シンエンペラーの陣営にとって、土曜日にレパーズタウン競馬場で行われたG1・アイリッシュチャンピオンステークスでの惜敗、僅差の3着は複雑な結果だったのかもしれない。しかし、10月6日の凱旋門賞でも通用する実力を見せつけたことは、間違いなく『嬉しい』結果だった。
矢作芳人調教師とその陣営はレース前、アイルランドでも勝利を期待しているが、あくまで凱旋門賞に向けての前哨戦だと話し、余裕を残しての仕上げだったことを強調していた。
「走りの内容には非常に満足しています」
勝ち馬のエコノミクスと2着のオーギュストロダンに1馬身差まで迫ったレースの2日後、矢作厩舎の広報担当を務める安藤裕氏はIdol Horseの取材に対してそう答えた。
「もちろん、勝てなかったことは残念ですが、レースは厳しい場面もありながらよく走ってくれましたし、走りには満足しています。騎手と馬にとって良い経験となりましたし、凱旋門賞に向けて良い手掛かりになればと思います」
「シンエンペラーは昨日、無事にシャンティイに戻りました。曳き運動で軽く歩かせましたが、好調をキープしています。凱旋門賞に向けて、最高の状態で臨めることを期待しています」

この週は凱旋門賞の前哨戦となるレースがいくつか行われており、愛チャンピオンSもその中の一つだった。翌日には、ロンシャンで『凱旋門賞トライアル』が3レース開催された。
パリでは、長らく凱旋門賞の前売りで1番人気だったルックドヴェガがG2・ニエル賞でソジーに敗れた。G2・フォワ賞ではイレジンが連覇、G1・ヴェルメイユ賞はブルーストッキングが制して牝馬の最有力候補に躍り出た。
それでも、シンエンペラーのアイルランドでの走りは注目に値するものだった。余裕残しの仕上げでのパフォーマンスだったことを考えると、なおさらだ。今回の対戦相手も、G1・6勝馬で前年勝ち馬のオーギュストロダン、5月のG2・ダンテステークスで鮮烈な印象を残した新星のエコノミクスだった。
レース内容も、決してスムーズな走りと呼べるものではなかった。序盤はやや落ち着かない様子を見せながらも、内ラチから少し離れた位置で5番手追走。最終コーナーでペースが上がると、馬群の中に埋もれる形となった。残り2ハロンの標識を過ぎた辺りでもまだ加速は鈍く、これが限界なのか、それとも脚を残しているかは五分五分のように見えた。
しかし、結果は後者だった。シンエンペラーは最後の1ハロンで末脚を発揮、3着に食い込んだ。そして、ロスアンゼルスとの競り合いも制し、凱旋門賞でもライバルとなる馬を4着に追いやった。
シンエンペラーは2020年の凱旋門賞を制したソットサスの全弟という良血馬で、2022年に凱旋門賞挑戦を視野に入れてアルカナのセールで落札された。兄は愛チャンピオンSで4着に入った後、凱旋門賞を勝っており、それを踏まえると弟の結果にも期待が持てる。
また、近年の結果からも、シンエンペラーの結果には期待大だ。8年前の凱旋門賞馬ファウンドは前走このレースで8着、2021年のタルナワは両レースで2着、2022年3着のヴァデニは凱旋門賞で3着に入った。
ロンシャンの前哨戦は?
一方、翌日にロンシャン競馬場で行われたG2・ニエル賞では、ルックドヴェガが敗れるという勢力図を揺るがす波乱が起きた。勝ち馬のソジーは6月のG1・仏ダービーで3着に敗れたものの、今回は少頭数のトライアルレースとしては典型的な緩い流れになり、仏ダービー馬のルックドヴェガは逃げる展開を強いられた。
ルックドヴェガはあくまで前哨戦の仕上げだったと思うが、全く良いところがなく、3馬身半差の3着に敗れるという結果はやはり残念だった。一回叩いて調子を上げる可能性は捨てきれないが、2400mの距離が長すぎるのかもしれない。その一方で、勝ち馬のソジーはG1・パリ大賞も含めてこの距離で2戦2勝と、相性の良さを示している。
ヴェルメイユ賞はニエル賞より勝ち時計が約3秒早く、まさにブルーストッキングの好調さを見せつけられるようなレースだった。良い牝馬は軽視禁物だが、凱旋門賞を勝つには上積みが必要かもしれない。キングジョージでのゴリアット相手の2着、インターナショナルSでのシティオブトロイから離されての4着など、実力の高さを示している一頭ではあるが、凱旋門賞ではさらなるパフォーマンスが求められるはずだ。
フォワ賞を制したイレジンは騸馬なので凱旋門賞への出走資格は無いが、有力馬を脅かす存在となれる走りでもなかった。このレースで残念だったのは、逃げを余儀なくされたもう一頭の注目馬、3着に敗れたコンティニュアスだ。昨年のセントレジャー馬だが、今回の走りを見る限り、凱旋門賞で上位争いするようなスピード能力は持ち合わせていないように見える。
やはり、この週の前哨戦で目を引いたのはシンエンペラーだったが、忘れてはならないのはアルリファの存在だ。アイルランド調教馬だが日本人オーナーが所有しており、日本を代表する騎手の武豊が騎乗する。
今のところ、日本勢は期待を胸に凱旋門賞に臨むことができるだろう。