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日本で社会現象を巻き起こした、競走馬擬人化ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』。2024年6月には累計で2100万ダウンロードを突破し、さらに英語版も開発中と公式SNS上で発表されている。

その一方で、香港では競合他社が窮地に陥っている。日本で一大ブームを巻き起こした作品のコンセプトや外観を盗用したとして非難を浴びており、香港政府の補助金も剥奪となる可能性が出てきているのだ。

海外のウマ娘ファンは2021年2月のゲームリリース以来、プロジェクトの海外展開を待ち望んでいた。ウマ娘は開発会社のCygamesにとって最大のヒット作となっており、同社のモバイルゲーム収益の約72%を占めている。約24億米ドルの収益を稼ぎだし、App Store日本版のダウンロード数ランキングでは何度も1位を記録してきた。

このCygamesの親会社はサイバーエージェントだ。ケンタッキーダービーで3着に入ったフォーエバーヤングの馬主として知られる藤田晋氏が、同社を率いている。

Cygamesは『ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!』と呼ばれるスピンオフ作品の発売を8月30日に予定しており、Nintendo Switch、Steam、PS4向けに配信される。

このゲームは『Umamusume: Pretty Derby – Party Dash』というタイトルで、全世界同時発売も予定されている。待望のiOS、Android向けの英語版ウマ娘もこれに合わせてまもなく配信される可能性がある。

Forever Young Kentucky Derby
FOREVER YOUNG (centre) / G1 Kentucky Derby // Churchill Downs /// 2024 //// Photo by Michael Reaves

また、7月4日から8日までロサンゼルスで開催されるAnime ExpoにCygamesが出展し、英語版のウマ娘(チュートリアルパート)を試遊できることも発表されている。

ウマ娘のマルチメディア展開は、2018年のアニメ1期から始まった。牡馬、牝馬を問わず著名な競走馬が、馬の耳と尻尾を持った少女に『転生』する擬人化プロジェクトだ。ウマ娘は元になった競走馬と同じキャラクターを持っており、似た運命を辿る。

このプロジェクトは漫画、声優のライブ、曲など幅広く展開しており、5月には初の劇場版作品も公開された。初週の興行収入は220万米ドルで国内1位を記録、その後も5週間に渡ってトップ5を維持し、これまでに700万ドル以上を稼いでいる。

ウマ娘は今や東アジアだけでなく、遙か遠くの地域でも熱狂的な支持を得ている。

Umamusume Pretty Derby
Umamusume Pretty Derby / Cygames

この人気の高まりを受けた香港ジョッキークラブは今年初め、香港版のローカライズを担当するAni-Oneと協力し、シャティン競馬場でウマ娘の公式イベントを開催した。また、場外馬券発売所ではアニメ版ウマ娘の3期を放映している。

ウマ娘の国際展開は既に始まっている。韓国語版は、2022年6月にカカオゲームズから配信された。リリース直後から大ヒットを記録し、初日の売上は約230万ドル、韓国のGoogle PlayストアとApp Storeでダウンロード数1位になっている。

香港や台湾向けの繁体字中国語版は、韓国版の4日後に配信が開始された。中国本土向けの簡体字中国語版はBilibiliをパブリッシャーに迎えて2023年8月に配信が始まったが、ほどなくして配信が停止された。現在も復活していないが、中国のファンは日本語版を楽しんでいるという。

一方、香港を拠点とするゲーム開発会社のML Interactive Limitedは、かつての名馬が馬の尻尾と耳を持つややセクシーな少女に転生するという、『独自』のゲームを発表した。

このタイトルは『ウイニングダービー(Winning Derby)』と名付けられており、香港版のApp Storeで近日配信予定とされている。

Winning Derby
Winning Derby / Hong Kong App Store

ゲームの中身もウマ娘と同様、プレイヤーはトレーナーとして擬人化された競走馬をトレーニングし、レースに備えるというものだ。

ML Interactive版の宣伝写真を見ると、世界の名だたる競走馬が登場している。日本の名馬ディープインパクト、香港が誇る大スターのゴールデンシックスティ、オーストラリアの名牝ウィンクス、アメリカの賞金王アロゲートなどの名前が使われている。

当然、香港のウマ娘ファンからはパクリだと猛批判を浴びており、Redditなどの掲示板では嘲笑の的になっている。

問題のML Interactiveだが、実は香港政府の関連団体から補助金を受け取っている。

香港政府の文化體育及旅遊局(文化スポーツ観光局)が運営する『香港遊戲優化和推廣計劃(香港ゲーム強化推進計画)』に選定されており、45万〜55万香港ドルの補助金を受け取ることができる。この補助金は償還ベースで、いわば実際の支出に基づく形で支給される。

また、補助金だけでなく、9月下旬に開催される東京ゲームショウへの出展、開発を支援するインターン生2名の提供、ゲーム業界の専門家によるビジネスやマーケティングの研修も無料で受けられると紹介されている。

補助金だけでなく、厚いサポートを受けられる制度だが、香港発の『ウマ娘』はこれを利用して作られた可能性がある。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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