木曜日朝のリヤド、約50名のメディアが集まった記者会見に、矢作芳人調教師が出席した。真面目、ユーモア、茶目っ気、礼儀、そして率直さを交えながら、次々と投げかけられる質問に忍耐強く答えていった。
矢作師が着ていたのはフォーエバーヤングの特製ジャケット。その派手な赤色に負けないほど、人を惹きつける魅力を放っていた。
日本競馬を代表する著名トレーナーの矢作芳人調教師は、5歳を迎えたフォーエバーヤングが全盛期に達したのか、あるいはその並外れた天賦の才能にまだ『伸びしろ』があるのかというありふれた質問に対し、決して安直な答えは出さない。
矢作師は「どの馬であっても限界を決めるものではないと思っています」と語り、さらに「フォーエバーヤングの限界がどこにあるのか私にも分かりませんし、それを決めることもしません」と続けた。
ただ、今年の初戦となるG1・サウジカップに向けて、フォーエバーヤングが「90パーセント以上」の状態にあることは明言。100%にどれだけ近いのかについては、矢作特有の皮肉めいた微笑みで煙に巻いた。
また、6番枠からの戦術プランについて問われると、その不敵な笑みが再び浮かぶ。「うちの馬が前に行くってこともあり得る」と話し、さらに「probable(おそらく)」と畳みかけると、声をあげて笑った。
しかし、どの位置でレースを進めるにせよ、もしフォーエバーヤングが昨年と同じような好状態で出走できれば、2年連続で世界一の優勝賞金を持ち帰る姿を否定することは難しい。
たとえ今回、アメリカ勢がより強力な布陣を送り込んできたとしてもだ。強豪の中には、ボブ・バファート調教師が管理するネバダビーチやナイソスの名がある。バファート師が今回のように中東へ遠征してくるのは珍しいことだ。
一方で、矢作師は中東の常連だ。フォーエバーヤングは2024年のサウジダービーを制しており、今回でサウジアラビアでの3連勝を狙っている。また、秋にアメリカで開催されるブリーダーズカップでも馴染みの顔になりつつある。
だが、今年についてはその限りではないかもしれない。3カ月前、フォーエバーヤングが日本馬として初の快挙を成し遂げたG1・BCクラシック。今年、このレースの連覇に挑むかどうかについては、まだ決定していないと同師は強調。今年の開催地がカリフォルニアからケンタッキーへ移ることを、遠征の懸念材料に挙げた。
矢作師は「オーナー(藤田晋氏)は、『キーンランドは遠いので』と言っているので、まだ迷っているところです」と明かし、BC遠征が既定路線であるという周囲の憶測を打ち消した。


矢作芳人調教師は根っからのスポーツマンだ。一年前、激戦の末に競り勝った香港のロマンチックウォリアーとの再戦が、今回のサウジカップでは実現しないことを率直に惜しむ。
「正直残念ですね。もう一度やってみたかったです」と百戦錬磨の勝負師は語り、昨年のレースの手に汗握る最終ハロンをこう振り返る。「これで差し返して勝てたら本当に素晴らしい映画のラストシーンだなと思ったので、フォーエバーヤングにアカデミー賞をあげたかったです」
帽子からジャケット、鋭いウィットに至るまで、矢作には常に“パフォーマー”としての一面がある。
会見に出席したある記者は、データ分析の結果ではフォーエバーヤングが突出していたと明かした上で、JRAが調教師を支援するためにAIデータサイエンスを取り入れているのかと質問。矢作師は皮肉を交えてこう答えた。
「JRAは何もやってくれません(笑)」
一方、フォーエバーヤングの主戦を務める坂井瑠星騎手は、取材に対しては控えめな態度を見せつつも、自身と騎乗馬の能力には自信を覗かせる。
土曜日の5つの騎乗馬のうち、何頭が勝てると思うか尋ねられると、彼は親指を含むすべての指を立てて手をかざし、「5つです」と宣言。サウジカップについては、「これだけのレースですから、常に素晴らしいメンバーが揃います」と語った。
「ただ、いつも通り自分の仕事をするだけです。結果は自ずとついてくると信じています」
対照的に、矢作師は自信を見せる一方で、自身の非を認める謙虚な姿勢も示した。G2・リヤドダートスプリントに出走するアメリカンステージが先月惨敗したことについては、当日の馬体重が重すぎたことを敗因に挙げ、自らの「腕の悪さ」による結果だと責任を認めた。
また、G1・ネオムターフカップに挑むシンエンペラーに関しては、愛チャンピオンSでの大敗後、昨年末のジャパンカップと有馬記念を走ることで調子を取り戻したと分析。「レースを見てもらえば分かると思うんですけども、ここ2レースに関しては非常にアンラッキーなレースでした」と振り返った。
「季節的なもの、あとは場所的なもの、サウジアラビアの気候とかあるいはちょうど今のこの時期の気候っていうのが彼に合ってるんだと思います」
フォーエバーヤングがサウジアラビアの気候と、彼が最高のストライドを繰り出すことができる赤茶色のダートを好んでいることは、今や誰もが知るところだ。矢作の様子からも王者の順調な仕上がりは伺えたが、彼の言葉はそれをさらに裏付けるものだった。
「今朝、久々に馬を見ました。しっかり仕上がってるということを確認できました」
