ジョアン・モレイラ騎手の期間限定の香港復帰は、ほとんどの関係者にとって朗報だ。そして、ザック・パートン騎手とのライバル関係が再び動き出す。
モレイラとパートンという同世代最高峰の2人が、14週間にわたって同じ空間に戻ってくる。どちらも天才だが、天才の形がまるで違う。
この2人の強みとスタイルの違いを、いちばん端的に言うならこうだ。ザックはレースを組み立てる。ジョアンは馬の走りを引き出す。
ただ、比較には実は3つの切り口がある。馬、レース、そして馬場だ。その3つをそれぞれどう扱うかが、このライバル関係を面白くしている。
モレイラの真骨頂は馬の走りを引き出すことにある。バランスとリズム、馬を正しい手前で走らせること、スムーズに流れに乗せてストライドを引き出すこと。彼が跨ると馬はリラックスし、道中を気持ちよく運ぶ。そして彼がゴーサインを出した瞬間、他の騎手の時以上に懸命に応えてくれる。
私は全レースの全馬を見て、「悪い騎乗」の記録もつけている。あらゆるミス、判断の誤り、騎乗を台無しにした場面を一つずつ書き留めるのだ。
モレイラは香港でフルシーズンを送った最初の年、1年でミスが2回しかなかった。たった2回だ。しかもその2頭は、次走で彼がきっちり勝たせている。そんなことは、ほとんど不可能に近い。
パートンはレースを組み立てる。発想はオーストラリアのトップジョッキーによく見られ、私自身も現役時代はそう考えていた。
自分の馬に最高の走りをさせるだけではない。最大の脅威に、最高の競馬をさせないことも同じくらい重要だ。たとえばシャティンで、私が逃げ馬の外2番手にいて、1番人気が内ラチ沿いの3番手、私の内側にいるとする。
そこで考えるのは、ただ一つだ。あの馬を外に出すな。なぜなら、あの馬が適切なタイミングでスムーズに進路を得たら、こちらは負けると分かっているからだ。私の仕事は残り400m地点で勝負を決めに行くことではない。
1番人気をポケットに閉じ込め続けることだ。パートンはまさに、そう考えて乗っている。
一方のモレイラは、対照的だ。自分の内にいる馬の位置関係すら、意識していないかもしれない。彼は自分の馬の動きだけに完全に集中する。
バランスは取れているか、右手前か左手前か、手前を替えた方がいいのか、替えたらストライドが伸びるのか。ほかの馬や騎手が何をしているかには、そこまで関心がない。


ただ、3つ目の切り口である「馬場」となると、私はパートンが明確に優位だと思っている。
今季の香港は、ここ数年で最も馬場傾向(トラックバイアス)がはっきり出ている。今日は前が止まらないのか、それとも差しが届くのか。そう考えながら見ている開催が増えた。
しかも、馬場が乾いたりローラーが入ったりして、開催の途中で傾向が変わることすらある。傾向をいち早く読み取り、それに沿って乗れる騎手は、着差にすれば何馬身ぶんもの価値を持つ。パートンはまさにそれができる。
率直に言えば、馬場を読むこと、馬場に合わせて乗ることは、モレイラの弱点だ。
モレイラの復帰はキャスパー・ファウンズ厩舎にとって大きな追い風になる。これで今季のリーディング争いは、ファウンズ師が優勝候補になったと言っていいだろう。
モレイラは4月7日からシーズン終了まで、同厩舎の所属騎手として主戦を務める。タイミングもこれ以上ない。ファウンズ師はいま調教師リーディング争いで先頭に立っており、勝ち星が1つ2つ上積みされるかどうかが、タイトルの明暗を分けかねない。
しかも、モレイラがほぼファウンズ厩舎のために乗る形なら、ジョッキールームを席巻して毎週一番の騎乗依頼をさらっていく、という構図にもならない。質は上がるが、全体の力関係が丸ごとひっくり返るわけではない。
ファウンズ師がパートンと継続的にコンビを組まなくなって、すでに5年以上が経つ。その点でも、モレイラ級の騎手を確保できるのはプラスでしかない。現状、パートンとそれ以外の間には大きな差がある。
ファウンズ師にとっては、パートンを比較的自由に起用できる他の有力厩舎と、より近い条件で戦えるチャンスになる。
それに、今回の14週間の短期騎乗が終わった後にも効いてくるかもしれない、私が注目している小さなポイントがある。ファウンズ厩舎には見習い騎手のエリス・ウォン騎手がいる。斤量5ポンド減を使える見習いで、いまはかなり自信を持って乗れている。
そういう若手が、史上最高峰の一人が日々そばで仕事をする姿を見られる。質問できる。プロフェッショナルがトラックの内外でどう振る舞うかを肌で学べる。これは何ものにも代えがたい。金では買えない教育だ。ウォンにもチャンスは残る。ファウンズ師は必要な時には、その5ポンド減を優先的に使えるのだから。
馬券を買う側にとってはどうか。騎手控室の質が上がれば、ミスが減る。結局、馬券を買う側が望むのは「まともな勝負」ができることだ。ひどい騎乗をされないこと。悪夢のような不利を食らわないこと。
誰かが騎乗を台無しにしたせいで負けないこと。超一流の騎手は、そのリスクを下げてくれる。そういう騎手が増えるのは、プラスにしかならない。
モレイラの短期騎乗がこの時期に入ることで、今季の調教師リーディング争いは最高のフィナーレへ向かう。
「カーインライジング vs ロマンチックウォリアー」マイルで“夢の対決”が実現したなら?
日曜日のG1・クイーンズシルバージュビリーカップでカーインライジングが圧勝したあと、面白い「もしも」が投げかけられた。
カーインライジングはマイルはこなせるのか?
答えはイエス。十分にこなせる。あれほどリラックスしていて、制御が利いている。気性という武器が本物だから、やろうと思えば2000mだって教え込めるかもしれない。
だが重要なのは、彼にそれが不要だという点だ。チャンピオンを得意ゾーンから引っ張り出した瞬間、背負わなくていいリスクを抱え込むことになる。傑出したスプリンターが、その持ち味を存分に生かして結果を出し続けられるのなら、わざわざ難題を探しに行く理由はない。
それより面白い仮定がある。シャティンの1マイルでのマッチレース。カーインライジング対ロマンチックウォリアー。あなたならどちらに乗りたいか?
人気はカーインライジングになるだろう。日曜の内容の後で、そうならない方がおかしい。18連勝中。シャティン芝1400mのコースレコードを大幅に更新し、しかも2番手で運びながら、ラストで一気にギアを上げて力のある相手を突き放した。

では私はどちらに乗るか。私はロマンチックウォリアーを選ぶ。
勝てると言っているわけではない。ロマンチックウォリアー選ぶ理由は、追う側でいたいからだ。その馬が得意とする領域で世界一かもしれない相手を、どうやって倒すか。そのパズルに挑みたい。
では、ロマンチックウォリアーでどうやってやるのか。
第一に、カーインライジングに楽をさせてはいけない。残り600mまで何もせずに行かれたら終わりだ。溜めて瞬発力勝負になった時、ロマンチックウォリアーはあのスプリント区間のラップに付き合えない。完全にカーインライジングの土俵になる。
だから、消耗戦に変える。私がロマンチックウォリアーに乗るなら、残り800m付近からプレッシャーをかけたい。できるならもっと早くでもいい。カーインライジングが本来動き出す前に、脚を使わせる。つまり外に並びかけ、そこにいることを意識させ、思い通りには行かないと感じさせる。
そこには昔ながらの騎手の技術も少し要る。もちろん安全に、きちんとやることが前提だが、ぴたりと並びかけてトモのあたりまで寄せる。ほんの少しだけでいい。少しでも力ませられれば、あの完璧なリズムに乱れが出ることがある。危険でも無謀でもない。
ただ、あの一点の隙もないリズムを、わずかに揺らす。カーインライジングは日曜のように、気持ちよく走って、そこから一気に弾ける。あれをやられたら、こちらに勝ち目はないからだ。
もちろん、どちらが先手を取るかで盤面は変わる。2頭ともゲートは速い。ロマンチックウォリアーが先手を取り、カーインライジングが後ろで追い切りのように楽に構えたら、完璧な差し頃の形を与えるかもしれない。
カーインライジングが先手を取り、ロマンチックウォリアーが待ってしまえば、彼が最も得意とする楽で快適な形を与えるリスクがある。
私が分かっているのはこれだけだ。下げて構えていては、カーインライジングは倒せない。倒せるとしたら、序盤から厳しくして、あの崩れにくいリズムを崩せるかに賭けるしかない。
私は、マイルでもカーインライジングが勝つと思う。だが挑むなら、その難題に挑めるロマンチックウォリアーに乗りたい。