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アイルランド・キラーニーに生まれたオイシン・マーフィーは、早産という逆境を抱えて幼少期を過ごした。しかし幼い頃から馬との結びつきに導かれ、まずは障害飛越を経験し、やがて競馬への情熱へと傾いていった。

4歳でポニーに乗り始め、すぐに障害飛越競技で成功を収める。その後、競馬への魅力が勝り、夏にはエイダン・オブライエン厩舎で研修。後に英ダービー馬となるルーラーオブザワールドの調教に跨り、さらに叔父であるジム・カロティ(チェルトナムゴールドカップ優勝の調教師兼騎手、グランドナショナル優勝騎手)からも薫陶を受けるという、若手騎手には稀な経験を積んだ。

18歳でイギリス競馬の表舞台に登場すると瞬く間に頭角を現し、2014年に見習い騎手リーディングを獲得。同年には重賞初制覇も果たした。

20代前半にはカタールレーシングの契約騎手となり、2020年の2000ギニーをカメコで制してクラシック初制覇。G1を30勝以上挙げ、2019・2020・2021・2024年には英国リーディングジョッキーの座に就いた。

しかしその歩みは常に順風満帆ではなかった。アルコール依存や度重なる処分といった問題が、幾度もキャリアを中断させたのである。

マーフィーの騎乗の核にあるのは、生まれ持った感覚と鋭い戦術眼だ。馬の反応を引き出すのは手綱さばきだけでなく、レースのリズムを読み取り、各競馬場の癖を把握する力も大きい。逃げ馬を巧みに操る一方、勝負どころで冷静に差しを待てる胆力も併せ持ち、プレッシャー下でも沈着冷静に馬を導く姿が評価されている。

2022年2月、英国競馬統括機構(BHA)の独立懲戒委員会はマーフィーに対し、5件の違反行為で14か月間の騎乗停止(2021年12月から2023年2月まで遡及)を科した。内容は2021年5月と10月のレース当日の飲酒検査での陽性反応、さらに2020年のコロナ規制下で、ギリシャ・ミコノス島に滞在しながらイタリアにいたと虚偽報告した件などだった。ライセンスには条件付きでの再交付が行われた。

2024年8月にはケンプトンパーク競馬場で義務的な呼気検査が予定されていた日に騎乗取り消し。本人はXで「痔のため騎乗を断念した」と説明した。

さらに2025年7月には交通事故を起こし、乗客が負傷。飲酒運転(基準のほぼ2倍)で有罪となり、レディング治安判事裁判所から20か月の免許停止と7万ポンドの罰金を言い渡された。これに伴いBHAはライセンスに新たな条件を追加している。

フランスでも処分を受けており、2020年11月にはシャンティイ競馬場でのレース前検査でコカイン陽性反応が出て3か月の騎乗停止。本人は摂取を否定し、性交渉による「環境汚染」であったと主張し、異議申し立てを行い認められた。

ジョン・ゴスデン厩舎の名馬、ロアリングライオンとのコンビは、マーフィーの騎手人生の中でも特別なものだった。2018年のG1・インターナショナルステークスでの圧倒的な勝利は、キャリア最大の成功として今も語り継がれている。

7月のG1・エクリプスステークスでサクソンウォリアーにクビ差で競り勝った後、ロアリングライオンは続くヨーク競馬場の舞台でも爆発的な走りを見せ、2着のポエッツワードに3馬身1/4差をつける快勝を披露。

その後、G1・愛チャンピオンステークスを僅差で制したが、マーフィー自身はこの一戦について『これまでの競馬人生で最高の瞬間』と振り返っている。さらに英チャンピオンズデーのG1・クイーンエリザベス2世ステークスでも勝利を挙げた。

当初は障害馬術でのキャリアを夢見ていたマーフィーは、現在も競馬以外で障害競技に関わり続けている。

アスコットの直線を駆けるときと同じように、障害馬術やレスターシャーでのハンティングでも自在に馬を操る姿から、総合的なホースマンと評される。2024年12月26日にはウィンカントン競馬場で障害レースに騎乗し、ナショナルハント(障害競馬)のレースでもデビューを果たした。

ロアリングライオンはマーフィーをトップジョッキーへ押し上げた存在であり、間違いなく最高のパートナーといえる。

マーフィーはすでに2017年にアクレイムでG1・フォレ賞を勝ち、ブロンドミーでカナダのG1・E.P.テイラーステークス、2018年の欧州シーズン開幕前にはベンバトルでドバイターフを制覇している。

しかし真の飛躍は2018年シーズンで、ロアリングライオンをG2・ダンテステークス、G1・エクリプスステークス、G1・インターナショナルステークス、G1・アイリッシュチャンピオンステークス、G1・クイーンエリザベス2世ステークスで勝利に導いた。

マーフィーはアンドリュー・ボールディング厩舎で450勝以上を挙げており、これは他の調教師の4倍以上にあたる。ボールディング師のキングスクレア調教場で見習い時代を過ごし、2014年の英国見習い騎手リーディングを獲得した経歴にもつながっている。

マーフィーは2020年以降、短期免許での騎乗は途絶えているが、日本での大レース勝利実績も豊富だ。

通算68勝を挙げ、代表的な勝利は2019年ジャパンカップのスワーヴリチャード。海外でも日本馬に跨り、サウジアラビアのG2・レッドシーターフハンデキャップやフランスのG2・フォワ賞をビザンチンドリームで制している。もっとも、過去の騒動がJRA短期免許の申請に影響した可能性は否めない。

「悪夢のような出来事でした。特に私自身ではなく、巻き込まれた人々、後始末を担わざるを得なかった人々や、私を支えてくれた人たちにとってもです。時間は大きな癒やしをもたらすと言われますが、その過ちを忘れることはありません」

飲酒運転の罪を認めた後、マーフィーがスカイスポーツレーシングへの初コメントで語った発言。

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