2025 安田記念: G1レビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 1600m
総賞金: 3億9060万0000円 (273万4078米ドル)
ジャンタルマンタルは、昨年のG1・NHKマイルカップでアスコリピチェーノを下して圧巻の走りを見せた後、4歳初戦となる安田記念でも堂々たる内容で勝利し、名馬の系譜にその名を刻んだ。
2歳時にG1・朝日杯フューチュリティステークスを、3歳時にはNHKマイルCを制しているジャンタルマンタル。JRAがグレード制を導入した1984年以降、2・3・4歳すべてでG1勝利を挙げた史上9頭目の競走馬となった。これに名を連ねるのは、ウオッカ、コントレイル、ソダシ、ドウデュース、そしてグラスワンダー、メジロドーベル、ブエナビスタ、アパパネといった錚々たる顔ぶれである。
また、今年の安田記念での勝利は、ジャンタルマンタルの父馬であるパレスマリスがG1・ベルモントステークスを制してから、ちょうど12年目の記念日でもあった。
勝ち馬・ジャンタルマンタル
ジャンタルマンタルは、昨年のNHKマイルCでアスコリピチェーノをねじ伏せて日本最強マイラーへの道を歩み始めたが、その時点で、このあと13か月の間に出走がたった1回、しかも香港マイルで13着という惨敗に終わるとは誰も予想できなかっただろう。
だが、今回の安田記念では、若駒のころに見せていたスター性そのままの走りを披露した。川田将雅騎手を背にして好位の外3番手につけると、直線残り300m地点でもまだ楽な手応え。周囲の馬たちが追い詰められる中で、ただ一頭だけ余裕綽々で進んでいた。
川田が追い出しにかかると、反応はややゆっくりだったが、内の馬たちより勢いがよく、トップギアに入った途端に勝負は一瞬で決した。
ジャンタルマンタルは、米G1馬のパレスマリスを父に持ち、母のインディアマントゥアナは2018年にデルマー競馬場のG3・レッドカーペットハンデキャップを制した実績馬である。
なお、この安田記念はG1・ブリーダーズカップマイルの優先出走権対象レースでもあるため、ジャンタルマンタルが秋にアメリカ遠征を敢行し、父と同じくアメリカのG1を、そして母と同じくデルマーの芝コースで制する可能性も出てきた。
勝利騎手・川田将雅
ジャンタルマンタルの勝利がなければ、川田は2020年以来となる春~夏のJRA・G1戦線で未勝利に終わる可能性すらあった。
ヴィクトリアマイルではクイーンズウォークで惜しい2着、高松宮記念ではママコチャで勝ち馬に迫ったが、あと一歩及ばず。そんな中、ジャンタルマンタルが今季初のG1タイトルをもたらした。
安田記念の勝利は、川田にとって2025年のモーリス、2017年のサトノアラジン、そして2021年のダノンキングリーに続く4度目の制覇となった。

勝利調教師・高野友和
高野友和調教師にとって、これで5年連続のG1制覇となった。49歳の伯楽は、これまでにもレイパパレ、ナミュール、スタニングローズなどでG1を制してきたが、ジャンタルマンタルはその中でも最も多くG1をもたらしている管理馬となった。
ただ、ジャンタルマンタルの今回の勝利は、そのどれよりも困難な調整を要したかもしれない。というのも、香港マイルのあとに長期休養を挟み、その前にも長いブランクがあったからだ。
昨年はナミュールがロマンチックウォリアーの2着に敗れたが、今年は見事にその雪辱を果たす形となり、高野調教師にとっても意義深い安田記念の勝利となった。
2着馬・ガイアフォース
競走馬の中には、特定のレースと特別な相性を持つ馬がいる。ガイアフォースもまさにその一頭だ。たとえ安田記念の勝ち馬として歴史に名を刻むことはなかったとしても、このレースにまつわる物語の中で重要な位置を占める存在となった。
ガイアフォースは2023年の安田記念では、勝ち馬ソングラインから1馬身3/4差の4着。翌年2024年には、ロマンチックウォリアーに1馬身半差まで詰め寄り、再び4着となった。
そして今年、ジャンタルマンタルに1馬身半差で敗れたが、ついに着順を2着にまで引き上げた。
鞍上の吉村誠之助騎手にとっては、JRA・G1最年少勝利記録を持つ武豊騎手を更新するチャンスでもあったが、惜しくも届かなかった。それでも、前走のシャティンで行われたG1・チャンピオンズマイルでレッドライオンの9着に敗れたことを考えれば、ここでの巻き返しは見事だった。

敗れた実力馬たち
ドバイターフと安田記念の連戦で好結果を残すのは、例年のことながら至難の業である。ソウルラッシュはよく追い込んで3着に食い込んだものの、ジャンタルマンタルには歯が立たなかった。前半のペースが落ち着いたことも影響したが、現状では2000m戦に挑戦してみる価値もありそうな走りを見せていた。
シャンパンカラーは、G1の舞台ではなかなか見られないほど強烈な6着だった。スタートで大きく出遅れ、スムーズに進路に乗るまでに6馬身のビハインドを抱えながら、それでも最後は豪脚で差を詰めてきた。
第1コーナーまでのペースが遅くなったことが幸いし、無理なく先団に取りつくことができたが、それでもこの内容での追い上げは見事だった。2023年のNHKマイルカップの勝ち馬は、まだまだ終わった馬ではない。
一方、シックスペンスは馬券上の支持を集め、時には1番人気争いにも加わったが、最終的には3番人気での出走。道中は理想的な位置取りにつけていたが、直線で伸びを欠き12着に沈んだ。

レース後コメント
川田将雅騎手(ジャンタルマンタル・1着):
「久しぶりにこの馬らしく走ることはできてほっとしています。前半とても良いスタートを切ってくれて、良いリズムで3番手に収まりかけました。ですが、外から競りかける馬も来て、そこでかなりエキサイトしてしまったので、その後どうなるかと思いました。それでもよく我慢できましたし、あの競馬なのによくあんなに強い走りができたなと思いました」
「4コーナーでは抜群の雰囲気ではなく、どこまで動けるかという雰囲気でしたが、いざ動かしてみるとそれだけの動きはできましたので、改めて素晴らしい馬だなと実感できました。前走は全く競馬にならず負けてしまいましたので、今回は本来の姿をお見せできました」
「朝日杯を勝ったときにポテンシャルの高さを感じ、NHKマイルカップではこの馬は日本で一番のマイラーになると実感しました。秋は結果が出ませんでしたが、日本一のマイラーだと証明する走りだったのではと思います」
高野友和調教師(ジャンタルマンタル・1着):
「今後はまだ未定です。BCマイルも含め、海外遠征先や距離、まだ何も決まっていないのでこれから協議することになります」
「目標を定めて、次走の日程も分かった上なので、計画的に進めることができました。馬体の回復を始め、必要なことを期間内にできたと思います。香港での厳しい競馬があったのにも関わらず、帰厩後はとても順調に調整が進められました」
「中間は調整に支障が出るようなトラブルもなく、それが本当に大きかったです。一番を挙げるとすれば、社台ファーム・山元トレセンのスタッフさんの真摯な接し方のおかげかなと思います」
吉村誠之助騎手(ガイアフォース・2着):
「レース前の雰囲気は程よく気合いが乗っていて、これくらいなのかなと思っていました。ある程度良いスタートを切って、良い枠から、良い所で競馬が出来ました。内から3頭目の所の位置で、枠なりで走らせて良い所だなと思いましたし、最後は馬場の良い所に持ち出せたのは良かったです」
「ただ、3・4コーナーでごちゃついてしまって、少しだけ下げるような形になってしまいました。その部分だけがもったいなかったです。勝ち馬とはその部分がスムーズだったかどうかの差だったと思います。それでもここまで差を詰めていますし、初ブリンカーでしたが道中抱えられて、ひと息入れられて最後に伸びてくれた所を見ると、ブリンカーは効いていたのではと思います。頑張ってくれました」
浜中俊騎手(ソウルラッシュ・3着):
「調教から乗せてもらって、返し馬などからも状態は良く感じました。ゲートまで何のトラブルもありませんでした。行く馬がいなかったので、ペースが遅くなるだろうという判断はありましたが、初速の部分での器用さがもう一つでした。最後は良く追い上げてくれましたが、残念でした」
クリストフ・ルメール騎手(シックスペンス・12着):
「4コーナーまで良い感じでしたが、緩い馬場で自分のリズムで走れず、最後に伸びを欠いてしまいました」
今後は?
ジャンタルマンタルにとって、国内で残されたマイルG1はマイルチャンピオンシップのみとなる。したがって、次なる目標は再び海外に向かう可能性が高い。
候補として挙がるのは、安田記念優勝で優先出走権を得られるBCマイルをはじめ、再挑戦となる香港マイルや、ドバイターフ、あるいはサウジカップ(ダート1800m)への挑戦も視野に入るだろう。