16年前、インド競馬界で頭角を現しつつあったスラジ・ナレドゥ騎手は、シャーガーカップでアスコットを経験した。だが、その時は騎手としてではなく、叔父のマレシュ・ナレドゥ騎手の応援団としてだった。インド人として初めてシャーガーカップに出場したのが、叔父だったのだ。
そして今年の土曜日、現在は調教師となったマレシュが、甥の応援に回る。スラジ・ナレドゥが待望の英国デビューを果たすためだ。
「叔父がそこで騎乗したときのことは忘れられません。先日も写真を引っ張り出して思い出に浸りました」と、ベンガルールを拠点とするナレドゥはIdol Horseに語った。
「当時、僕はバンガロールのリーディング争いをしていて、残り2日でリードは4勝差。リスクを承知で渡英しましたが、幸いにもタイトルを守ることができました」
「いつかシャーガーカップに騎乗したいとずっと思っていたので、本当に楽しみです。土曜日が待ちきれません」
40歳になったナレドゥは、これまでに2,400勝以上、うちインドのクラシックレースを110勝、その中にはインドダービー4勝も含まれる。インドのリーディングジョッキーには4度輝き、国内の27の開催でリーディングジョッキーの座に立ってきた。
ナレドゥは競馬一家の出身だ。祖父ガンガラムはムンバイのマハラクシュミ競馬場で働く建築職人だったが、その子孫はインド競馬界で確固たる地位を築き、『インド競馬界のファーストファミリー』とも呼ばれる。
「僕たちは、いわば “インドのオブライエン一族” みたいなものですよ」とナレドゥは笑う。「エイダン、ジョセフ、ドナカが全部そろっているんです。父(サティシュ)も元騎手で、父も叔父も今は調教師。弟も調教師で、叔父の2人の息子は1人が騎手、もう1人が調教師。親族もたくさん競馬に携わっています」
「叔父はビザが間に合えばアスコット競馬場に来る予定です。両親、妻、子どもたち、兄弟家族、甥っ子も全員が渡英予定です」
「さらに英国在住の親戚や友人たちも加わります。大勢の応援団になりますが、それだけ大きな意味があるんです」

ナレドゥは土曜日、今回初めて結成された『アジア選抜』のキャプテンを務める。メンバーには、サウジカップ優勝ジョッキーの坂井瑠星、そして英国で腕を磨く新星・岩田望来の2人の日本人騎手が名を連ねる。
「彼らとは会ったことはありませんが、映像で見る限りどちらも世界レベルのジョッキーだと感じています」と、出国前日の火曜日にベンガルールから語るナレドゥ。「岩田望来騎手は今イギリスでウィリアム・ハガス厩舎で調教に乗っていますし、先週はグッドウッドでも騎乗していました。お父さんも一流ジョッキーで、現地で多くを学んでいるはずです」
「坂井瑠星騎手はもちろん、フォーエバーヤングでサウジカップを勝ち、ドバイワールドカップでも僅差でした。素晴らしい才能の持ち主で、会えるのが楽しみです」
「私にとって素晴らしい経験になるでしょう。お互いに学び合い、経験を共有しながら、今年のシャーガーカップでアジア選抜が勝つことを願っています」
ナレドゥはインド国内にとどまらず、アイルランド、オーストラリア、フランス、アメリカ、UAE、マカオ、モーリシャス、マレーシアでも騎乗経験を持つ国際派。今回のシャーガーカップをきっかけにさらなる海外遠征の機会を広げ、かねての夢である日本騎乗につなげたいと語る。
「日本で騎乗するためなら家を売ってでも行きます」と笑う。「日本で乗るのは夢なんです。シャーガーカップに勝てば、日本のファンに名前を覚えてもらうきっかけになるでしょうし、間違いなくモチベーションが上がります」
2009年、叔父が世界のトップジョッキーたちとシャーガーカップで戦ったその年、ナレドゥはモーリシャスで開催されたライジングスターズ・チャンピオンシップで優勝した。その時に破った相手には、ミカエル・バルザローナ、マキシム・ギュイヨン、ヘイリー・ターナー、そして現香港トップジョッキーのカリス・ティータンがいた。
今回、ティータンは『世界選抜』のキャプテンとしてナレドゥと再び顔を合わせる。
「あの年のシャンドマルス競馬場には本当にレベルの高い若手ジョッキーが集まっていました。彼らがそれぞれの地域でトップに上り詰めていくのを見るのは素晴らしかったし、特にカリスとはずっと連絡を取り合っています。昨年香港で会ったときも大歓迎してくれました」
「そして今、カリスと僕が同じシャーガーカップでキャプテンを務めるなんて、なんとも不思議で特別なことだと感じています」

ティータンが率いる世界選抜チームには、シャティンでのライバルであるオーストラリアのヒュー・ボウマン、米国Netflixの人気シリーズ『レース・フォー・ザ・クラウン: 華麗なる王たちのスポーツ』にも出演するケイティ・デイヴィスらが名を連ねる。
ホリー・ドイルは『イギリス・アイルランド選抜』を率い、メルボルンカップ優勝騎手のロビー・ドーラン、英国北部を拠点とする実力派のジョアンナ・メイソンを擁する。『ヨーロッパ選抜』はスウェーデンのペルアンダース・グラバーグ騎手をキャプテンに、イタリアのダリオ・ディトッコとフランスのデルフィンヌ・サンチアゴが加わった。
ナレドゥは英国の競馬ファンにとってはまだ新顔だが、今後1ヶ月はニューマーケットを拠点に滞在する予定で、彼の姿をより多く目にすることが出来るかもしれない。
「今回のビザは30日間の滞在が可能なので、その間は英国で学ぶことにしました。ニューマーケットで経験を積み、知識を増やせるチャンスです」
「今のところマルコ・ボッティ厩舎を中心にいくつかの厩舎で調教騎乗したいと思っています。エージェントもついてくれていますし、実際にレースに乗れるかどうかは分かりませんが、たとえ乗れなくてもこの経験そのものが素晴らしいんです」
「2019年にアイルランドで騎乗した時も、実際に乗ったのはダンドーク競馬場とティペラリー競馬場で数鞍だけでしたが、ジョセフ・オブライエン厩舎で数日間過ごして多くを学ぶことができました」