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リスポリ騎手、ジャーナリズムと歩む飛躍の夏 ブリーダーズカップへ視界良好

ジャーナリズムの活躍で全米を飛び回るウンベルト・リスポリ騎手。地元カリフォルニアとの両立という課題を乗り越え、ブリーダーズカップ挑戦に向け視界は開けている。

リスポリ騎手、ジャーナリズムと歩む飛躍の夏 ブリーダーズカップへ視界良好

ジャーナリズムの活躍で全米を飛び回るウンベルト・リスポリ騎手。地元カリフォルニアとの両立という課題を乗り越え、ブリーダーズカップ挑戦に向け視界は開けている。

地球の自転がわずかに速まっているという。ナショナルジオグラフィック、ニューヨークタイムズ、CNN、CBSニュースといった大手メディアでも報じられた話題だ。原子時計に狂いが生じ、7月10日は1.36ミリ秒、8月5日には1.5ミリ秒という微小な時間が失われるかもしれないという。

だが、ウンベルト・リスポリにとっては特別な話ではない。1972年以降に協定世界時(UTC)へ追加されたうるう秒が27回―そんな細かい話は知らなくても、現在の「時間不足」に日々直面しているからだ。

「ミリ秒どころか、一日の時間が足りないのです。今は鏡を見る時間すらありません」とリスポリはIdol Horseに語る。「とにかく黙々と取り組み、できるだけ多くのレースでいい結果を出すことに集中しています」

南カリフォルニア在住のイタリア出身ジョッキーは、インタビュー中も車で移動していた。家族を伴いデルマー競馬場の夏開催に参戦しているが、週末にはニューヨーク州北部サラトガでの重要な騎乗に臨む予定だ。その前に妻キンバリーさんと息子たちをロサンゼルスの自宅へ送り届け、翌週には再びデルマーへ戻るという忙しさだ。

夏開催が9月7日に閉幕すると、舞台はサンタアニタへ移る。そして11月初旬には再びデルマーに戻り、ブリーダーズカップでの騎乗が待っている。騎乗の中心を担うのは、マイケル・マッカーシー厩舎のG1・プリークネスステークス馬ジャーナリズムである。

このジャーナリズムこそが、今季のリスポリを象徴する存在であり、彼にとって「時間の感覚」をも変えてしまった馬だ。G1・サンタアニタダービー制覇、G1ケンタッキーダービー2着、物議を醸しつつも勇敢な走りで突き抜けたG1・プリークネスS勝利、G1・ベルモントステークスの敗北、そしてG1・ハスケルステークスでの勝利―怒涛の軌跡だ。

「ハスケルを勝ったのは2週間前なのに、もう2カ月前のことのように感じますし、多くの人はすでに忘れています」とリスポリは語る。夏開催のスケジュールはノンストップで、成功すれば移動も増える。

「勝利を祝いたい気持ちはありますが、立ち止まっている時間はないのです。次のレースへと進むだけです」

「ただ、今はいつでも良いレースがあるのはありがたいことです。次の騎乗に集中できるのは幸せなことです。忙しいですが、良い状況にいると思います」

この取材中、彼はエージェントのマット・ナカタニ氏とともに車内から電話に応じていた。前日には主戦馬フォーミダブルマンに騎乗してG2・エディーリードステークスを勝ったばかりだ。そして次なる目標はサラトガでのG1騎乗が3鞍。中でも特別な思い入れがあるのは、フォースターデイヴステークスに出走予定のヨハネスだ。

リスポリにとってヨハネスは特別な存在だ。昨年のブリーダーズカップ・マイルで2着に敗れた悔しさを晴らすべく、雪辱を期している。ただしヨハネスは、昨年12月のサンタアニタでのG2勝利以来レースから遠ざかり、骨挫傷からの休養明けとなる今回が復帰戦となる。

「今のタイミングでヨハネスが戻ってきてくれて本当にうれしいです。新しい挑戦であり、素晴らしい馬にまた乗れることが楽しみです」とリスポリは語る。

「デルマーに移動する前、数週間前にサンタアニタで調教に乗りましたが、状態はとても良かったです。まだ100%ではなく80%程度でしょうが、長期休養明けですからそれは普通のことです。最終的な目標はブリーダーズカップですから」

「今回はいきなりのG1挑戦、しかもサラトガへの遠征です。どんな反応を見せてくれるか楽しみですね。調教の動きはとても良く、“走ることを覚えている”と感じさせてくれたので満足しています」

Johannes wins San Gabriel Stakes
JOHANNES, UMBERTO RISPOLI / G2 San Gabriel Stakes // Santa Anita /// 2024 //// Photo by Keith Birmingham
Umberto Rispoli and Journalism win the G1 Preakness Stakes at Pimlico
UMBERTO RISPOLI, JOURNALISM / G1 Preakness Stakes // Pimlico /// 2025 //// Photo by Emilee Chinn

リスポリ(36歳)は、かつて州外のビッグレースに挑むのは1鞍だけというのが普通だった。しかし今回はG1騎乗が3鞍。過去12ヶ月で評価を確実に高めた証といえる。
G1・テストステークスでは、5月のG2・エイトベルズステークスを制し、前走G1・エイコーンステークス2着の牝馬ルックフォワードに騎乗する。さらに、イタリアから米国に移籍したジュヴェリエでG1・サラトガダービーに挑む。

「今朝もルックフォワードに会いましたが、マイケル(マッカーシー調教師)も彼女の仕上がりに満足していました。メンバーは強力ですが、7ハロンのワンターン戦はきっと合うと思います」とリスポリ。

ジュヴェリエは、もともとリスポリが欧州旅行中にG1・ドイツダービーで騎乗予定だった馬だ。旅程では、シャンティイで義父である元名手・調教師のジェラルド・モッセを訪問する計画も組まれていた。しかしジュヴェリエはアルカナ・セールへの上場が決まり、ハンブルクでのクラシックを回避して米国に送られてきた。

「ジュヴェリエの映像を見ましたが、素晴らしい馬になれる可能性があります。ただ気性が強く、少し前向きすぎる面もあります。レース前半で落ち着かせることができれば、十分チャンスはあると思います」とリスポリは語る。

ただ、春から夏にかけての東部遠征にはそれなりの代償もあった。

「正直、ここ4日間でデルマーでは1勝しかできていません。4月5日までサンタアニタでは毎開催フルカードで乗っていましたが、遠征が続いた影響です。遠征をすればどうしても馬を失うことがあります。でも、ケンタッキーダービーやプリークネス、ベルモントで騎乗するために遠征するのは、この仕事の一部なんです」

「遠征に出れば、地元の馬や仕事を失うことになります」と強調する。その声には肩をすくめるような響きが感じられる。でも僕は幸せです。遠征していい馬に乗れて、大レースを勝てている。量は減っても質は保てているんです」

「今のキャリア段階で、ジャーナリズム、ヨハネス、フォーミダブルマン、ルックフォワードといった馬たちに乗り、全米最大級のレースに挑めるのは最高のご褒美だと思っています。今年は米国に来てから一番いい年かもしれません」

しかしこれはまだ序章にすぎないとリスポリは考えている。夏の頂点を過ぎれば、秋には本拠地デルマーでのブリーダーズカップが待っている。その前哨戦としてジャーナリズムを1走させ、ケンタッキーダービーとベルモントSで敗れたソヴリンティーとの再戦に挑む。さらに昨年のワンツーであるフィアースネスとシエラレオーネ、さらに2023年の勝ち馬ホワイトアバリオら古馬勢との激突も控える。

SIERRA LEONE, FLAVIAN PRAT / G1 Breeders’ Cup Classic // Del Mar /// 2024 //// Photo by Donald Miralle

今週末のG1・ホイットニーステークスで、リスポリはそのフィアースネス、シエラレオーネ、ホワイトアバリオの激突を間近で見ることになるが、彼はジャーナリズムを手放す気はない。

「いつもソヴリンティーを尊敬しています。2度もジャーナリズムに勝っていますし、数字上は彼の方が上です。でもダービーは不良馬場で、ああいう馬場では彼の方が有利でした。ベルモントではプリークネスから3週間しか経たずに臨んだレース。休養十分なチャンピオンを相手に戦うには、こちらも完璧な状態で臨む必要があるんです」

「だからこそ、お互いがベストコンディションで、言い訳なしの戦いをしてみたい。どちらが全米最強の3歳馬か、はっきりさせたいですね」

そして自分の愛馬について胸を張る。

「ジャーナリズムはベルモントから5週間で戻り、再び遠征してハスケルを勝ちました。ああいうことができるのは『良い馬』ではなく『偉大な馬』だけです。本当にリスペクトに値します」

それでも、一部には懐疑的な声もあると感じている。

「ジャーナリズムは多くの人に愛されて“人々の馬”になっていますが、反対にリスペクトが足りないと感じることもある。毎回遠征で飛行機に乗らなければならないという、それだけでエネルギーを奪われることを忘れないでほしいですね」

ブリーダーズカップ前に1走する見込みだが、どのレースかは未定だという。

「僕はオーナーではないので分かりませんが、どんな選択肢もあると思います」とリスポリは言う。

候補にはデルマーのG1・パシフィッククラシック、サンタアニタのG1・グッドウッドステークス、あるいは再び遠征してG1・ペンシルベニアダービーなどが挙がる。その後は主戦場のカリフォルニアに大物たちが集まってくる。

「ブリーダーズカップがホームであるのは大きなアドバンテージです」とリスポリも認める。

取材の途中、彼は謝罪を述べ、1分半ほど離れてから慌ただしく戻ってきた。やはり時間は限られている。

「でも文句はありません」と笑う。「今は時間がありませんが、年末には1年の成果を並べて『これだけやれた』と言えるでしょう。そのとき初めてゆっくり喜べばいいんです」

「 今はとにかくいい馬に乗れて、体調も良く、勝てている。それがすべてです」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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