「雨は降る降る人馬は濡れる、越すに越されぬ田原坂」
西南戦争の激戦地の一つ、田原坂を歌った俗謡の一節だ。メイショウタバルの名は、その地名に由来する。
日曜の阪神競馬場では、宝塚記念の出走馬が芝コースに姿を現したその時、6万人を超える観衆を激しい雨が襲った。人も馬も濡れるなかで、メイショウタバルは今年も春のグランプリを先頭で駆け抜けた。
武豊騎手に導かれたメイショウタバルは、1番人気のクロワデュノールの追撃をクビ差でしのぎ、春のグランプリを連覇した史上3頭目の馬となった。そのレースは、父ゴールドシップも連覇した舞台でもある。
武豊にとっては、宝塚記念最多となる6勝目。安田記念に続く勝利で、自身20年ぶりとなる2週連続のJRA・G1制覇を果たし、前週に更新したJRA・G1最年長勝利記録をさらに伸ばした。
「ようやくピークが来たみたいで。遅咲きでした」
レース後のインタビュー、武豊のジョークは雨に濡れる場内を沸かせた。レース直前に降り出した雨についても、悪い印象は持っていなかった。むしろ、そこに運命めいたものを感じ取っていた。
「天国から松本会長が降らせてくれたのかなと思いました」
昨年8月に亡くなった『メイショウ』冠のオーナー、松本好雄氏への思いは、石橋守調教師の言葉にも現れていた。感極まった様子の石橋師も、武豊と同じ思いを口にした。
「松本会長が降らせたんじゃないですかね」
展開を大きく変えた雨は、田原坂の名を持つ馬が連覇を果たすのにふさわしい舞台を整えた。しかし今年のメイショウタバルは、昨年のような逃げ切りを再演して勝ったわけではない。昨年は先手を奪い、そのまま3馬身差で押し切った。今年はコスモキュランダがハナを切り、メイショウタバルはその後ろの2番手に収まった。
「おそらく昨年の今ごろなら、先手を取れないともろさはあったかもしれません」と武豊は話す。
「今までなら、前に馬がいると気になって追いかけていく気性でしたが、今日は落ち着いて走ってくれました」
4コーナー過ぎ、武豊は後続が迫ってくるのを待たずに動いた。予定より早く先頭に立つ形になった。
「まだ余力もありましたし、頑張ってくれる馬なので、なんとか押し切れるかなと思いました」
直線で迫ってきたのはクロワデュノールだった。残り100メートルで差は詰まった。
「本当に、今日はやめてくれという気持ちで追っていました」
クロワデュノールはゴールまで迫り続けた。それでもメイショウタバルは、クビ差だけ前に残った。
今年の宝塚記念は、単なるタイトル防衛というだけではない。メイショウタバルにとって、昨年の初制覇からの一年は順調なものではない。昨年の宝塚記念後は天皇賞秋で6着、有馬記念で13着。今季初戦の大阪杯では、クロワデュノールの2着だった。
クロワデュノールにとっても、この宝塚記念は史上初の春古馬三冠が懸かった一戦だった。すでに大阪杯と天皇賞春を制していた同馬は、宝塚記念も勝てば、父キタサンブラックでさえ達成できなかった記録を完成させるところだった。
その挑戦を阻んだのが、昨年の勝ち馬、メイショウタバルだった。


トレーナーの石橋師にとっても、今年の勝利は昨年とは少し違って感じられた。
「去年は感動したという感じでした。今年はもちろん嬉しいですが、ホッとした気持ちもあります」
「状態には本当に自信がありました。僕は記者会見でそういうことを言うタイプではありませんが、それくらい自信がありましたし、それが結果に出ました」
石橋師はメイショウタバルをいい状態で送り出せると分かっていた一方で、レース当日の難しさも意識していた。
「豊くんにも言いましたが、調教がうまくいっても、レースでうまくいかないことは結構あります。ただ、この2走は返し馬がすごく良かった。見ていて、いい返し馬だし、落ち着いているなと感じました」
「どんどん強くなっています。昨年より今のほうが明らかに強さを感じますし、もっと強くなってくれたらさらに嬉しいですね」
その強さは、メイショウタバルにとって秋の選択肢を広げるものでもある。
メイショウタバルは、10月4日にロンシャンで行われる凱旋門賞に登録している。ただし石橋師がまず気にかけるのは、馬の状態だ。
「馬の状態を見ていきます。凱旋門賞に登録していますから、もちろん気持ちはそちらに向きますが、まずは馬の状態を戻したいと思います」
パートナーの武豊にとっても、この連覇はフランスへ向かうための手応えになった。
「胸を張ってフランスに行けると思います」