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南アフリカの誇り、リーディングトレーナーのジャスティン・スネイスが誓う「競馬界への貢献」

南アフリカ競馬は今、ここ数十年で最も波に乗っている。ジャスティン・スネイス調教師もその「失われた歳月」を取り戻すべく、競馬界の発展に全力を注いでいる。

南アフリカの誇り、リーディングトレーナーのジャスティン・スネイスが誓う「競馬界への貢献」

南アフリカ競馬は今、ここ数十年で最も波に乗っている。ジャスティン・スネイス調教師もその「失われた歳月」を取り戻すべく、競馬界の発展に全力を注いでいる。

ジャスティン・スネイス調教師にとって、今週のケープタウンは大きな意味を持つ。南アフリカのリーディングトレーナーは、目前に迫った重要なレースを楽しみにしている様子だ。

木曜日にはケープレーシングセールのサマーセールが控え、そして土曜日にはケープタウンメット開催の当日を迎える。全12レースのうち、G1が3競走、G3が3競走、さらにリステッド競走も含まれる一大イベントだ。

スネイスは当日23頭を出走させる予定で、2つのG1レースでは有力馬も抱えている。アグレッシブな姿勢と現場主義のスタイルを考えれば、これほど多忙な状況こそが彼の望む形なのかもしれない。

「これは本当に重要な日だ。我々のカレンダーにおいて最も重要な3つのイベントのひとつであり、しかも私の地元開催だからこそ特別な意味を持つ」とスネイスはIdol Horseに語った。

スネイスはケープタウンの美しいフォルス湾を見下ろす街、ミューゼンバーグで生まれ、父のクリス・スネイスはビーチで馬の調教を行っていた。その後、幼少期の大半を近隣のマリーナ・ダ・ガマで過ごした。彼と兄弟のジョナサンは、2000年に父から近隣のフィリッピにある厩舎の運営を引き継いだ。父は事業に関わり続けつつ、トレーナーライセンスはジャスティンの名義、スネイス・レーシングのビジネス運営はジョナサンが担当している。その後、スネイスはファミリーの地元で行われるケープタウン・メットにおいて3度の優勝を果たすなど、数多くの成功を収めている。

Justin Snaith leading beach work aboard Jet Dark
JUSTIN SNAITH, JET DARK / Muizenberg Beach // 2023 /// Photo By Candiese Lenferna

ケープタウンメットは香港ジョッキークラブ(HKJC)のワールドプール対象レースのひとつだが、スネイスの前向きな姿勢はそれだけが理由ではない。南アフリカ競馬全体が、かつてないほど良い状態にあることがその大きな要因だ。

もしそのような状態でなければ、スネイス自身がケニルワース競馬場で、G1・ケープタウンメットに5頭の管理馬を、またG1・マヨルカステークスにダブルグランドスラムを送り込むこともなかったかもしれない。

彼は国内で数々の成功を収め、複数回の全国リーディングトレーナーのタイトル、年度代表馬の管理、そして60以上のG1勝利を挙げてきた。その実績ゆえに海外からの誘いも絶えなかった。

若い頃にはオーストラリアで経験を積み、デヴィッド・ヘイズ厩舎のメルボルンカップ馬ジューヌの調教を担当したこともある。それ以降、中東からのオファーを受けたこともあり、香港ジョッキークラブ(HKJC)からも注目され続けてきた。しかし、デヴィッド・フェラリスやトニー・ミラードといった南アフリカの名トレーナー、あるいはダグラス・ホワイトをはじめとする数々のジョッキーが香港へ移籍する中で、スネイスは移籍を選ばなかった。

「香港ジョッキークラブとは何度かやり取りをしたことがある。彼らが私に声をかけてくれることに感謝しているし、自分のことを考えてくれるのは非常に光栄なことだ」とスネイスは語る。

「問題は、私が行こうと考えていたときに香港に空きがなかったこと、そして今は南アフリカに若い家族がいることだ。家族のことを考えると移籍するのは難しくなってしまった。それに今の世界でケープタウンほど美しい街はほとんどない。だからこそ、決断がさらに難しくなっているんだ」

「とはいえ、香港ジョッキークラブから声をかけてもらえるのはいつも光栄に思っている。もし人生の中で移籍を決断できるときが来たら…」とスネイスは一瞬言葉を切り、話を続ける。

「家族全員での移住は大きな決断だ。今は、南アフリカの競馬を国際的に競争力のあるレベルに引き上げることに力を入れているし、この国の競馬を支えることに強い思いを持っている」

Trainer Justin Snaith
JUSTIN SNAITH / Photo by Candiese Lenferna

南アフリカ競馬は近年、再び活気を取り戻しつつあり、国全体の状況にも明るい兆しが見え始めている。

南アフリカは依然として深刻な経済格差を抱え、2024年末時点で失業率は約33%と高水準だが、一方で希望を持てる変化もある。2024年6月に発足した新政権が新たな経済政策を打ち出し、経済成長への期待が高まっている。

国内総生産(GDP)は少なくとも新型コロナウイルスのパンデミック前の水準まで回復し、2007年以来続いていた電力供給の不安定さも改善。さらに、2024年初めには5%を超えていたインフレ率が、燃料や食料価格の低下により11月には2.8%と4年ぶりの低水準に落ち着いた。

競馬界においても、ケープレーシングは賭博大手ハリウッドベッツの支援を受け、発展を続けている。同社はスネイスの地元であるケニルワース競馬場の存続を事実上救済する形で2022年7月に3億3,000万ランドで買収。翌年4月には競争委員会の承認を受け、施設の改修を含む大規模な資金投入が実現した。

賞金額はケープレーシングに限らず向上している。最近では、ケープのワインブランド『ロルマラン』がスポンサーを務めるG1・キングズプレートの賞金が、2024年の200万ランド(約10万7000米ドル)から300万ランド(約16万米ドル)に増額。また、G1・ケープタウンメットは過去最高となる500万ランド(約26万8000米ドル)に引き上げられた。

さらに、ヨハネスブルグのターフフォンテン競馬場で11月に行われたG1・サマーカップは、南アフリカの大手ブックメーカー『ベットウェイ』がスポンサーとなり、600万ランド(約32万1000米ドル)の賞金総額で南アフリカ競馬史上最高額のレースとなった。

賞金の増額は一つの要素に過ぎないが、長年の苦境を経た南アフリカ競馬がリーダーシップと方向性の面で安定を取り戻しつつあることも大きな要因だ。「だからこそ、私は残ったんだ」とスネイスは語る。

「かつて競馬界が無能な人々に運営されていた時期があり、その頃に私は香港と話をしていて本当に移籍寸前だった。でも、ある顧客が競馬界の立て直しに尽力してくれて資金面の支援を受けて再生が始まった。今後、南アフリカ競馬が世界中で注目され、ポジティブな反応が増えていくと思うよ」

「ただ、15年を失ったと言えるでしょう。オーストラリア競馬を見ても、私たちは15年遅れたと思っていたが、今では30年の差を感じる。それだけ追いつくことは難しいが、関係者全員が前向きに取り組んでいるし今後の発展を楽しみにしている」

「一方で、最近では南アフリカ全体が良い流れにあるのは確かで、それが競馬界にもプラスに働いているんだ」

Ipi Tombe claims the 2003 Dubai Duty Free
IPI TOMBE, KEVIN SHEA / G1 Dubai Duty Free // Nad Al Sheba /// 2003 //// Photo by Trevor Jones / Popperfoto

2024年3月、南アフリカ産馬の欧州連合(EU)への輸入を禁じた13年に及ぶ規制が解除された。これにより投資が減少し、生産界の発展が阻まれ、海外の大レースへの挑戦が途絶えていた状況に変化が訪れた。イピトンベやジェイジェイ ザジェットプレーンが活躍した時代は遠い過去のものとなっていたが、その流れにようやく歯止めがかかるかもしれない。

2024年のブリーダーズカップで、イシヴングヴングとビーチボムがアメリカ遠征を果たし、南アフリカ馬が再び世界で戦えることを証明した。ただし、両馬は渡米後に2ヶ月間の検疫を受けねばならず、その前にはケニルワースの検疫センターで14日間を過ごしていた。かつてのモーリシャスでの60日間よりは短縮されたものの、それでも容易な旅程とは言えない。

「ブリーダーズカップに出走した南アフリカ馬はトップクラスではない。正直、南アフリカから送り出した馬のトップ10には入らないレベルだと思うが、それでも素晴らしい走りを見せた」とスネイスは語る。

「それが南アフリカ競馬の未来に大きな自信を与えた。だからこそ、次のブリーダーズカップに向けて、さらに上のレベルの馬が購買されているんだ」

しかしスネイス自身はまだ積極的に海外遠征へと舵を切るつもりはない。20年前にはマイク・デコックをはじめとする南アフリカの調教師たちにとって魅力的な舞台だったドバイも、今なお簡単に行ける環境ではないという。

「アメリカ遠征のほうがドバイ遠征よりも現実的に見える。ドバイに行くのは依然としてほぼ不可能に近い状況で、今のところ最も実現可能な遠征先はアメリカだ」と彼は言う。

「ただ、私のクライアントの多くはアメリカは関心の対象ではない。とはいえ、もしそこを目指すなら確かに選択肢のひとつではある」

Snaith leading Rapidash under jockey Grant van Niekerk
RAPIDASH, JUSTIN SNAITH, GRANT VAN NIEKERK, owner NICK JONSSON / Cape Racing Gold Rush // Kenilworth /// 2024 //// Candiese Lenferna

スネイスは今なお若々しい思考と情熱を持ち続けているが、キャリアの折り返し地点を迎えた。しかしその大半を国内に閉じ込められ、世界に進出する機会を奪われてきたことを痛感している。

「私は世界で唯一、馬を適切に送り出すことができない国に生まれたのかもしれない。それを考えると半ば笑えて、半ば悔しくもある」とスネイスは苦笑する。

「世界中どこに生まれてもよかったのに、よりによって遠征にこれだけ制約のある国に生まれたんだからね。でも、いざ海外に出れば期待以上の結果を出してきた。だからこそ、私たちは誇りを持って“南アフリカ産”を証明してきたんだ」

南アフリカ競馬への誇り、そして生まれ育ったケープタウンへの誇り、それこそがスネイスの原動力だ。ワールドプールやハリウッドベッツの支援が競馬を世界へと押し上げるこの時代、スネイスが海外へ移籍することなく、その実力を世界に示す日が訪れるかもしれない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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