先週のHawk Eye Viewでは、土砂降りの中で行われたチャンピオンズ&チャターカップを制したミスターメディチの走りを振り返った。
するとパキスタン在住の競馬ファン、サラール・カーン・ジャドゥーン氏からメッセージが届き、20歳となった今も健やかに過ごすミスターメディチの写真が送られてきた。
アイルランドで15戦、香港で52戦、さらにオーストラリアで2戦したのち、イギリス・ダラム州のヘッジホルムスタッドで種牡馬生活を送っていた同馬だが、現在ではパキスタンのファイサラバードから西へ2時間ほどのシャージューナスタッドファームにいるという。
さらにミスターメディチは、パキスタン初の女性馬場馬術選手、アリーン・ボカリ氏に大きな影響を与えた存在でもある。彼女は「彼との関係が、自分に国際的な夢を追いかけようという火を灯してくれた」と語っている。
サラブレッドの世界では、多くの場合『パート1』諸国、つまり競馬産業の最前線に立つ17の主要国を中心に物事が動いている。だが、競走馬はどの国からでも現れる可能性がある。
国際血統書委員会は、サラブレッド生産における国際的な統括機関であり、世界各国の血統登録を監督している。この委員会が現在承認しているのは、74か国にまたがる72の登録機関で、それらはいずれも国際基準に則った生産体制を有していると認められている。
さらに、アルジェリア、エストニア、キルギス、リビアの4か国は「新興」血統登録国とされており、現在は承認取得に向けて準備が進んでいる段階にある。一方、かつては承認されていたものの、現在はその認可を失った国々も存在する。コスタリカ、グアテマラ、イスラエル、レバノン、カザフスタン、ウズベキスタンなどがその例だ。
トップクラスの競走馬、とりわけ種牡馬や繁殖牝馬となった馬たちは、世界のどこへでも行き着く可能性がある。種牡馬の移動先として特に目立つのが、インドやトルコといった国々である。なかでもトルコジョッキークラブは、近年の種牡馬選定において特に目利きの巧さを見せている。
たとえばデアデビルやオーソライズドといった種牡馬は、トルコに輸出されたのち現地で大きな成功を収めた結果、アメリカやアイルランドへ再輸出されるという異例の動きを見せた。
しかし、なかにはさらに『思いも寄らぬ場所』へと渡った名馬たちも存在する。
その一例が、メルボルンカップ、ジャパンカップ、有馬記念で2着となった実績を持つポップロックだ。この馬は2010年末に引退して以降、チェコ共和国で種牡馬として繋養されてきた。産駒数は年ごとに1頭から10頭と少数ながら、チェコ、ポーランド、スロバキアといった東欧諸国で勝ち馬を出してきた。
現在は種牡馬としての務めを終え、エルベ川のほとり、パルドゥビツェ地方を望む牧草地で余生を過ごしている。
また、クラシック勝ち馬の中にも意外な場所で繋養されている例がある。
英2000ギニーとセントジェームズパレスステークスを制したガリレオゴールド、そしてヴィクトリアダービー馬のモナココンスルの2頭は、いずれもインドネシアのジャワ島で種牡馬として供用されている。
彼らは、ブラックキャビアの全弟モーシェを含む計12頭のサラブレッド種牡馬の一員だ。ただし、インドネシアの血統書は国際的に未承認であるため、同国で生まれたこれらの産駒はサラブレッドとはみなされていない。
また2022年にジ・エベレストを制したギガキックの勝利をきっかけに、ある種牡馬の所在が話題となった。その父であるシザーキックは、オーストラリアでG3を勝った後、2022年初頭にフランスからモロッコへと輸出され、その後はチュニジアに送られた。主にスポーツホースの種牡馬としての役割を担っていたという。
現在は再びモロッコに戻り、ラバトとカサブランカの中間に位置する『ナショナル・ド・ブジカ牧場』で繋養されている。ここでは仏2000ギニー馬のスタイルヴァンドームも供用されており、また北アフリカ最大の種馬場『ナショナル・ド・メクネス牧場』では、フランケルの好敵手として知られるエクセレブレーションも種牡馬として名を連ねている。
ジ・エベレストの勝ち馬の父として国外に出たのは、シザーキックだけではない。先週日曜、シャティン競馬場では、ルービック産駒の活躍が注目を集めた。
2019年のジ・エベレスト覇者イエスイエスイエスの父として知られるルービックは、この日2頭の産駒が香港で好走。1頭はクラス2・リヴァーヴァードンハンデキャップ(1400m)を勝ったパッキングハーモッド、もう1頭はG1・チャンピオンズ&チャターカップ(2400m)で2着に入ったルビーロットだった。さらに5月中には、ライトイヤーズチャームやテレコムパワーといった他の産駒も香港で勝利を挙げている。
今年初め、ルービックはオーストラリアから中国・河北省へと輸出された。現在は黄清才氏が率いる華育馬産業のもとで種牡馬として供用されており、ネオリアリズムやスウィートオレンジなど、香港で実績のある種牡馬たちも同氏によって多数輸入されている。
他にも、思わぬ場所で繋養されているG1実績馬たちがいる。たとえば、ゴールデンシャヒーンでスターリングシティとリッチタペストリーに次ぐ3着だったユナイテッドカラーは、現在イランで供用されている。ケンタッキーダービー2着のファイアリングラインはフィリピンで、またオーストラリアのG1ウィナーであるマイクロフォンはブラジル南部、ウルグアイとの国境付近で繋養中だ。