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船橋競馬場の白い砂のコースに、真の世界的スーパースターが姿を現すことはめったにない。優れた馬たちが東京湾北端、千葉の工業地帯にあるこの競馬場を訪れないわけではない。実際、G1・ドバイワールドカップを制したウシュバテソーロが過去2年続けてこのレースに出走していた。

しかし、フォーエバーヤングの登場は格が違っていた。

そのことは入場門からも明らかだった。南関4場の一つ、船橋競馬場。東京のビジネス街から電車で30分ほど東にあるこの地に、雨が降りしきる水曜の夜にもかかわらず、ダークスーツ姿でブリーフケースを持った男性たちが仕事帰りに駆けつけ、日本史上最高のダート馬の姿を一目見ようと殺到していた。

午後8時5分、Jpn2・日本テレビ盃(1800m)の発走時刻には、船橋競馬場は満員の観衆で埋め尽くされた。

フォーエバーヤングは、G1・ケンタッキーダービーでハナ、ハナ差の3着に敗れたものの世界的に名を轟かせ、さらに当時世界最強の芝馬と名高いロマンチックウォリアーをG1・サウジカップで撃破するという、日本のファンが『不可能』と感じていた偉業を成し遂げた存在だ。そして国内では、これまでわずか5戦しかしていない。

パドック脇の解説者は畏敬を込めて語った。「日本で世界最高の馬の1頭が走るのを目撃できるのは非常に貴重な経験です。この瞬間を大切にして、彼の走りを楽しんでください」

対戦馬の一頭、マーブルロックを管理する西園正都調教師も簡潔にこう述べた。

「こんなところを使うとは思わなかったですね」

フォーエバーヤングが日本で走るのは、2024年2月のG3・サウジダービー勝利以降、わずか2度目。前回は大井競馬場のG1・東京大賞典での勝利であり、その前後には米国デルマーのG1・ブリーダーズカップクラシック3着とサウジカップ制覇があった。

次なる舞台は再びデルマー、そしてBCクラシック。そのための前哨戦がこの日本テレビ盃だった。4月上旬のG1・ドバイワールドカップで精彩を欠き3着に敗れてから半年、フォーエバーヤングは長い休養を取っていた。1か月後に迫る大一番へ向け、実力を示す必要があったのだ。

矢作芳人調教師は、その手応えを確信していた。

「ノーザンファーム早来の方で夏休みを過ごし、非常にいい状態で栗東に戻してもらいました。とても仕上げやすかったです」と矢作師はレース後に語った。

発走前、場内はファンファーレと手拍子に包まれる。雰囲気はJpn2のそれではなく、G1さながらだった。

矢作厩舎は2頭出し。レヴォントゥレットが好スタートで先手を奪ってから2番手に落ち着き、フォーエバーヤングは4番手。頭を上げ、尾を立てながら、先行馬のキックバックを嫌がった。白い頭絡に赤い手綱の主役は、向こう正面で先頭から数馬身後方。

その背後では馬群が大きく伸びて分かれ、まるで三つの別レースのように見えた。坂井瑠星騎手は外3頭目を選んで徐々に進出。最終コーナーで本格的にギアを上げた。

直線に入るとライトウォーリアは後退。矢作厩舎の2頭が並んで先頭に立ち、観衆の大歓声を浴びた。フォーエバーヤングはレヴォントゥレットの外から力強く抜け出す。

「瑠星にも望来にも、『お互いのことは気にするな。自分の競馬をしてくれ』と言ったので(フォーエバーヤングが)交わすとき『すごい早いな、早いよ』と思いながら、俺が『気にするな』と言ったしな、と思ってました」と矢作師は笑った。

数完歩で勝負はあった。フォーエバーヤングはスムーズに加速し、2馬身半差をつけてゴール。単勝1.1倍の断然人気に応え、タイムは1分52秒2。G1・G2・G3と、Jpn1・Jpn2・Jpn3すべてで勝利を収めた唯一の馬として歴史に名を刻んだ。

FOREVER YOUNG / Jpn2 Nippon TV Hai // Funabashi /// 2025 //// Video by NAR, Photo by @s1_nihs (X)

坂井騎手は、元気いっぱいのフォーエバーヤングとゴール板前へ戻り、熱狂する観衆に応えた。右手の人差し指を空に掲げて愛馬をひと撫でし、右肘を曲げて鋭く右拳を突き上げ、もう一度馬を撫でた。スタンドからは「アメリカで勝ってこい!」の声が飛んだ。

フォーエバーヤングは鞍を外すために戻ってきても鋭い表情を崩さず、エネルギーに満ちあふれていた。4歳秋を迎えた鹿毛の馬体は、前回見た時よりも一段と力強さを増していた。

ダークスーツに赤いネクタイ、灰色がかったつば広帽をかぶった矢作師は、坂井騎手が鞍を外す様子を見ながら微笑んだ。その傍らには、馬主・藤田晋氏の家族、そして地方の舞台には珍しく姿を見せたノーザンファームの総帥・吉田勝己氏がいた。

「出国日はまだ決まっていませんが、もちろんブリーダーズカップクラシックに出走します」と矢作師は語った。

「今回の相手はおそらく世界最強馬で、世界最強馬決定戦になると思いますので、本当に心して仕上げたいなと思っています。相手は強いですが、この馬も本当に強いので、今日は本当にいいステップレースを踏めたと思うので、これからもっともっと仕上げていきます」

「体も大きくなり、筋肉量も増えましたし、もう一段パワーアップしたと思います。そうでないとあのメンバー相手には競馬できないと思います。パドックで見てお分かりだと思いますが、私もすごいなと思います」

矢作師は、カリフォルニアでは馬を絶対的なピークに持っていかなければならないことを理解している。昨年、リアルスティール産駒のこの馬がデルマーのBCクラシックで3着に敗れた時、壁に背を預け、頭を垂れたまま長い時間を過ごし、神妙な面持ちで記者に言葉を紡いでいた。

その時、フォーエバーヤングをできる限り最高の状態に仕上げたと感じていたので、敗戦は残念だったと語り、こう付け加えていた。「しかし、また戻ってきます。1着と2着の馬にリベンジしたい」

坂井騎手も「リベンジ」が長らく目標であったことを認める。「これで皆さんも、彼のアメリカでの走りを楽しみにできると思います。私たちの目標は常にブリーダーズカップクラシックの勝利でした」と語った。

さらに坂井騎手は、この日の勝利に安堵感を覚えたとも打ち明けた。ブリーダーズカップ遠征計画を維持するためには「絶対に落とせない一戦」であったからだ。

「(勝てて)ほっとしました。負けられなかったので。休み明けとしては申し分ない状態でしたし、次のアメリカに向けても、結果も内容も必要なレースだったと思いますし、いい内容だったと思います」

「久しぶりに砂を被る経験もさせたかったので、その分少しもたもたしたのですが、それでも慌てず乗っていました。イメージ的には4角先頭でどれだけ突き放すかというイメージだったんですが、イメージ通りでした」

フォーエバーヤングの戦績12戦9勝における唯一の “汚点” といえるかどうか疑わしいが、それは前走G1・ドバイワールドカップでの3着である。多くの人が勝利を期待していたが、矢作師はあの厳しいレースによる悪影響はないとみている。

実際、あの日は馬が終始スムーズに走ることができなかったにもかかわらず、チャンピオンらしく掲示板を確保していた。

「やっぱりスーパーホースですよ。全然後は堪えてなくて、当日はかなりパニックでしたが、あとは何も問題なくゆっくり休めて立ち上げも早かったですし、そこからなにも問題なく、いま気持ち悪いくらいここまで順調にきているので、ここからあと1か月が勝負ですので、気持ち悪いくらい順調にいってほしいです」と矢作師は語った。

船橋のファンが、日本を代表する名馬の走りを見届け、期待に応える姿に満足して帰路につくなか、矢作師はようやく肩の力を抜いた。

「帰ってビールを飲みます。何よりもレヴォントゥレットが2着に残ってくれたことが嬉しいです」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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フランク・チャン、Idol Horseのジャーナリスト。世界を旅する競馬ファンとして、アメリカ、カナダ、チリ、イギリス、フランス、ドバイ、オーストラリア、香港、そして日本の競馬場を訪れた経験を持っている。

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