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水族館の職員から最強馬の厩務員へ…カーインライジング「ジ・エベレスト連覇挑戦」を舞台裏で支える2人に取材

海洋公園でペンギンを世話していた男と、かつて騎手を志した男。カーインライジングの厩務員と調教助手は、誰よりも近くで世界最強馬を支える裏方役である。調教師が「いてくれて幸運」と信頼を寄せる2人を取材した。

水族館の職員から最強馬の厩務員へ…カーインライジング「ジ・エベレスト連覇挑戦」を舞台裏で支える2人に取材

海洋公園でペンギンを世話していた男と、かつて騎手を志した男。カーインライジングの厩務員と調教助手は、誰よりも近くで世界最強馬を支える裏方役である。調教師が「いてくれて幸運」と信頼を寄せる2人を取材した。

トレーナーのデヴィッド・ヘイズ調教師、記録を塗り替え続けるザック・パートン騎手。そして、験担ぎに人一倍こだわる馬主のレオン・シェク・コン(梁錫光)氏。カーインライジングを語るうえで、名馬を取り巻くこの三人のはよく知られている。

では、「ゴールデンイーグル」は?

カーインライジングについて話していたヘイズ師が言う。

「それはこの馬の厩務員のことです」

ちょっと待ってほしい。毎年シドニーで行われる総賞金1000万豪ドル(約11億円)のレースのことだろうか?

ゴールデンイーグルはヘイズ師もきっと勝ちたい一戦だろう。だが、今話しているのはレースのことではない。

殿堂入りを果たしている名調教師は顔を向け、カーインライジングの名が入った、真っ白なジャケット姿の男にうなずいてみせた。電光石火の香港スプリンターよりもし光るものがあるとすれば、このジャケットかもしれない。

その男こそ、“ゴールデンイーグル”の正体だ。彼の名前はハオ・チャン氏、カーインライジングと誰よりも長い時間を過ごす人物である。

「毎日あの馬を世話する重圧にも、彼はうまく対処しています」とヘイズ師は言う。

シャティンの厩舎地区にあるヘイズ厩舎では、ハオ・チャン氏のことを誰もが“ゴールデンイーグル”と呼ぶ。

だが、チャン厩務員の存在は愛称だけでは語れない。カーインライジングを支えるチームの原動力だ。香港のテーマパークで動物に携わる仕事を始め、数十年を経て、この名馬の担当厩務員となった。

芝競走として世界最高賞金を誇る総賞金2000万豪ドル(約22億円)のジ・エベレスト。カーインライジングが連覇を懸けて挑むその決戦まで、あと1週間。カンタベリーパーク競馬場の朝は、競馬場とは思えないほど静かだ。

ここは文字通り、カーインライジング専用の遊び場となっている。シドニーの春競馬に向けて遠征してきた馬は、引退に際して豪遠征に帯同するカーイングローリーを除けば、他にいない。クッションの利いた芝で調教する馬も、カーインライジング以外にはいない。

ヘイズ師は検疫厩舎からカンタベリーのゴール板裏へ歩き、普段から同馬の調教に乗るロイ・イップ調教助手が、無理をさせず一定のリズムで馬を走らせる様子を見守る。ほかに見ているのはIdol Horseの記者だけだ。

カーインライジングは向正面で徐々に速度を落とし、向きを変えて厩舎へ戻る。そこへ、年季の入った顔つきの男が現れ、イップを乗せた馬を引いていく。その手慣れた様子から、何度も同じことをしてきたのが分かる。「経験がとても豊富です」とヘイズ師。長年にわたり動物と接してきたのだから、それも当然かもしれない。

チャン厩務員が初めてオーストラリアを訪れたのは、昨年カーインライジングがジ・エベレストに遠征し、勝利を収めたときだった。

レース週には騒動が起こり、SNSでは同馬の状態が整っていないという滑稽な噂まで飛び交ったが、蓋を開けてみればパートンを背に快勝。チャン厩務員は勝ち馬となった愛馬を引いて厩舎へ戻った。かつての仕事からは想像もつかない光景だった。

「昔から動物が大好きでした」とチャン厩務員は通訳を介して話す。「以前はオーシャンパーク(香港海洋公園)で働いていました。香港の南部にあるテーマパークのような場所で、動物がたくさんいるんです」

「アシカやペンギンなど、いろいろな動物の世話をしていました」

一番好きだったのは?

「ペンギンです」とチャン厩務員は笑い、目を輝かせる。そして片言の英語で「大好きです」と続けた。

チャン厩務員は以前から、ずっと動物に関わる仕事がしたかった。10代の頃から“ゴールデンイーグル”と呼ばれていたのも、運命だったのかもしれない。

友人たちは力強さを感じさせるあだ名を付けたがり、やがてチャン厩務員はイーグル(鷲)と呼ばれるようになった。それが定着し、今ではヘイズ師が「ゴールデンイーグル」と呼ぶだけで、誰のことか皆に伝わる。

チャン厩務員は日頃から接する立場として、誰よりもカーインライジングのことを知っている。たゆまず日々の世話を続け、その積み重ねが同馬を競馬界の頂点へ押し上げた。

1000頭を超える馬が入厩するシャティンの厩舎地区では、朝の調教は整然と進みながらも慌ただしい。シドニー中心部から南西へ12キロのカンタベリーパークで受ける特別待遇と比べると、気の張る環境だ。

カーインライジングにとっても、ここは第二のわが家になった。先月、香港からの長距離輸送を終えて検疫施設に入ると、同馬はチャン厩務員を脇へ引っ張っていこうとした。馬の移動中、香港に残っていたヘイズ師は、その映像を見て笑ったという。

「草を見つけると、まっすぐそちらへ行ったんです」とヘイズ師は振り返る。「お菓子屋に入った子どものようでした」

「香港ではあんなことはできません。ここでは朝と午後に20分ずつ、草を食む時間を設けています。許せば1日に4時間でも食べ続けるでしょう。でも、バランスを取らないといけません」

「面白いのは、まず必ず顔を上げて周囲を見渡すことです。それで覚えるんです。次に戻ってきたときには、ここがどこか分かっています。本当に賢い馬です」

チャン厩務員としては、目立たずにカーインライジングを支える方が性に合う。だから、シドニーでは比較的知られていないことも心地よい。それでも熱狂を避けきれず、シャティンでは柵から身を乗り出すファンにサインを求められたこともある。

人生が違う方向へ進んでいれば、ロイ・イップ調教助手はカーインライジングとレースで競っていたかもしれない。あるいは、同馬の鞍上にいた可能性だってある。

コースで軽い運動を始める前、イップ助手は鞍上で振り返り、ヘイズ師から最後の指示を聞く。ヘルメットの下から伸びる肩までの漆黒の髪が、ひときわ目立つ。

「最初は騎手を目指していましたが、少し体重が重くて、調教で馬に乗る仕事を勧められました」とイップ助手は話す。

「栄養士からは『もう落とせる脂肪はない。これ以上はどうにもならない。体重を減らすなら筋肉を落とすしかない』と言われました」

騎手を目指す者が体重に悩むのは、珍しいことではない。プロのジョッキーになった父ルイスの後を追おうとしたイップ助手は、別の道を見つけた。偉大な馬の活躍を、最も近い場所で見られる仕事だ。

香港競馬で調教騎乗を始めて16年になるが、これほどの馬に乗る機会は一度もなかった。

イップ助手がオーストラリアを訪れるのは、初めてではない。中等教育を受けていた頃、英語を身につけるために渡豪した。オーストラリア生まれのヘイズ師とは、すべて英語でやり取りしている。

ヘイズ師によれば、35歳のイップ助手は、カーインライジングの調教のうち約9割に騎乗しているという。パートンは速い時計を出す追い切りの一部を担当し、バリアトライアルやレースでも乗る。イップ助手ほど、カーインライジングの背中で長い時間を過ごす人はいない。

そのイップ助手によれば、ロイヤルランドウィック競馬場のバリアトライアルにて、ジ・エベレストで対戦予定のニンジャに先着された後、カーインライジングは「スイッチが入った」という。オーストラリアの一部の競馬評論家からは、その走りを物足りないとする声も上がっていた。

「あのバリアトライアルの目的は、この馬がどれほど強いかを確かめることではありません」とヘイズ師は言う。「だって、もう21連勝しているんですから」

「目的は馬にコースを見せることと、装鞍前の手順をうちのスタッフに確認させることでした。香港競馬の時とはまったく違いますから」

では、香港で最も注目される馬を任されていることを、イップ助手はどう受け止めているのか。

「今は世界最高の馬ですから、プレッシャーはあります」

「ここカンタベリーは、自分たちしかいないので大丈夫です。でもシャティンでは馬がたくさんいて、重圧が大きい。近づいてくる馬もいて、近づきすぎると蹴られないか心配になります。朝は本当に慌ただしいんです」

「でもバリアトライアルの後、目が覚めたようです。今のカーインライジングは自分が何をすべきか、以前よりずっとよく分かっています」

カーインライジング陣営にとって、ジ・エベレストの連覇は、現地へ行けば済む話ではない。何か月も前から細部まで計画してきたプランだ。

香港でカーインライジングを診るナターシャ・リーン獣医師は、同馬とともにシドニーへ渡り、その後シャティンへ戻った。昨年は輸送中に同馬の顔に小さな傷ができたが、今年はそうした問題もなかった。

ヘイズ厩舎のアシスタントトレーナーもバリアトライアルまで滞在し、装鞍所の様子を把握した。10月17日の本番には再び訪れる。カーインライジングの食事の段取りまで慎重に組まれている。遠征にはカーイングローリーが帯同し、この馬にも担当厩務員がいる。

「カーイングローリーは食欲旺盛です。ほかに取り柄はあまりありませんが」とヘイズ師は笑う。「よく食べるので、2頭で一緒に飼い葉を平らげます。そうすると落ち着いて、食欲も保てるんです」

だが、ジ・エベレスト当日は静けさとは無縁だろう。メインレースの2時間前には、カーインライジングの待機馬房の周りに何百人もの見物客が集まっているはずだ。

シャティン競馬場ではレース前、出走馬たちは一般の目からほぼ隔てられている。一方、オーストラリア競馬では馬運車で競馬場へ運ばれ、レースまでの長い時間をそこで過ごす。

香港競馬の歴史に新たな一章を刻もうとする馬に、不測の事態が起きないよう、2人は全力を尽くす。

「2人はプレッシャーにうまく対処しています。負担が大きいと感じたときには、私に伝えてくれます」と、ヘイズ師はチャン厩務員とイップ調教助手について話す。

「世界最高の馬を預かる以上、私にとって一番大切なのは、つまらない事故を起こさないことです」

「馬は事故と隣り合わせです。それでも2人は、3年半にわたってこの馬を無事故で守ってきました。たいしたことですよ。2人も事実上、負け知らずです」

「2人を心から信頼していますし、仕事も実に丁寧です。3年間続けてきた日課をここでも再現するには、多くの人が長い時間をかけて計画しなければなりません。この2人はいつも抜かりがありません」

「2人がいてくれて、私は本当に、本当に幸運です」

もっとも、毎日カーインライジングと間近で過ごせる2人の方が、幸運なのかもしれない。

ジ・エベレストでカーインライジングがキャンターでゲートへ向かう頃には、自分は不安で汗をかいているはずだとイップ助手は認める。馬がゴール板を通過して初めて、安堵の気持ちが何よりも大きくなるという。

ゴールデンイーグルと呼ばれる男は、もう少し落ち着いている。そうでなければならない。馬は世話をする人間の様子に反応する。緊張でわずかに身じろぎしたり、急に体を動かしたりすれば、カーインライジングほど賢い馬はそれを感じ取る。

だが、ヘイズ師はチャン厩務員ほど落ち着き払った人間をほとんど知らない。かつてペンギンの世話をしていた男は今、世界最高の競走馬をその手に預かり、すぐそばで支えている。

「世話をしている馬がここまで活躍する姿を見られて、とても誇らしいです」

アダム・ペンギリー、ジャーナリスト。競馬を始めとする様々なスポーツで10年以上、速報ニュース、特集記事、コラム、分析、論説を執筆した実績を持つ。シドニー・モーニング・ヘラルドやイラワラ・マーキュリーなどの報道機関で勤務したほか、Sky RacingやSky Sports Radioのオンエアプレゼンターとしても活躍している。

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