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2024年2月、リヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたG2・1351ターフスプリントでは、ロッサ・ライアン騎手が内ラチ沿いの狭いスペースを突き抜けてアナフを勝利へ導いた。

このタフな騙馬が陣営に最高額の賞金をもたらした一戦となり、その後のドバイでのG1・アルクオーツスプリントに向けての道を切り開いた。しかし、この夢物語はまもなく悲劇へと転じようとしていた。

「一時はかなり危なかった。今こうして彼が無事にいるのは幸運だったと言えるよ」と、アナフを管理するミック・アップルビー調教師はIdol Horseに語った。

「ドバイへのフライト中に肺炎を発症して、しばらくかなり体調を崩していたんです。だからアルクオーツスプリントには出走できなかった。その後は長い休養と抗生剤治療を経て、ネブライザー(吸入器)を使いながら回復に努めた。ドバイの獣医師たちが本当に良くケアしてくれたおかげで、彼は今こうしてまた走れるんです」

アナフは最終的に回復し、秋には復帰してイギリスで4戦をこなした。その後、リフレッシュのための数ヶ月間の休養を経て、昨年と同じローテーションでリヤドへ向かうことになった。その始動戦は、今週日曜にリングフィールドのポリトラックで行われるリステッド競走・キャシーステークス。ここではシャンティイのクリストファー・ヘッド厩舎の管理馬で、1351ターフスプリントへの出走を予定しているトップギアと対戦する。

「この2ヶ月間で状態はかなり良くなった。体調も万全で満足しています」と調教師は話す。11月のニューカッスル競馬場(オールウェザーのタペタ馬場)で2着に入って以来、順調に冬を越したフォスニックレーシングの看板馬に対してアップルビーは静かな自信を見せる。

MICK APPLEBY / King Abdulaziz Racecourse // 2024 /// Photo by Lo Chun Kit

アナフのサウジ再挑戦とその後の計画がアップルビーの期待通りに進めば、今年後半には東アジア遠征の可能性も浮上する。G1好走歴を持つこの快速馬は、2年半前に韓国ソウルのダートコースでG3・コリアスプリントに挑戦し、7着に敗れている。

「今回はドバイには向かわず、サウジの後はすぐに帰国する予定だ。ただ、年内にもう一度海外遠征を考えている」とアップルビーは語る。「香港かもしれないし、もう一度韓国に行くのもあり得るね。韓国はとても良い環境で、現地の人たちは本当に充分な働きをしてくれたよ」

「昨年、サウジで勝った後に香港も考えたんだが、彼が体調を崩してしまったから断念せざるを得なかった。今年こそ実現できればいいね」

アナフはサウジでの勝利により『約90万ポンド(約1億7000万円)』という大金を獲得。イングランドで最も小さい郡であるラトランドに拠点を置くアップルビー厩舎にとって、大戦果となった。さらに前年11月には、カリフォルニア州デルマー競馬場で管理馬ビッグイーヴスがG1・ブリーダーズカップ・ジュベナイルターフスプリントを制し、約43万ポンド(約8000万円)の賞金を手にしている。

アップルビーは、アマチュアの障害騎手としてキャリアをスタートし、故ジョン・“マッド”・マナーズ厩舎の厩務長を務めた後、地道に実績を積み上げついにG1勝利トレーナーの地位に上り詰めた。マナーズは現役時代、チェルトナムやエイントリーの名高いフォックスハンターズチェイスを制した個性派の人物だった。

「あの厩舎には3~4年いたけど、楽しい時間でした。マナーズは本当に個性的な人だったね!」とアップルビーは振り返る。

1990年代半ばにプロのレースで6勝を挙げた後、調教師としての道を模索。2008年から数年間、アンドリュー・ボールディング厩舎の厩務長を務めた。そして2010年、ついに自身の厩舎を開業。初年度は10頭の出走馬から3勝を挙げ、翌年には15勝、2012年には40勝、2013年には61勝と着実に成績を伸ばしていった。2020年には初めて年間100勝の大台に到達し、これまでに4回、年間100勝超えを記録している。

Big Evs claims the Breeders' Cup Juvenile Sprint
BIG EVS, TOM MARQUAND / G1 Breeders’ Cup Juvenile Sprint // Santa Anita Park /// 2023 //// Photo by Keith Birmingham

現在、アイルランドのタリホースタッドで種牡馬入りしたビッグイーヴスは、アップルビー厩舎の地位を一段引き上げた存在だった。しかし、アナフに加え、同じポール&レイチェル・ティーズデイル夫妻の所有馬である3歳馬ビッグモジョがいることで、アップルビーは今後も大舞台での活躍を見据えている。

G3・モールコムステークスを制したビッグモジョは、昨年11月のG1・ブリーダーズカップ・ジュベナイルターフスプリントで不運な4着に終わったが、今シーズンはG1戦線での活躍を期待されている。

「ポールと話し合って、まずビッグモジョをどこに向かわせるか決めるつもりだ。おそらく6ハロン戦になるだろう。ロイヤルアスコットのコモンウェルスカップが一つのターゲットだね」とアップルビーは語る。

「今年も海外遠征を考えている。ブリーダーズカップでは2度も進路を妨害され、スムーズなら勝てたかもしれなかった。またグッドウッドとロイヤルアスコットを目指しつつ、いくつか海外遠征の選択肢も探っていくつもりだ」

まずはアナフが挑むリングフィールド、そしてリヤドの舞台。危機を乗り越えたこの馬が、再び100万ドルの快挙を成し遂げられるかが注目される。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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