ジェリー・チョウ騎手の今シーズンは、セルフインプルーブメント(馬名の意味は「自己改善」)という名の馬から始まった。その後、飛躍を遂げた今シーズンの物語は、香港の最優秀地元騎手に贈られるトニー・クルーズ賞の初受賞で締めくくられようとしている。
昨年9月、初の海外遠征となった韓国競馬で、チョウは伏兵扱いだった香港所属のスプリンター、セルフインプルーブメントをG3・コリアスプリント勝利に導いた。日本を代表する名手、武豊騎手が騎乗した単勝オッズ1.3倍の本命馬を退けての勝利だった。
この勝利で、チョウの名は国外の競馬界にも知られることになった。そして、その勝利は今季の快進撃を象徴するものにもなった。ここまで47勝*を挙げ、トニー・クルーズ賞争いでは受賞が本命視されている。騎手リーディングでもトップ5に定着し、今季の残り3開催次第では、カリス・ティータン騎手の48勝を超えて単独4位に浮上する可能性もある。
「この賞を獲るのは初めてですし、自分にとって意味があります。香港競馬で騎乗するようになってもう6年になりますが、まだ獲得できていませんでした。でも、ずっと目標にしてきた賞でした」とチョウは語る。「今季は自分にとって素晴らしいシーズンですし、地元騎手なら誰もが獲りたい賞です」
この賞にたどり着くまでには時間がかかった。チョウは2年目のシーズンに58勝を挙げたが、終盤にヴィンセント・ホー騎手に逆転を許した。
「残り1カ月くらいの時点で、獲るチャンスがあると思っていたのを覚えています。でも最終日にヴィンセントが2勝して、それで決まりました」と、チョウは笑う。「その後に見習いを卒業して、減量の恩恵もあまりなくなりました。2ポンドの減量だけになって、騎乗依頼を集めるのが難しくなりました。でも、この賞はずっと獲りたいと思っていたんです」
今、チョウはさらなる高みを目指している。土曜には、来月アスコットで行われるシャーガーカップに、主将のヴィンセント・ホー騎手、ルーク・フェラリス騎手とともに香港チームの一員として出場することが発表された。その舞台も、自身の技術を磨く機会にするつもりだ。
「欧州で騎乗するのも、シャーガーカップに出るのも初めてです。自分にとって大きな節目です」とチョウは言う。「欧州競馬は、流れの面で香港競馬とはまったく違うと思っています。違うものを学べるのを楽しみにしています」

賞に名を冠する本人、トニー・クルーズ調教師もまた、チョウの躍進を評価している。レジェンドと称されるクルーズ師は騎手時代、欧州、とりわけフランス競馬への騎乗遠征を重ね、自らの腕を磨いてきた。チョウのアスコット行きも、その成長の次の一歩だと見ている。
「マシュー・チャドウィック騎手も向こうに行って勝ち、戻ってきた時には騎手としてひと回り成長していました」とクルーズは言う。「もちろん、違う場所で乗ることはプラスになります。ただ、彼は機敏に対応しなければいけませんし、いい結果を出してくれればと思っています」
「でも、どこにいようと、人生では毎日学び、成長しようとしなければいけません。大事なのは学ぶこと、そして良くなることです。毎日が学びの日なのです」
「向こうに行くことは、トップジョッキーたちがどう物事に取り組んでいるかを学ぶ機会になります。レースの組み立て、騎乗の悪い癖を直して良い形を身につけること、そして一流の騎手たちを見て、そこから学ぶことです」
「ジョッキーは自分のミスから学びます。レース映像を見て、どこで間違えたのか、何が起きていたのかを考えます。特に経験がまだ少ないうちは、それが大切です」
クルーズは、若い騎手にはなかなか備わりにくい辛抱強さに、チョウの成長の跡を見ている。
「彼の騎乗スタイルが好きですし、彼の考え方も好きです。とても冷静で落ち着いています。レースで待つことができますし、歴代屈指の地元騎手の一人になる可能性があります」とクルーズは言う。「私の名前を冠した賞を手にすることは、素晴らしいスタートです」

セルフインプルーブメントは、単なる馬名では終わらなかった。それはチョウの努力そのものでもある。何が自分を突き動かしているのかと聞くと、返ってくる答えは驚くほどシンプルだ。
「本当に競馬が好きなんです。だから集中できるんです」とチョウは言う。「騎乗することが本当に好きなんです。だから集中し続けられるし、成長し続けられるんです」
その研究熱心さは、クルーズ師も納得するはずだ。チョウは自宅でザック・パートン騎手の騎乗を丹念に見ている。そしてライアン・ムーア騎手には遠くから憧れてきた。「僕の憧れです」と語る一方、シャティン競馬場で12月の香港国際競走が行われるたび、何年も声をかける勇気が出なかった。
海外遠征の機会も続いている。リヤドで世界の名手たちと同じ舞台に立った夜、ついにムーアの方から声をかけてくれた。
「サウジカップの期間中、ムーア騎手に会ったんです。そうしたら彼から僕に話しかけてくれて、『最近、いい騎乗をしているね』と言ってくれました。それがすごく誇らしかった。本当にうれしかったです」
チョウ自身がこだわっているのは、一般の競馬ファンがあまり気づかないようなレースの細部だ。
「ファンや調教師、馬主は、レースの最後の400mに注目しがちです。でも僕は、一番大事なのは最初の200mくらいだと思っています。ポジションを取って、それから馬を落ち着かせることです」
もともと負けず嫌いなのか。チョウは、少なくともサッカーではそうではないと言う。本人いわく「優しすぎる」性格で、体をぶつけ合うよりもスピードや技術を好む。
「でもサッカーはあくまで趣味で、楽しむためのものです。だから少し優しすぎるところが出るのかもしれません。でも競馬は自分の仕事ですから」とチョウは言う。「いつも勝とうとしています。いつも成長しようとしています」
セルフインプルーブメントで始まったシーズンは、まだ終わっていない。
*勝利数と残り開催数はいずれも本稿執筆時点のもの。