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南アフリカ出身のウェイチョン・マーウィング調教師は、競馬界の頂点を知る男だ。10年前、いや25年前まで遡っても、彼は名ジョッキーとして、世界有数の高額賞金レースを舞台に結果を残してきた。

香港競馬では11年間に渡って騎乗し、香港ダービー、香港マイル、香港クラシックマイル、チャンピオンズマイルを制し、クイーンエリザベス2世カップとチャンピオンズ&チャターカップはそれぞれ2勝を挙げている。

この頃のマーウィングは、当時の香港競馬界を代表する二人の名伯楽、イヴァン・アラン調教師とジョン・ムーア調教師に起用され、オリンピックエクスプレス、ヴィヴァパタカ、ダンエクセルといった名馬に騎乗し、そして結果を残してきた。

ドバイで騎乗する際は、マイク・デコック調教師と強力なコンビを組んだ。デコック厩舎が層の厚い戦力を率いてナドアルシバ競馬場に乗り込み、騎手のマーウィングがそれを次々と勝利へ導いていた時代だ。

マーウィングは「ナドアルシバで跨った馬はどれも飛ぶように走る強い馬でした」とIdol Horseに語り、その功績はデコック師のおかげだと振り返る。

マーウィングとデコック厩舎のコンビでは、ライトアプローチでドバイデューティフリー(現ドバイターフ)を制したほか、ヴィクトリームーン、グランドエンポリウム、ヤードアーム、アジアティックボーイでも大レースで結果を残した。

さらに、一流牝馬のイリデセンスを香港へと遠征させ、マーウィングは同馬でクイーンエリザベス2世カップ制覇も果たしている。

もっとも、マーウィングが香港競馬を離れてからもう13年が歳月が経つ。負傷によって競走馬に乗れなくなってからは5年近く。5頭の厩舎からの船出となった調教師生活も4年が過ぎ、現在の管理頭数は25頭まで増えた。

拠点はヨハネスブルグ南部郊外のターフフォンテン。その地から、今週土曜のG2・サウスアフリカンダービーで2番人気に推されるディオゲネスを送り出そうとしている。今や指示を出すのは馬上ではなく地上。名騎手として名を馳せた56歳のマーウィングにとっても、調教で馬に乗ることは、もはや選択肢にない。

「レースで酷い落馬事故に遭いまして」とマーウィングは言う。「背中を痛め、それに小脳性運動失調も発症しました。つまり平衡感覚がうまく保てないんです」

「何か月も全く問題なく過ごせる時もあれば、ある日突然それが出て、バランスが取れなくなることもあります。馬に乗るなら、平衡感覚を失うわけにはいきませんからね」

「でも、調教師の仕事は大好きです。よく考えた末に、自分にはその道がいちばん自然な選択に思えました。調教という仕事そのものが好きですし、馬のそばにいて、成長していく姿を見るのも楽しいんです」

Weichong Marwing with his 2026 South African Derby hope Diogenes at Turffontein
WEICHONG MARWING, DIOGENES / Listed WSB Hawwaam Stakes // Turffontein /// 2026 //// Photo supplied

旧友のデコック調教師は、すでに40年の調教師キャリアを持つ。そのデコック親子が送り出すのが、サウスアフリカンダービー1番人気のキュリアスガールだ。オークストライアルの勝ち馬でもある。

マーウィングは二人の関係性について、「マイク(デコック調教師)と私は、二人で多くのことを成し遂げてきました」と言い、調教師としての違いを説明する。

「ただ、こちらは小さな厩舎、預ける馬主の人数もそう多くありません。あちらは自厩舎の馬同士で比較できるだけの層の厚い戦力がありますが、うちはそうではありません」

「サウスアフリカンダービーを勝てたらもちろん素晴らしいですが、マイクを負かしたいとか、そういう話ではありません」

「これをきっかけに、『この人は騎手として成功したし、小さな厩舎ながら少しずつ上の段階へ上がってきている。任せてみてもいいかもしれない』と思ってもらえるかもしれません」

チャンスを期待するマーウィングだが、ディオゲネスにチャンスを与えたのはその彼本人だ。3歳馬は今年1月に厩舎へ入ったが、名伯楽が率いるジャスティン・スネイス厩舎では6戦1勝にとどまり、いわば見切られる形で移ってきた。

それでもマーウィングのもとへと転厩後は3戦2勝。リステッドのハウワームステークス(旧ダービートライアル)も制している。

「オンラインセールに出ていて、映像も含めて見たのですが、いい馬だと思いました。以前は騎手でしたから、どんな馬が距離が保ちそうか、ある程度は見極められます。もちろん推測の要素は大きいですが、この馬はダービー候補になり得るタイプとして目を引きました」

「(ディオゲネスを購入した)オーナーは、購入額のほとんどをもう回収していますからね。買値は28万1000ランド、米ドルで1万6700ドル(約260万円)でした」

昨年のサウスアフリカンダービーでは、マーウィング厩舎のグレイジェットは5着だった。ただ、あの日のタフな馬場は同馬に向かなかった。

騸馬のグレイジェットはその後、香港競馬へと移籍し、マーク・ニューナム厩舎に入厩している。マーウィングは、ディオゲネスがダービーを勝てば、ランド安の景気も影響し、新たな海外オーナーやシンジケートの関心を引きつけられるかもしれないと見ている。

騎手時代のマーウィングが香港競馬を去ったのは、有力馬の依頼が回ってこなくなっていたこと、そして再び子どもたちと一緒にいたいと思ったことが理由だった。

「香港競馬は私にとって本当に素晴らしい場所でしたし、その経験は一生の宝です。でも、あそこで質の高い騎乗馬が回ってこないようでは、ただ生活のために乗っているだけになってしまいます」

マーウィングは“ただ生活費を稼ぐだけの騎手”という道を進まなかった。そして、ディオゲネスがダービーを勝てば、調教師としてもまた、ただ食べていくためだけの存在ではないことを示す道を歩み始めるかもしれない。

セクレタリアトは1970年3月30日、バージニア州のメドウステーブルで生まれ、チェナリー家の勝負服で米三冠制覇を果たした。『ビッグレッド』の愛称で親しまれ、通算成績は21戦16勝。とりわけ象徴的なのは、1973年ベルモントステークスで31馬身差をつけた圧勝だろう。

もう一頭の米三冠馬であるワーラウェイは、1938年4月2日、ケンタッキー州のカルメットファームで誕生した。米三冠達成後には1941年のトラヴァーズステークスも制し、史上初の4競走制覇を果たしている。

1997年のドバイワールドカップは、ドバイを襲った豪雨によって延期を余儀なくされた。しかしヘリコプターまで使ってナドアルシバ競馬場の馬場を乾かし、レースは4月3日に実施。モハメド殿下所有のシングスピールが、生涯唯一のダート戦で勝利を挙げた。

シングスピールはこの前後にカナディアンインターナショナルS、ジャパンカップ、コロネーションカップ、英インターナショナルSを制し、世界のG1レースを飛び回って国際的な活躍を収めている。

Singspiel winning the 1997 Dubai World Cup at Nad Al Sheba racecourse
SINGSPIEL, JERRY BAILEY / Dubai World Cup // Nad Al Sheba /// 1997 //// Photo by Dubai Racing Club

1996年のオーストラリアンダービーに集結した牡馬と騸馬は、近年稀に見る黄金世代だった。そして実際に歴史に残る名勝負が繰り広げられた。

アダム・ペンギリー記者が関係者の証言をもとに、オクタゴナル、セイントリー、フィランテ、ナッシンライカデインの歴史的な激突を振り返る。

香港出身のニコラ・ユエン騎手が今週、見習騎手として故郷デビューを果たした。

シェーン・ダイ氏は週刊コラム内で、ユエンのような女性騎手たちの道を切り開いた先駆者たちを振り返り、女性ジョッキーが持っている騎乗スキルについて自身の見解を語っている。

2011年のドバイワールドカップを制し、震災直後の日本に大きな勇気をもたらしたヴィクトワールピサ。ミルコ・デムーロ騎手にとっても忘れられない名馬だ。

その名馬はいまトルコに渡り、昨年のダービー馬とオークス馬を送り出したが、今季は種付け開始からわずか2日後、体調を崩して1〜2週間ほど休養を余儀なくされた。デイヴィッド・モーガン記者は現地の担当獣医師に取材し、その経緯を伝えている。

G1・サンタアニタダービーを今週末に控える今、過去記事から改めて読み返したいのが、デイヴィッド・モーガン記者が執筆したフアン・エルナンデス騎手の特集だ。

メキシコのベラクルスで育ち、父がクォーターホースに乗る姿を見ていた少年が、南カリフォルニアのトップジョッキーへと上り詰め、ボブ・バファート厩舎という強力な後ろ盾も得るまでの道のりを描いている。

イランと、イスラエル、米国およびその同盟国との戦争状態に入り、ドバイワールドカップを控えたUAE国内では、防空システムがドローンやミサイルを迎撃する状況が日常の風景となっていた。

その影響はビッグレース前の開催にも及び、とりわけ最初に事態が動いた2月28日のスーパーサタデーで顕著だった。空域や滑走路の閉鎖、あるいは大幅な運用制限のため、ドバイワールドカップデーへの出走を予定していた馬の多くが、ドバイ入りできなかった。

それでもドバイワールドカップデー自体は開催された。ただし、誤情報や公式見解に反する発信に対して禁錮刑や罰金が科され得るという統制のもと、SNS上では前向きな情報だけが目立っていた。例年より出走馬は少なく、観客数も減り、現地取材のメディアも少なかった。

それでも、モハメド殿下とドバイレーシングクラブはトップホースの遠征を実現させ、オンブズマンを迎えたほか、世界最強馬のカランダガン、そしてダート界最強のフォーエバーヤングも出走した。

そのフォーエバーヤングはドバイワールドカップの断然人気に推されていたが、ホセ・オルティス騎手は一泡吹かせるレース運びを描いていた。

オルティスは騎乗したマグニチュードをゲートが開くと同時に先頭へ導き、そのまま譲らず、日本のトップホースを1馬身差で退けて逃げ切り勝ち。ゴールした瞬間、馬上で抑えきれない感情を爆発させた。

サトノアラジン産駒の2歳牝馬、サトノグローは先週末、フレミントン競馬場のG3・サラブレッドブリーダーズステークスを制してデビューから2連勝。トップクラスまで駆け上がっていきそうな好素材を見せつける走りだった。

ニュージーランド産のサトノグローは、3月上旬のワーウィックファーム競馬場でのデビュー戦を半馬身差で制していたが、今回の2勝目はそれを上回る好パフォーマンスだった。

1200mのこの一戦、残り200m地点から鋭く反応すると、ジェイミー・メルハム騎手に導かれて後続を3馬身突き放す快勝劇。父のサトノアラジンは日本のトップマイラーとして活躍し、2017年のG1・安田記念を勝利。現在はニュージーランドのリッチヒルスタッドで種牡馬生活を送っている。

サトノグローは昨年、NZカラカセール・ブック1にて26万NZドル(約2370万円)で落札されている。

ドンカスターマイルデー
ランドウィック(オーストラリア)、4月4日

ドンカスターマイルでは、G1・ランドウィックギニー馬のシーザアリバイと、同レース2着馬で、前走G1・ローズヒルギニーを勝ったオータムボーイが激突する見込みだ。

斤量は前者が49キロ、後者は52キロで出走予定。さらにラインバッカー、グリンゴッツ、前走でG2・ファーラップSを制したシックスティーズの出走も見込まれている。

また、同日のG1・TJスミスステークスでは、テンティリスがG1・ニューマーケットHでの敗戦からの巻き返しを狙うが、前走でG1・カンタベリーSを制したジョリースター、さらにギガキックもその前に立ちはだかる。

一方、G1・オーストラリアンダービーには、ローズヒルギニー2着・3着馬のグリーンスペーシズとオブザーバーが中心となる。2歳G1のサイアーズプロデュースステークスには、G1・ゴールデンスリッパーで2着のストライサンドが登録している。

サウスアフリカンダービーデー
ターフフォンテン(南アフリカ)、4月4日

サウスアフリカンダービーは南アフリカ三冠の最終戦。第1戦のG2・ハウテンギニーはスプリットジエイツが勝ち、第2戦のG1・サウスアフリカンクラシックは、ハウテンギニー2着馬のグランドエンパイアが制した。

ただし、グランドエンパイアは同日に組まれるG1・プレミアズチャンピオンズチャレンジの方で、シーイットアゲインら古馬と対戦する見込みだ。

G2・サウスアフリカンダービーは混戦となりそうで、牝馬ながら参戦したキュリアスガールが4連勝を狙う。この日は他に、実力牝馬のダブルグランドスラムが出走予定のG1・エンプレスクラブステークス、そしてG1・コンピュータフォームスプリントも組まれている。

クイーンエリザベスステークスデー
ランドウィック(オーストラリア)、4月11日

オーストラリア期待の無敗牝馬、オータムグローは12連勝を目指し、2000mのG1・クイーンエリザベスステークスに出走する可能性が高い。この4歳牝馬は前走のG1・ジョージライダーステークスを3馬身差、しかも余力十分のままで制している。

オールエイジドステークスデー
ランドウィック(オーストラリア)、4月18日

シドニーのオータムカーニバルは、次に1400メートルのG1・オールエイジドステークスを迎える。ここには前年勝ち馬のジミーズスター、2023年勝ち馬のギガキック、そしてブラックキャビアライトニング勝ち馬のテンティリスらが顔を揃える可能性がある。

ただし、今週末のTJスミスステークスの結果次第では、出走メンバーにも影響が及ぶかもしれない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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上保周平、Idol Horseのジャーナリスト。日本、海外問わず競馬に情熱を注いでいる。これまでにシンガポール、香港、そして日本の競馬場を訪れた経験を持っている。

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