有馬記念デーの日曜日、中山競馬場。有馬記念を制したクリスチャン・デムーロ騎手は、ミュージアムマイルの勝利は「始まりに過ぎない」と強調した。同時に、外国人騎手の日本での可能性を切り拓いた先駆者である兄、ミルコ・デムーロ騎手への心からの敬意を口にした。
三歳世代を代表する一頭として、その強さを堂々と証明したミュージアムマイル。デムーロは、この馬の能力はまだ底を見せていないと確信するかのように、自信に満ちた手綱捌きを披露した。
デムーロは「ミュージアムマイルはスーパーホースです。今日、彼が最高の状態で戻ってきてくれたことを嬉しく思います」と勝利の喜びを語り、愛馬の強さを褒め称える。
レースは予想外の展開で幕を開けた。各馬揃ったスタートから、横山武史騎手とコスモキュランダが積極的に前へ押し出し、一時は先頭に立つ。しかし、最初のホームストレッチを通過する場面でミステリーウェイが仕掛け、ハナを主張した。
さらに、クリストフ・ルメール騎手が連覇を狙うレガレイラを最後方に待機させる選択をすると、スタンドには驚きの声が広がり、観客の期待感は一層高まった。
刻々と変化する展開の中で、ミュージアムマイルとデムーロは冷静沈着にレースを運んだ。中団やや後ろの位置に着け、終始ダノンデサイルをマークしながら、仕掛けの時をじっと待ったのである。
デムーロは後に、高柳大輔調教師からの指示は特になかったと明かした。
「特にレース前までプランを立てていたわけではありません。ゲートを出てから一番良いポジションを探した際、ダノンデサイルが良い位置にいたので、彼についていけば最終コーナーまで連れて行ってくれると信じてマークしました」
そして勝負所を迎えると、各馬は一斉に、そして即座に反応した。
「最後の直線で、彼はものすごい加速を見せてくれました。今日という日のために、マシンのような完璧な馬を仕上げてくれた調教師を信じていました。そして、我々はやり遂げたんです」とクリスチャン・デムーロは語り、勝利の瞬間を振り返る。


デムーロはこの騎乗について、忍耐とタイミングの重要性をモータースポーツに例えて表現した。
「F1やMotoGPと同じで、自分の前に良い馬(車)を見つけたら、その後ろをついていくのが最善です。ダノンデサイルが良いポジションにいたので、彼についていけば道が開けると考えました。それが勝利に繋がりました」
ミュージアムマイルが力強く突き抜けると、スタンドからは大きな歓声が上がった 。デムーロにとって2週連続のG1制覇となったが、その祝福は春に旋風を巻き起こしたジョアン・モレイラ騎手や、秋に圧倒的な強さを見せたルメールの時よりも、どこか温かく、歓迎ムードに包まれていた。
その温かさは、単なる結果以上のものを反映していた。10年前、日本での通年免許取得を決断したミルコ・デムーロ騎手への深い尊敬の念は今も根付いており、クリスチャンが見せる兄との絆は、日本の競馬ファンの心に強く響き続けている。
喜びの中で、デムーロは兄から受けた影響についても言及した。
「ミルコは私より13歳年上で、私にとっては『第二の父』のような存在です。夏にはミラノの彼の家へ遊びに行き、いつか彼のようなジョッキーになりたい、彼に追いつきたいと思って過ごしてきました」
野心、リスク、再挑戦、そして異文化への適応。そんな兄が築いた“遺産”が、日本最大の舞台で喜びに浸るクリスチャン・デムーロの背中を静かに支えていた。
しかし、今は何よりもミュージアムマイルの未来に彼の視線は注がれている。
クリスチャン・デムーロは「彼は去年の今頃からずっと成長を続けているので、まだまだ伸びしろはあると思っています」と、さらなる進化に期待を寄せた。