競馬史に残るような名馬が登場すると、歴代最強馬との比較や「もし対戦したらどちらが勝つか」といった議論は避けられない。
しかし、議論の余地がない事実がひとつある。デヴィッド・ヘイズ厩舎の快速馬カーインライジングよりも速く1200メートルを駆け抜けた馬は存在しないということだ。
サイレントウィットネス、セイクリッドキングダム、さらに過去30年間香港が誇ってきた歴代の名スプリンターたちも、その記録には及ばない。
カーインライジングは、日曜日のG1・センテナリースプリントカップの前からすでにコースレコード保持者だったが、67秒2の時計で自身の記録を0秒2更新した。
0秒2と聞くとわずかな違いに思えるかもしれないが、カーインライジングほどのスピードで走る馬にとっては大きな差だ。
「次は1分6秒台か?」と、ザック・パートンは笑いながら検量室に戻る際に語った。
3馬身1/4差の勝利は、最後の100メートルでパートンが手綱を緩めたことを考えれば、さらに大きな着差になっていた可能性が高い。スタートからゴールまで他馬を圧倒し、これで無敗の9連勝を飾った。
「あれだけ前にいて、周りに馬がいなくて、後ろから迫る馬の気配もない…不思議な感覚だったよ」
そう語ったザック・パートンは、この日2勝を挙げ通算1812勝とし、香港競馬の最多勝記録(ダグラス・ホワイトの1813勝)にあと1勝と迫った。
このレースでパートンは決して楽な枠順ではなかったが、スタートで強気に出て主導権を握ると、果敢な先行策で他馬を寄せ付けず、最後までハイペースを刻み続けた。
「これほどの快速馬たち相手に、うまくスタートして楽に先手を取れるのは彼の万能性を示しているよ」デヴィッド・ヘイズ調教師は語る。

ヘイズはカーインライジングを歴史的名馬と比較することをためらわない。少なくとも、自身の調教師人生においては最強と断言する。
「これまで関わった中で最も優れたスプリンターであり、恐らく最も優れた馬だろう。彼の走りはちょっと常識では考えられないよ」
ジャパンカップを制したベタールースンアップを手がけ、香港で2度の調教師リーディングに輝き、オーストラリアの主要レースをほぼ制覇した名伯楽がここまで言うのだから、これは最大級の賛辞と言えるだろう。
「勝ち切る能力があり、並外れた巡航速度を持ち、そこからさらに加速できる。これに対抗するのは非常に難しいよ」
そう語るヘイズがもう一頭名前を挙げたのが、オーストラリアの大英雄ブラックキャビアだ。25戦無敗のままターフを去った伝説的スプリンターだ。
「ブラックキャビアとは直接戦ったことがあるが、彼には彼女の持っていた特性がいくつか備わっている。もちろん、ブラックキャビアそのものとは言わないが、彼がライバルたちに対して見せる圧倒的なパフォーマンスは、彼女がしていたこととよく似ているよ」
現在の比較対象として最も的確なのは、カーインライジングが打ち負かしてきた馬たちだろう。その筆頭が今回2着に敗れたヘリオスエクスプレスだ。
「彼なら世界のどこに行っても十分に戦えるだろう」
カーインライジングは今後、中国広州近郊の最先端施設、香港ジョッキークラブ所有の従化トレーニングセンターに移動し、休養を挟んで2月23日のG1・クイーンズシルバージュビリーカップ(1400m)に向かう予定だ。
そして、さらに長期的な目標として見据えているのが、ヘイズの故郷オーストラリアの大舞台、総賞金2000万豪ドル(約9600万香港ドル)を誇る世界最高賞金の芝レース、ジ・エベレスト(1200m)だ。
「世界最高賞金の芝レースであり、彼にとってベストな距離で行われる。今季の香港でのレースをしっかり戦い抜き、その後ジ・エベレストに向けて仕上げていくつもりだ」