を広げたいという純粋な思いがある。2022年には自身のアパレルブランド『CL Street Jockey』を立ち上げ、これまではオンライン販売や百貨店、ポップアップストアなどで展開してきた。
その延長線上に生まれたのが、京都市中心部にオープンした競馬をテーマにしたカフェ&ブティックだ。11月5日の正式オープンでは、日本競馬界の象徴であり友人でもある武豊がテープカットを務め、フランス総領事館の代表や日仏経済団体のトップ、京都市の代表者も出席した。
さらに、このプロジェクトを形にしてきた工場スタッフや関係者も招き入れ、ともに新たな門出を祝った。
「オープニングに皆さんが立ち会ってくれたことは、私にとってとても重要でした。この場所は、競馬を異なる形で発信するためにチームと一緒に立ち上げました。とても新しく独自性のあるコンセプトで、ギャンブルという側面を除けば、100%競馬に特化しています」
「競馬ファンも、これから競馬を知る人たちも、競馬や競馬場の雰囲気を楽しめる場所にしたかった。時に閉ざされていて近づきにくく感じられるこの世界に、入ってきやすい入口をつくりたかったのです」
カフェ・ブティック『CL Fashion & Cafe』には、いくつかのテーマエリアが設けられている。週末はレースのライブ中継を放映し、平日は競馬ドキュメンタリーを流すカフェエリア。そして、コースに用いられているのと同じクッション性の床材を敷き、ルメールのトロフィーの一部を展示したパドックゾーン、勝利の瞬間を象徴するウィナーズサークルエリア、ジョッキールームを再現したセクションだ。
「ジョッキールームのエリアには、私が実際に使ってきた騎手用ズボン、ボディプロテクター、ヘルメット、ゴーグル、ムチ、勝負服、鞍、各種の腹帯を展示しています」
「ファンのみなさんは、この“舞台裏”に少し入れる感覚をとても気に入ってくださっているようです」
「多くの人は、競馬はギャンブルだけのものだと思っています。でも実際には、馬や人の物語を語れるスポーツです」
「それは、競馬について本を書くことに近いのです。物語を伝えることこそが、私のやりたいことであり、このスポーツを広める方法だと思っています」
「皆さんに競馬を観て幸せになってほしいですし、シーザスターズ、ウィンクス、ゼニヤッタ、イクイノックスのような馬を思い出して、『ジャパンカップや凱旋門賞で勝ったとき、そこにいた』『BCクラシックを勝ったとき、あの場にいた』と語れるようになってほしいのです」

ルメールの物語は、年を追うごとにレジェンドの域へ近づいている。
今週末、今季未勝利の牝馬でG1・4連勝を決めれば、レジェンドとしての評価はいっそう高まり、同時に、彼が情熱を注ぐこのスポーツを広く伝えるための個人ブランドへの注目も一段と強まるだろう。
もちろん、香港でのIJC制覇がその物語に加わっても不思議ではない。

