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モレイラのダイナミックで特徴的な前傾姿勢のフォームは、レース中でも一目で彼と分かる。そして、その高い勝率が示すように、決して見た目だけのスタイルではない。鐙を長く手綱を短く取って騎乗し、驚異的なバランス感覚で馬の首付近に体重をかける技は、わずかな隙間を突いて馬を操る技術に繋がっている。

その騎乗スタイルは、ライバル騎手から「まるでバイクのライダーを思わせる」と評される。馬群を縫うように進む騎乗を支えているのは、馬の走行バランスをキープする巧みな体重移動技術だ。

モレイラに対する批判として、「ゴール前の力強さに欠ける」や「天才肌だが戦術眼はパートンに劣る」といった指摘があるが、これは的外れに過ぎない。香港での1,237勝・勝率21%を誇る実績こそ、その証左だ。実際、モレイラはレース中の調整能力に長け、意外な展開でこそ真価を発揮する。さらに緻密なラップ判断も武器の一つで、ハッピーバレーでの「中盤の捲り」は香港競馬に革命を起こした。

技術面では鞭を左右に切り替える速さも際立つ。シンガポール時代には、すでに限界を迎えたかに見えた古馬を再び蘇らせる騎乗ぶりから「マジック」と称され、『マジックマン』の異名を得た。

Jockey Joao Moreira

ジョアン・モレイラは、ブラジル南部クリチバ市郊外の貧困地区、ピニャイスで育った。8人兄弟の末っ子であり、本人いわく「やんちゃな馬泥棒」として柵を越えて畑に忍び込み、無警戒の馬車馬に飛び乗ることで騎乗を学んだ。

その後、厳しい指導で知られる名門のサンパウロ騎手学校に入学。伝説的な元騎手で調教師のイヴァン・キンタナとタッグを組んだときから、モレイラの “マジック” は少しずつ磨かれていった。

Jockey Joao Moreira

2017年3月5日、ジョアン・モレイラは香港競馬の1日最多勝記録を更新する8勝をマーク。それまで同地での1日最多勝記録は6勝だった。実況アナウンサーのブレット・デイヴィス氏は8勝目の勝ち馬がゴールした瞬間に「魔法の杖を一振り、煙が立ち上り、これが8勝目のマジックマンだ」と実況し、この “マジックのような” 歴史的瞬間を彩った。

この歴史的一日は、シーズン170勝という空前の記録の途上で刻まれた。しかし、モレイラが1日8勝を挙げたのはこれが初めてではない。2008年には母国サンパウロのシダーデジャルディン競馬場で、2013年にはシンガポールのクランジ競馬場でも、同じ金字塔を打ち立てている。

Jockey Joao Moreira

香港では、モレイラは多くのチャンピオンホースに騎乗し、ラッパードラゴン、デザインズオンローム、ビートザクロック、ホットキングプローンといった名馬で主要レースを数多く制覇した。さらに日本馬のモーリス、グローリーヴェイズ、ネオリアリズムでも香港で勝利し、その手腕を世界に示した。南米では、チャンピオンホースのエウタンベンに騎乗している。

なかでも、モレイラの真骨頂を最も体現したのは、香港競馬史に残る名マイラーのエイブルフレンドだろう。シャティンの直線を切り裂くロケットのような豪脚は圧巻、その追い込みは観衆を魅了し続けた。

数え切れないほどのビッグレースを制してきたモレイラだが、その『名騎乗』として敗れたレースを敢えて取り上げたい。2014年の香港ダービー、チャンピオンマイラーのエイブルフレンドに騎乗した際の手綱さばきは、モレイラのダイナミズム、戦術眼、そして勇気を存分に示したものだった。

ライバルのデザインズオンロームが2000mの距離で優位にあることを承知のうえで、モレイラは馬群を縫って最短距離を通し、残り200mを切ったところで巨躯の栗毛馬を先頭に立たせた。だが、最後はスタミナで勝るデザインズオンロームに屈した形で敗れ去った。

Designs On Rome defeats Able Friend, Hong Kong Derby

オーストラリア出身のザック・パートン騎手が、長らく香港競馬を支配していたダグラス・ホワイト騎手の王朝を打ち破った直後の2013年、モレイラは香港に登場した。2013/14年シーズンにパートンが初のリーディングを獲得すると、次の3シーズンはモレイラが圧倒的な勝ち星で覇権を握り、まるで独壇場のような強さを誇示した。

その後の4シーズンは両雄並び立つ時代となったが、とりわけ伝説的だったのは2021/22年シーズン。最終日、パートンが4連勝を挙げてモレイラを逆転し、タイトルを手中に収めたのだった。

Joao Moreira and Zac Purton

モレイラはサッカーをこよなく愛しており、例えるなら世界を代表する強豪チームがふさわしいだろう。その独創的なスタイルと世界的な称賛を考えれば、ブラジル代表『セレソン・カナリーニョ』こそ最も的確な比較対象といえる。

もっとも本人が応援しているのは地元クリチバの “第2のクラブ” とされるコリチーバFC(通称コシャ)である。同クラブは現在、ブラジル2部リーグで戦っている。

モレイラのフルネームは「ジョアン・エンリケ・アルマンサ・モレイラ」である。

2017/18年シーズンの終わりに、モレイラが香港を離れ日本での通年免許を目指すと表明したとき、競馬界に衝撃が走った。もし実現していれば、クリストフ・ルメール、ミルコ・デムーロに続く3人目のJRA外国人騎手となるはずだった。

しかし、日本競馬の歴史やルール、一般知識に関する難関試験に不合格となり、夢は叶わなかった。モレイラはその直後に香港へ戻り、2018/19年シーズン開幕後まもなく、ジョン・サイズ厩舎の主戦騎手として再び活動を開始した。

Jockey Joao Moreira

ジョアン・モレイラは現在も現役で、主に母国ブラジルで騎乗を続けているが、日本や世界各地の大レースにも短期参戦している。

2022年10月、股関節の深刻な怪我のため香港での騎乗を取り止めると発表し、18ヶ月以内に騎手を引退する可能性が高いと語った。その後は騎乗頻度をセーブしつつも騎乗を続け、クリチバに拠点を置きながらサンパウロを中心に騎乗し、母国ブラジルで数々の重賞を制覇。さらに、2024年4月にはステレンボッシュで桜花賞を制し、日本で初めてクラシック勝利を挙げた。

Jockey Joao Moreira
Joao Moreira celebrates after riding Stellenbosch to victory in the G1 Oka Sho at Hanshin

No Walk In The Park: How Joao Got His Joy Back

【一路走來不易】莫雷拉如何重拾快樂的心

「毎分毎秒を楽しんでいる」ジョアン・モレイラが明かす、日本競馬への愛着と引退危機からの復活

Joao Moreira opens up to Idol Horse on his comeback from the brink of retirement, his admiration of Japanese racing fans, and how the rest of the racing world needs to “raise its game” to compete with Japan or “be left with the dust.”

莫雷拉對 《賽馬偶像》打開心扉,談及他從退休邊緣回歸的經歷、對日本馬迷的欽佩,以及其他賽馬地區或國家應如何提升自己的賽馬體驗與日本競爭,否則只能被遠遠拋離。

ジョアン・モレイラ騎手が、Idol Horseの独占取材に登場。引退危機からのカムバック、日本の競馬ファンへのリスペクト、世界の競馬は日本競馬に対抗するため「レベルを上げる」必要があること、さもなければ取り残されるという自身の考えを語った。

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Joao Moreira at WASJ, 2024

Joao Moreira Pockets ‘Golden Ticket’ With WASJ Victory

【黃金門票】莫雷拉勝出世界星級騎師大賽且獲來年客串資格

『ゴールデンチケット』ジョアン・モレイラ騎手がWASJ優勝

Brazilian star Joao Moreira nailed an absorbing last-gasp win in the annual World All-Star Jockeys competition that will enable him to ride in Japan next year.

來自巴西的星級騎師,於這項在一年一度的騎師賽中後發先至取得勝利。而這亦讓他明年可以於日本策騎。

ブラジルのスター、ジョアン・モレイラ騎手が大逆転勝利でワールドオールスタージョッキーズ2024のチャンピオンに輝いた。そして、それと同時にJRA短期免許の申請資格も手にした。

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Joao Moreira reflects on 'sliding doors' career call

“I Often Wonder”: Joao Moreira’s ‘Sliding Doors’ Moment That Took Him To Hong Kong Instead Of America

【平行時空】莫雷拉不時回想起長駐肯塔基州的機會

ケンタッキーダービー初参戦、モレイラ騎手がアメリカではなく香港を選んだ『運命の分かれ道』

This week’s Kentucky Derby meeting will be Moreira’s first time riding in the U.S. since he opted not to take up Wesley Ward’s offer to relocate there from Singapore.

這個星期肯塔基的賽事將是莫雷拉自他婉拒練馬師華特從新加坡轉到美國長駐的提議後,首次於美國上陣。

今週のケンタッキーダービー、ジョアン・モレイラ騎手はルクソールカフェと久々にアメリカでの騎乗に臨む。アメリカ移籍の誘いを断ってシンガポールから香港に渡ったとき以来、長年の時を経てアメリカに戻ってきた。

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Joao celebrating aboard Satono Reve after G1 win

“Six More Months” And A Sha Tin Showdown For Satono Reve Have Moreira Pumped

「さらに6ヶ月!」来日資格延長のモレイラ騎手、サトノレーヴとの “香港再挑戦” に期待

Jockey Joao Moreira is hoping trainer Noriyuki Hori sends sprinter Satono Reve back to Sha Tin for a rematch with Ka Ying Rising following a solid Group 1 win at Chukyo.

高松宮記念を制し、短期免許資格の延長に成功したジョアン・モレイラ騎手を取材。サトノレーヴが香港に再挑戦し、カーインライジングと再戦が実現すれば楽しみだと話した。

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