かつて、レスター・ピゴットやパット・エデリーといった名手たちが手綱を取って駆け抜けたペナン競馬場の芝コース。しかし、先週土曜日の開催をもって、160年以上にわたる歴史は終わりを迎え、美しい競馬場は『失われた競馬場』のひとつとして名を連ねることになった。
クラブはペナン島の州都ジョージタウンに拠点を置き、創設は1864年。マレーシアに現存していた競馬組織としては最も古い歴史を持っていた。現在の競馬場はバトゥガントンにあり、1939年から競馬が行われてきた。
現在、マレーシアに残る主要な競馬場は、クアラルンプールにあるセランゴールターフクラブ(スンガイベシ競馬場)と、イポーのペラターフクラブ(イポー競馬場)の二つのみとなった。さらに、ボルネオ島のサラワク州クチンにも競馬場が存在する。
ペナンは、シャティンやニューマーケット、フレミントンといった世界的な名門と同列に語られることはないかもしれない。だが、それでも独自の豊かな歴史を持っていた。
エデリーやピゴットといった名騎手が長年にわたって騎乗してきただけでなく、香港カップ初代覇者のコロニアルチーフも、かつてこの地で重賞勝ちを収めている。今から30年も経たない頃、地元のスターホースであるピークオブパーフェクションは、メルボルンカップでジェザビールの後塵を拝した数週間後にペナンで出走していた。さらに12年前には、キャプテンオブビアスやミスタービッグといった一流スプリンターがここで勝利を挙げ、世界の舞台へと羽ばたいていった。
ペナンは、過去12か月の間に閉鎖された英領マラヤ時代創設の競馬クラブとしては二つ目となる。昨年には、シンガポールターフクラブが180年以上にわたる歴史に幕を下ろしたばかりだった。同クラブは25年前、シンガポール中心部のブキティマから北部郊外のクランジへと競馬場を移転していたばかりだった。
昨年にはマカオのタイパ競馬場も閉鎖されており、世界中で姿を消した競馬場のリストは加速度的に増え続けている。先週、オーストラリアン・ターフクラブの会員投票によって存続が決まったシドニー西部のローズヒルガーデンズ競馬場のように、閉鎖が取り沙汰されながらも辛うじて存続が決まった競馬場は、ほんの一握りでしかない。
過去20年間で姿を消した競馬場には、アメリカのハリウッドパーク、アーリントンパーク、サフォークダウンズ、ゴールデンゲートフィールズ、ベイメドウズといった一流競馬場が含まれる。さらに、オーストラリアのチェルトナムパークやビクトリアパーク、南アフリカのクレアウッドおよびニューマーケット、フランスのメゾン=ラフィット、ドイツのフランクフルト競馬場などもそのリストに加わっている。
ニュージーランドのアヴォンデール競馬場も、来年には閉鎖される予定だ。ここは往年の名馬、ボーンクラッシャーがデビューを飾り、バルメリノ、ホーリックス、ラフハビットといった世界的なスターがターフを駆け抜けた舞台でもある。
また、ニューヨークのアケダクト競馬場と、ワシントンD.C.近郊のローレルパーク競馬場も、今後2年以内に閉鎖されることが決まっている。
こうした競馬場跡地の多くは、住宅用地として再開発されたり、あるいはよりクリエイティブなイベント会場に転用されたりしている。
かつてのハリウッドパーク競馬場の跡地には、現在では世界有数のスタジアムであるソーファイ・スタジアムが建っている。2022年にはスーパーボウルの開催地となり、2027年にも再びその舞台となる予定だ。また、来年にはFIFAワールドカップの試合が複数行われ、2028年ロサンゼルス五輪では開会式および水泳競技の会場としても使用される。
アーリントンパークでも同様の再開発計画が浮上していた。NFLのシカゴ・ベアーズが土地を取得し、スタジアム建設が構想されていたが、現在はイリノイ州議会との間で行き詰まりが生じており、跡地は手つかずのまま放置されている。
競馬の伝統は、世界中の大都市や国々の中に、時に思いがけない形で今もなお痕跡を残している。
たとえば、シドニーに空路で訪れた人は誰もが通過する『マスコット』という郊外エリア。ここには現在、シドニー国際空港があるが、この地名はもともと「アスコット」と呼ばれていた。かつてこの地域には競馬場が存在し、1911年の住民投票でもその名称が支持された。
しかし、すでにオーストラリアや英国で広く使われていた名前と重なることを理由に、郵便当局が名称の変更を要求。結果として、頭に「M」が加えられ、『マスコット(Mascot)』という地名になったのである。
南アフリカでも似たような例がある。ヨハネスブルグ郊外のアルバートンにかつて存在した競馬場、「ニューマーケット」もそのひとつだ。
現在、そのニューマーケット競馬場の面影はほとんど残っていない。だが、ネルソン・マンデラの名を冠した通りと並んで、アスコット、ドンカスター、エプソム、グッドウッドといった競馬由来の地名を冠した道路が今も存在している。
もしかすると、近い将来、旧ペナンターフクラブの跡地にも「ジャラン・ピゴット」や「ジャラン・エデリー(=ピゴット通り/エデリー通り)」といった名が現れるかもしれない。現在、この地域では土地の区画整理と、商業・複合開発地域への用途変更が計画されている。