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武豊騎手と、田中博康調教師。この二人は騎手として歩んだ道が真逆だ。武豊は数え切れないほどのG1勝利を積み重ねてきた「生ける伝説」。一方の田中師は、叩き上げの苦労人騎手として、一つのG1制覇をつかみ取った。だが、15年前にドーヴィルで生まれた2人の縁が、いま巡り巡って再びドーヴィルへと戻ってきた。

現在は大レースの勝利を次々と積み重ね、日本で最も勢いのある若手調教師の一人となった田中師。日曜日には海辺のドーヴィル競馬場で、実力派マイラーのシックスペンスをG1・ジャックルマロワ賞に送り出し、その鞍上を武豊に託す。

現在57歳の武豊は金曜朝、フランスギャロが開いた記者会見で「田中博康調教師が騎手時代の頃、ここドーヴィルで一緒に騎乗する機会がありました」と振り返った。

「自分が初めてドーヴィルに来たのは36年前です。自分の方が先に来ていたので、当時はサポートして、初めてゆっくり食事をしたのを覚えています。結果的にジャックルマロワ賞で乗せてもらえるのですから、あの時にごちそうしておいてよかったと思います」

「タイキシャトルの挑戦と1998年のジャックルマロワ賞制覇によって、日本の競馬ファンもこのレースをよく知っています。ただ、その勝利より前から、日本でもこのレースの権威は認められていました」

タイキシャトルが日本馬として初めてG1・ジャックルマロワ賞を制し、歴史をつくってから28年。武豊もそのレースをよく覚えている。もっとも、本人にとって喜ばしい記憶ばかりではない。

武豊は「私も別の馬で出ていて、4着でした」と、苦笑交じりにその歴史的な一日を振り返った。

1998年の同レースに臨む1週間前、武豊はドーヴィルのG1・モーリスドゲスト賞でシーキングザパールに騎乗し、日本調教馬として史上初の海外G1制覇を成し遂げていた。

しかし、タイキシャトルをジャックルマロワ賞制覇へ導いたのは、もう一人の日本競馬界を代表するレジェンドジョッキー、岡部幸雄騎手だった。

つまり、フランス夏のマイル王決定戦での初勝利は、今なお武豊の手が届いていないタイトルである。今回、その夢を託すのが、前走のG1・安田記念を制したシックスペンス。日本馬として同レース2頭目の勝利へ導くことを目指す。

celebrates his G1 Yasuda Kinen win aboard Sixpence
SIXPENCE, YUTAKA TAKE / G1 Yasuda Kinen // Tokyo /// 2026 //// Photo by Shuhei Okada

1998年8月14日、歴史的なG1・ジャックルマロワ賞で武豊が騎乗したのは、当時、吉田照哉氏が購入したばかりのミスベルベールだった。

同馬はその後日本へ輸出され、繁殖牝馬としてブラックタイプ競走で実績を残す2頭を送り出した。G1・阪神ジュベナイルフィリーズで2着となったダノンベルベールと、G3勝ち馬のサトノアポロ。いずれもアーモンドアイを手がけた国枝栄調教師の管理馬だった。

そして、その国枝師こそ、今年3月に70歳で調教師を定年引退するまでシックスペンスを管理していた人物である。引退後、同馬は田中博康厩舎へ移った。

40歳の田中師は、名伯楽からすでに数々の大舞台を経験した5歳馬を引き継ぎ、同馬が長らく苦戦していたG1勝利を実現させるという、大きな仕事をやってのけた。

シックスペンスは3歳時、無敗のクラシック候補として2024年5月のG1・日本ダービーに挑んだが、結果は9着に終わった。その後は2勝を挙げて巻き返し、4歳の上がり馬として2025年4月のG1・大阪杯に臨んだものの7着。次走、G1・安田記念でも12着に敗れた。

昨秋から冬にかけては、心機一転でダート路線へ転向。盛岡のJpn1・マイルチャンピオンシップ南部杯で2着に入ったものの、その後のG1・チャンピオンズカップとG1・フェブラリーSでは、ともに下位に沈んだ。

田中厩舎での初戦を7着に終えた時点では、表面的にはシックスペンスが相変わらず伸び悩んでいるようにも映った。だが実際には、本来の姿を取り戻しつつあった。G2・マイラーズCの7着は、一団となった大接戦の中での入線。その走りを経てG1・安田記念へ向けて理想的に仕上がり、同レースではついに秘めた能力を結果へ結びつけた。

田中師は同馬について、「シックスペンスは厩舎に来てから日が浅く、まだ馬のことを完全には把握できていません。ただ、状態にかなり波があるタイプだと感じていますし、前任の国枝栄調教師からもそう聞いています。ですから、日曜にシックスペンスがベストパフォーマンスを見せられるかは分かりません。それでも、私自身は非常に良い状態にあると思っています」と話した。

HIROYASU TANAKA / G1 Champions Cup // Chukyo /// 2023 //// Photo by Shuhei Okada

田中師も武豊と同様、すでにドーヴィルで勝利の歓喜を味わっている。昨年のこの週末、アロヒアリイでG2・ギヨームドルナノ賞を制し、自身初の海外勝利を挙げた。

田中師は「シックスペンスにとって初めての海外遠征ですが、輸送は順調で、調教の動きもとてもいいです。木曜には本馬場の芝コースで追い切り、その後の状態も良好です。非常にリラックスしていますし、ドーヴィルは合っています」と説明する。

「前走で安田記念を勝ち、直線コースのマイル戦は今回が初めてですが、対応できると考えています。だからこそ、ここへ連れてきました。心配はありません」

シックスペンスのフランス遠征には、同じくキャロットファームが所有し、武井亮調教師が管理するシュトラウスも同行している。

ブラジルの名手、ジョアン・モレイラ騎手が騎乗するシュトラウスは海外遠征経験が豊富で、ここ3戦はオーストラリア遠征、アブダビ遠征、香港遠征を歴戦してきた。アブダビでは勝利を挙げたが、これまでG1では大きな実績を残せていない。

武井師は「シックスペンスと一緒に移動できたことは、シュトラウスにとって大きな助けになりました。1頭での移動を好まない馬ですから」と説明した。

「シュトラウスも木曜、ドーヴィルの直線コースで追い切りました。馬場はとても良いと感じましたし、この天候から予想されたほど硬くもありませんでした」

欧州マイル界の傑出した存在、ボウエコーが今週、電撃的に引退した。これにより、相手はそろっているものの、どの馬にも勝機がある混戦模様となった。日本が安田記念馬を送り込み、長く待ち望まれてきた2勝目を狙うには、好機かもしれない。

そして、もしシックスペンスが勝てば、武豊にとってもジャックルマロワ賞初制覇となる。かつて異国の地で田中師に手を差し伸べたことへの、何よりの恩返しとなるだろう。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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