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白いジャケットにダークブルーの『ZP』ロゴ入りヘルメットキャップ、そしてジーンズの後ろポケットからアンテナのように突き出たムチ。ザック・パートン騎手のおなじみのスタイルは、ひときわ目立つ存在だった。

香港国際競走を控えた火曜日の夜明け前、その日はまさに、動きの美しさを見せつけるエキシビションのような調教の数々から始まろうとしていた。

香港のチャンピオンジョッキーと、世界最強のスプリンターのコンビ。パートンがカーインライジングに跨がり、日曜日のG1・香港スプリントに向けた最後の追い切りを行うまで、45分もないところにいた。

だが、その朝に最後の仕上げを行うのはカーインライジングだけではない。現在の香港競馬を代表するもう一頭の大スター、ロマンチックウォリアーがまず最初に登場した。G1・香港カップの4連覇を懸けた本番を前に、芝コースで最終追い切りに臨んだ。

午前6時22分、パートンが別馬の調教から戻ってきた。そこから程なくして、ジェームズ・マクドナルド騎手が柵の間をくぐり抜けて歩き出し、ロマンチックウォリアーのダニー・シャム調教師のもとへと向かい、馬場の真ん中あたりで両者は合流。

両側に7番の数字が入った水色のキャップを渡し、J-Macがそれをしっかりと被る間、シャム師は伝えたい内容を言葉と身振りで示していた。

そこにはヒュー・ボウマン騎手の姿もあり、さらにロマンチックウォリアー陣営の重要な一員である、馬体ケア担当のトム・シンプソン氏もいた。マクドナルドは騎乗用のグローブを着用すると、ムチをシンプソンに預けた。

彼らの元に、2頭の馬が近づいてきた。ロマンチックウォリアーと、併せ馬の先導役であるロマンチックソーだ。マクドナルドとボウマンがそれぞれの馬に跨がった。

ワクワク感に満ちた朝、ロマンチックウォリアーはその期待に応えた。7歳馬の彼は、ロマンチックソーの背後を追走して照明に照らされた芝コースを進み、直線へ入るとゴール板を目指して一気に加速。マクドナルドは併走馬の外を選択し、チャンピオンは納得の走りを披露した。

ロマンチックウォリアーは楽な手応えのまま横に並びかけると、耳をピンと立てて動かしながら、軽々と先着。スムーズなフットワークで、スピードとパワーをはっきりと見せつけた。1200mは1分16秒9、ラスト400mは22秒3で駆け抜けた。

「いい感じの内容でしたね、楽にサッと流した感じです。良かったと思います。良い走りでした」とマクドナルドは追い切り後に語った。

ロマンチックウォリアーは前走、4月のG1・ドバイターフでソウルラッシュにゴール前で差し切られてハナ差で敗れて以来、初めての実戦となったG2・ジョッキークラブカップを勝利。勢いそのままに、香港カップに大本命として臨むことになる。

ドバイからの遠征帰り後、左前脚の球節にボルトを埋め込む手術を受け、夏場はリハビリに費やされた。復帰に至るまでの最大の不安は、怪我と手術を経たことで、もう以前のような走りをできないのではないのではないか、という“衰え不安説”だった。

「期待以上の上出来です。驚かされますよね」とシンプソンは歩きながら語る。ロマンチックウォリアーは動じる様子もなくコースを後にし、砂の馬場へと歩いて戻っていった。見守る人々と同じように、自分の走りに満足しているかのようにも見えた。

マクドナルドはIdol Horseの取材に「彼が自信を失っているなんてことは、まったくありません」と語り、ロマンチックウォリアーの仕上がり具合に胸を張る。

「しっかりと伸びています。良くなっているとまでは言えないかもしれませんが、少なくとも出来落ちは絶対にありません。非常に高いレベルを維持していますし、今朝の動きからも、今が本当に好調だということが伝わってきました」

「調教ではいつだって楽しそうに走っています。走るのが好きな馬ですから。とにかく今は、自信に満ちあふれています。それだけは確かです」

James McDonald rides Romantic Warrior at trackwork ahead of HKIR assignment
ROMANTIC WARRIOR, JAMES McDONALD / HKIR Trackwork // Sha Tin /// 2025 //// Photo by HKJC

チャンピオンが調教を追えると、もう一頭のチャンピオンの調教が始まる。今度はオールウェザーコース、整備されたばかりの馬場での追い切りだ。パートンは輪乗りでカーインライジングに跨がる。入念な準備運動で脚元をほぐしている姿が、ひときわ目についた。

ジ・エベレストを制した人馬が調教スタンドの前を通り、馬場へと向かう頃には、すっかり朝日も昇って周囲は明るくなり始めていた。

パートンは「今日は軽めで行きますか?」と、スタンド席のデヴィッド・ヘイズ調教師に声をかける。

ヘイズ師から返ってきた答えは、「良い感じで頼むよ」というものだった。

そして、パートンとカーインライジングはコースへ向かって行った。パートンが着る白いジャケットの背中には、自身が跨がるこの名スプリンターの姿が大きく描かれていた。

追い切りの狙いを尋ねられたパートンは、「デヴィッド(ヘイズ調教師)からは24秒台でまとめてくれと言われていました。しっかりした24秒で行かせて、そこからちょっとやらせたい時もあれば、もう少し楽に、ソフトに、という時もあるんです」とIdol Horseに説明した。

「だから、今日はしっかりストライドを伸ばして行かせるか、それとも少しだけセーブしてあげるかのどちらかでしたが、後者を選びました。とにかく大事に乗るようにしました」

カーインライジングはやがて、単走で直線入り口に姿を現した。前を行く馬たちが外ラチ沿いに固まって走る中、パートンは真ん中のスペースを堂々と突いていった。

セーブ気味に「大事に」乗られていたカーインライジングだったが、その追い切りはやはり圧巻だった。軽快かつ滑らかなフットワークで伸び、目の前を一気に通り過ぎてコーナーへと向かい、そこからは軽く流す程度にスピードを緩めていく。

その一連の動きからは、強烈なパワーが伝わってきた。世界最高レーティングのスプリンターは、ラスト400mを23秒2で駆け抜けていった。

「本当に素晴らしい馬に成長しました」とパートンは言う。「去年のこの時期と比べても、今はずっと大きく、たくましくなりました。それに、何をさせても本当に扱いやすくて、こちらの要求にきっちり応えてくれます」

「先週は本当にうるさいくらい元気でしたが、芝でしっかりとした追い切りを一本やって、だいぶ落ち着きました。今朝はかなりリラックスしていましたし、またレースに向けてちょうど良い形で仕上がりつつある段階に入ってきたと思います」

結局、すべてを決めるのはレースだ。二頭はいずれも非凡なチャンピオンだが、本番4日前のこの動きを見るかぎり、香港にとどまらず世界の“歴代級の名馬”と呼ぶにふさわしい存在として、それぞれの評価をさらに押し上げてくれそうだという期待が一段と高まった。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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