このレースが「転機」となったのは?
マイケル・コックス:
この象徴的なレースは、サウジカップというイベントそのものを変える役割を果たしました。フォーエバーヤングとロマンチックウォリアーの激闘は、まさに大会に必要だった「バイラルな瞬間」を生み出したのです。この一戦がもたらした価値は、どれだけの資金を投じても得られるものではないのです。
サウジアラビアの競馬を世界の舞台に押し上げただけでなく、ロマンチックウォリアーのダニー・シャム調教師は、このレースが今後他の香港馬の遠征を後押しする可能性があると語っています。彼はレース前のIdol Horseの取材でこう述べていました。
「私は香港の調教師として初めてサウジカップに挑戦しましたが、これをきっかけに他の調教師や馬主たちが続いてくれることを願っています」
ジャック・ダウリング:
オイシン・マーフィー騎手がビザンチンドリームに騎乗して勝利を収めたことは、彼にとって大きな意味を持つ瞬間でした。リヤドでこの勝利を挙げるまで、彼が日本調教馬に騎乗して国際G1を勝つのは3年以上ぶりのことだったのです。
彼は過去にさまざまな問題を抱えていましたが、今回のG2勝利は、ノーザンファーム総帥・吉田勝己氏の勝負服を背負ってのものでした。この勝利により、今後のドバイワールドカップミーティングや、それ以降の日本調教馬への騎乗機会が増え、将来的にはJRA(日本中央競馬会)の短期免許を取得する可能性も開けるでしょう。
アンドリュー・ホーキンス:
敗れはしたものの、ジェームズ・マクドナルド騎手もまた大きな注目を浴びた騎手の一人ですね。昨年、2度目の「ワールド・ベスト・ジョッキー」タイトルを受賞した彼ですが、アメリカやヨーロッパといった北半球の競馬ファンの間では、まだそれほどの知名度がありませんでした。しかし、このレースを通じて、彼の名は世界に広がり、今後さらなる活躍の場が開けるでしょう。
デイヴィッド・モーガン:
私は2人の騎手、坂井瑠星とコナー・ビーズリーにとって、このレースが重要な転機になったと考えています。フォーエバーヤングの主戦騎手である坂井は、ケンタッキーダービーやブリーダーズカップ・クラシックでの敗戦後、一部で批判を受けていました。
しかし、今回の勝利は、矢作芳人調教師が彼に託してきた時間と信頼が決して無駄ではなかったことを証明したのです。彼は確実に国際G1ジョッキーとしての道を歩みつつあります。
30歳のビーズリーは、坂井とは対照的にこれまで大きなチャンスを与えられてきませんでした。しかし、彼の実力を見抜いていた人々も少なくないです。イギリス北部を拠点とする彼は、トップレースでの騎乗機会が少なかったですが、今年はゴールデンヴェコマが巡ってきました。そして、彼はそのチャンスを見事につかみ取りました。
サウジダービーでの勝利は、彼のキャリアにとって間違いなく大きな転機となるでしょう。この勝利に加え、この冬のUAEでの好成績が続けば、彼の才能にさらにスポットライトが当たるはずです。
タカハシ・マサノブ:
シンエンペラーはサウジでの勝利を機にさらなる飛躍を遂げると思います。トップクラスの実力を兼ね備えながら、未完成が故にタイトルだけが足りなかった馬ですが、ネオムターフカップのパフォーマンスは欠けていた最後のピースが見つかったかのような走りでした。
この勝利こそが、G1初勝利に向けての起点になると思います。
ジェームズ・マクドナルドの騎乗に対する批判は的外れ?
ジャック・ダウリング:
結論から言えば「イエス」です。本来ならもう少し内を回りたかったでしょうが、確かにマクドナルドはコーナーで5頭分外を回ることになりました。
しかし、ロマンチックウォリアーの勢いを止めるわけにはいかなかったのです。これはシャティンの芝コースではなく、リヤドの深くて厳しいダートコースでのレースです。マクドナルドは、あの状況で最善の選択をしたと言えます。
加えて、彼はレース史上最速タイムを記録し、昨年のサウジC2着馬を10馬身半も引き離し、日本競馬史上最強のダート馬とされるフォーエバーヤングと「ハナ差」の勝負を演じたのです。これを批判するのは酷というものです。
デイヴィッド・モーガン:
確かに、5頭分外を回るのは厳しい競馬だったし、マクドナルドの馬が敗れたことで、一部の批判者が「彼のミスだった」と言いたがるのも分かります。
ただ、ジャックが指摘したように、ダートレースでは勢い(モメンタム)が非常に重要です。ダートでは芝のようにじっと待ってから瞬発力で勝負するのではなく、スムーズな流れを維持することが肝心なのです。
マクドナルドが直線の450m手前で仕掛けたのは、彼がそれまでに作った勢いを活かすためだった。もし彼がもう少し我慢していたら、前を走っていたアルムスマクが外に出した進路を利用し、残り400mの地点からフォーエバーヤングに仕掛けることができたかもしれません。
しかし、そのスペースが開くかどうかは不確実でした。結果的に、マクドナルドはその瞬間で最良の決断を下し、それは多くのダートレースで成功するパターンでもありました。この騎乗を「大失敗」と酷評するのは適切ではないですし、むしろ悪くない選択だったと言えます。
マイケル・コックス:
もしマクドナルドがこのレースをもう一度やり直せるなら、彼はどうするのか。おそらく、彼は最後の400mを何度も頭の中でリプレイしているでしょう。世界最高賞金の舞台にて、一時は交わしきったフォーエバーヤングに差し返されて敗れたのですから。直後にフォーエバーヤングに差し返されました。もっとも、14時間後には香港のG1をリベンジしているのですが。
では、批判は妥当だったのでしょうか?アメリカの有名な競馬解説者、ランディ・モスはSNSで「まだ2月だが、2025年の『ワーストライド(最悪の騎乗)賞』はジェームズ・マクドナルドに決まりだ。ロマンチックウォリアーのサウジCでの騎乗がそれに値する」と発言しました。
しかし、もし彼が本気でそう考えているなら、彼はほとんど競馬を見ていないか、あるいは見ていても理解できていないのではないかと思いますね。
タカハシ・マサノブ:
私としては、この騎乗に対する批判に驚きました。ダートレースが普及している日本では、キックバックは馬のやる気を消耗させる大きな要因だと知られています。それを避けるため、外を回り、早めに先頭に立った。「戦術的」という言葉が似合う騎乗だと思います。
結果的に敗れる結果に終わりましたが、だからと言って批判されるような騎乗ではなかったでしょう。
ドバイワールドカップやその先に向けての注目馬は?
アンドリュー・ホーキンス:
ゴールデンヴェコマに注目したいです。彼はフォーエバーヤングと同じくサウジダービーを制し、その後はドバイに戻りUAEダービーを目指す予定です。
もし勝てば、UAE2000ギニーとUAEダービーの2冠を達成する初の非ゴドルフィン陣営の勝ち馬となります。彼の勝ち方を見る限り、この先ケンタッキーダービー出走も視野に入るでしょう。コナー・ビーズリーとアフマド・ビン・ハルマシュ調教師にとって、これは大きなチャンスとなります。
マイケル・コックス:
アスコリピチェーノ。次走は分からないですが、彼女の動向には注目すべきです。彼女の持つ戦略的なスピードと、シャティンの硬い馬場との相性は抜群でしょう。香港のマイルG1が理想的なターゲットになりそうです。
ジャック・ダウリング:
予想通りかもしれませんが、シンエンペラーが今後も注目すべき馬の筆頭です。彼はリヤドでのレースを自分のペースで進め、最後の直線でも余裕を持って勝利を決めました。この馬がドバイシーマクラシックに出走すれば、間違いなく主役級の存在になるでしょう。今後2000mのレースで先行策を取るのか、それとも2400mをこなすために抑える競馬をするのか、どちらにせよ今シーズンの飛躍が期待されます。
デイヴィッド・モーガン:
アスコリピチェーノとゴールデンヴェコマも確かに有力ですが、ジャックの意見には同意できます。シンエンペラーは今年、真のスター馬へと成長する可能性を秘めています。矢作芳人調教師が彼をどこへ向かわせるのかが非常に興味深いですね。
アスコットのキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスからジャドモントインターナショナル、あるいは再びアイリッシュチャンピオンステークスへと挑戦するかもしれないですね。
タカハシ・マサノブ:
シンフォーエバー。初めてのダートであのパフォーマンスは素晴らしいの一言でした。UAEダービーでも有力候補の一角に数えられる存在だと思います。
あなたがロマンチックウォリアーの馬主になったら……どうする?
デイヴィッド・モーガン:
まずは、計画通りドバイターフへ。その後は安田記念を回避して、イギリスに送り、数週間のんびり過ごしてもらいましょうかね。日本、香港、ドバイ、サウジアラビア、オーストラリアで実績を残してきたので、ヨーロッパと北米でも走らせたいです。8月下旬にイギリスの最高の競馬場、ヨークで行われるG1・インターナショナルSを目指したいですね。
それからアメリカに渡って、デルマー競馬場で行われるブリーダーズカップ・マイルに出走させます。それぞれのレースには異なる難しさがあるでしょうが、もしこれが夢物語なら(もちろん勝ち続けると仮定して)ロマンティックウォリアーの伝説にさらに拍車がかかり、競馬史上最高峰の名馬として語り継がれるでしょう。そして最終的には香港に戻り、4度目の香港カップを狙いたいですね。
マイケル・コックス:
私ならすぐさま持ち分を売却しますね、ダニー・シャム調教師から維持費の請求書が届く前に。連絡先を片っ端から洗い出して、億万長者のマイク・レポール氏とジョン・スチュワート氏の間で入札合戦をやってもらいましょう。その顛末はIdol Horseでレポートしますよ。
で、もしロマンティックウォリアーに走ってほしいレースがあるとすれば、6月半ばに阪神競馬場で行われるG1・宝塚記念(2200m)です。
アンドリュー・ホーキンス:
ロマンティックウォリアーはサウジで『5カ国G1制覇クラブ』の仲間入りを逃しました。ならば、それを目指すしかないですよね。
まずは、ヨーロッパでも比較的メンバーが手薄になることがあるイスパーン賞(フランス)を狙います。馬場が軟らかい可能性はありますが、それでもチャレンジしてみたい。夏競馬のシーズンは休養に充てます。
9月の通常日程に開催されるならウッドバインマイル(カナダ)を使い、そこからデルマー競馬場でのブリーダーズカップ・マイルへ挑戦させます。ウッドバインマイルがもう少し早期に移動するという噂もありますが、もし9月開催ならそこを目指します。
ジャック・ダウリング:
まずは、譲っていただいたオーナーのラウ氏に感謝とお礼を。まずは、ドバイターフでリバティアイランドを再度一蹴して、それからロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズステークスに進ませましょう。確かに賞金はそこまでではありませんが、華々しい経歴にヨーロッパのG1を加えるには絶好の機会に見えます。
アスコットなら馬場状態も良好になりやすく、それほど強力ではない相手との対戦になる可能性もあります。アスコットの最終コーナーはロマンティックウォリアーに合うはず。抑え気味に進め、直線で一気に弾けるような競馬が期待できます。
タカハシ・マサノブ:
一人の日本の競馬ファンとしては、安田記念と宝塚記念に遠征させたいですね。この2つを勝てば、年度代表馬の夢すら見えてきますから。

幻に終わったドバイWCでの再戦、実現したら勝つのはどっち?
デイヴィッド・モーガン:
もしドバイで再戦が実現していたら素晴らしいことだと思いますし、スポーツマンシップ溢れるオーナー、ピーター・ラウ氏の真骨頂と言うべきでしょう。ですが、陣営はすでにその線を否定したようですし、それも理解できる話です。リヤドで会った何人かのホースマンによると、あそこの深いダートは芝馬に合っているそうで、一方でメイダンの速いダートは厳しい舞台になると言われています。
リヤドでフォーエバーヤングに勝てなかったロマンティックウォリアーが、ダートのスペシャリスト相手にドバイで逆転するのは難しいのではないでしょうか。
ジャック・ダウリング:
フォーエバーヤングがロマンティックウォリアーを再度退ける結果になると思います。サウジカップでは一瞬ひやっとした場面がありましたが、再戦となればどの位置でロマンティックウォリアーをマークすれば良いのか、坂井瑠星騎手ももう把握できたはず。2000mへの距離延長となれば、なおさら日本馬のフォーエバーヤングが圧倒的な本命になるでしょう。
マイケル・コックス:
今週、香港の『The Standard』紙に寄稿したコラムでこう書きました。
“ボクシングの比喩を使えば、直線入り口でマクドナルドとロマンティックウォリアーがフォーエバーヤングを捉えた場面は、まるで渾身のパンチがフォーエバーヤングの顎を直撃したようなもの。しかしフォーエバーヤングはロマンティックウォリアーのベストショットを耐えきり、立ち上がってカウンター一発でKO勝ちを収めた。これは史上最も勇敢な逆転劇の一つとして語り継がれるだろう。”
マクドナルドとロマンティックウォリアーはフォーエバーヤングに対してあらゆる手を打ちましたが、それでも足りなかった。もう一度挑んでも意味はないと思います。
アンドリュー・ホーキンス:
ボクシングの例えを続けるなら、“世紀の一戦”でジョー・フレージャーに敗れたモハメド・アリが再戦で雪辱を果たし、その後“スリラー・イン・マニラ”で決定的な一撃を見舞ったのを想起します。アリが勝つためにはロープ・ア・ドープなど、戦術の大幅な変更が必要でした。
問題は、ロマンティックウォリアーがリヤド決戦(“ランブル・イン・リヤド”)の結果を覆すような戦術転換が可能かどうか。特にドバイワールドカップはフォーエバーヤング向きの条件がさらに整った場になるでしょうから。
もし攻略法があるとすれば、私には見つかりませんし、ジェームズ・マクドナルド、ダニー・シャム、ピーター・ラウの陣営にも見当たらないようです。結局フォーエバーヤングが勝ち、ロマンティックウォリアーがドバイターフに向かう判断は正しいと思います。
タカハシ・マサノブ:
まず始めに、私はドバイターフに向かうという決断を尊重します。自分がオーナーの立場であっても、ドバイワールドカップは選ばなかったと思います。もし、メイダンのダートコースで再戦するならば、リヤドよりもアメリカのダートに近いという要素は見逃せません。フォーエバーヤングに有利な戦いになると見ています。