2025 安田記念: G1プレビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 1600m
総賞金: 3億9060万0000円 (273万4078米ドル)
東京の春夏開催を締めくくるG1であり、例年ハイレベルなメンバーが集う一戦―それが安田記念だ。例年、香港の強豪マイラーたちを引き寄せるレースでもある。
ただし、今年は香港からの直接参戦はない。その代わり、香港勢との力関係を測る材料として、G1・ドバイターフを制したソウルラッシュと、昨年の香港マイルで凡走して以来となるジャンタルマンタルが出走する。
なお、日本の古馬マイルG1である安田記念とマイルチャンピオンシップの両方を制してターフを去った馬は、過去20年でダイワメジャー、モーリス、インディチャンプ、グランアレグリアの4頭のみ。両レースは同じマイル戦ながら、安田記念は左回りの東京競馬場、マイルチャンピオンシップは右回りの京都競馬場と舞台がまったく異なる。
この点だけを見ても、ソウルラッシュがその偉大な4頭に続く道のりが平坦ではないことがわかる。
レースの主役: ソウルラッシュ
昨年の安田記念勝ち馬であるロマンチックウォリアーを下してG1・ドバイターフを制したソウルラッシュ。その勝利は、国内復帰戦となる今回に向けても申し分ない実績と言えるだろう。
しかしながら、ドバイから帰国して安田記念に臨んだ馬の成績は、これまで決して芳しくないのも事実だ。
ドバイターフを勝った日本馬では、アーモンドアイが2019年の安田記念で不利を受けつつも3着に善戦。リアルスティールは2016年に11着と大敗している。
ドバイターフと安田記念を同一年で連勝したのはジャスタウェイただ一頭。だがその時も、東京ではメイダンで見せたような圧巻の走りはできなかった。道悪に苦しみ、大穴グランプリボスをゴール寸前でようやく交わすという辛勝だった。
近年では、ドバイターフで好走したナミュールやヴィンデガルドも、帰国後の安田記念では結果を残せていない。
今回ソウルラッシュが勝利すれば、日本競馬史上初めて『ドバイターフ & 安田記念 &マイルCS』の三冠を制したマイラーとなり、歴代屈指の名マイラーとして名を刻むことになる。

才能は一級品: ジャンタルマンタル
高野友和調教師が管理するジャンタルマンタルは、果たしてどんな走りを見せてくれるのか。
2023年の最優秀2歳牡馬に輝いたこの馬は、昨年5月のG1・NHKマイルカップを圧勝し、日本のマイル界を背負って立つ存在になるかと思われた。しかし、その後はわずか1戦、しかも昨年の香港マイルで13着と大敗して以来、約半年のブランクが空いている。
とはいえ、ベストパフォーマンスを発揮できれば能力は疑いようがない。その証左となるのが、NHKマイルCで打ち破った相手たちのその後だ。2着馬のアスコリピチェーノは、後にサウジアラビアのG2・1351ターフスプリントを、そして先月の東京のG1・ヴィクトリアマイルを連勝。ダノンマッキンリーはドバイのG1・アルクオーツスプリントでも善戦し、ボンドガールも昨年のG1・秋華賞で見せ場を作った。
また、直線で大きな不利を受けたとはいえ、香港マイルでジャンタルマンタルとわずか3馬身差だったオーストラリア馬のアンティノは、先月のG1・ドゥームベンカップとG2・ホリンダルステークスを圧勝。ジャンタルマンタルにとっては、着順以上に希望が持てる材料だ。
もしもジャンタルマンタルがさらに一段階上のギアを持っているのだとすれば……たとえ相手がソウルラッシュであっても、彼を止められる馬はいないかもしれない。

いざ海外へ: シックスペンス
興味深いことに、当初の想定オッズではソウルラッシュやジャンタルマンタルを抑えて、シックスペンスが一番人気になると見られていた。
実際に国枝栄厩舎の4歳馬が、ファン投票で1番人気としてゲートをくぐるかどうかは別としても、それだけこの馬に対する注目度が高いのは確かで、今年の安田記念の『主役候補』の一頭であることは間違いない。
3月のG2・中山記念では、シックスペンスが中山芝1800mのレコードを更新して勝利を収めた。その際、ソウルラッシュは3着に敗れている。
しかし続く4月のG1・大阪杯(芝2000m)では1番人気に支持されながらも精彩を欠き、敗戦を喫した。
今回、距離をマイルに戻すのは2歳時以来となる。
期待通りの走りを見せることができれば、8月にフランス・ドーヴィル競馬場で行われるG1・ジャックルマロワ賞への遠征が現実味を帯びてくる。すでにアスコリピチェーノやゴートゥファーストとともに登録済みだ。
期待の星: エコロヴァルツ
エコロヴァルツはこれまでのキャリアにおいて、常に誰かの陰に隠れる存在だった。2歳時はジャンタルマンタル、3歳時は特にアーバンシックを筆頭とする同世代のライバルたち、そして4歳になった今年はシックスペンスだ。
だが、そんな彼にとって今回の安田記念は、『自分こそが日本のトップホースの一頭である』と証明する絶好の舞台となるかもしれない。
3歳時には中距離路線にも挑戦したが、今ではマイルから2000mの間に適性があると見られている。今年3月の中山記念では、シックスペンスにハナ差の2着、ソウルラッシュには先着する走りを見せた。
そして4月の大阪杯では、勝ち馬ベルラジオオペラから1馬身差の4着。シックスペンスには先着している。
今回の出走により、シックスペンス同様、2歳時以来となるマイル戦への回帰となる。最後にこの距離を走ったのは朝日杯フューチュリティステークス(G1)で、その時はジャンタルマンタルに1馬身と少し差をつけられての2着だった。
調教師の牧浦充徳は、いまだJRA・G1初制覇を手にしていない。だが、わずか3週間前のヴィクトリアマイルでは、自らが手がけるシランケドで3着に入り、あと一歩のところまで迫っていた。
スピード自慢のスプリンター: マッドクール
マッドクールが最後に勝利したのは昨年3月のG1・高松宮記念。過去2年間での勝利はその一度きりであり、そろそろ距離延長を思い切るタイミングと言えそうだ。

実際、マイル戦に出走したのはキャリア最初のレース、2022年1月の中京で行われた新馬戦の一度きり。当時はゴールまでしっかりと伸びていたが、勝ったキタサンシュガーに差し切られた。これが距離短縮のきっかけとなったのかもしれない。
以降2年半にわたり、1200m戦を中心に使われてきたが、昨年12月のG2・阪神カップでは1400mに距離を延ばし、直線半ばまでは勝ち馬かと思わせるほどの脚を見せた。しかし最後に大外からナムラクレアに差されてしまった。
池添学厩舎の芦毛馬であるマッドクールに騎乗する坂井瑠星騎手は、タイミングを見極める必要がある。阪神カップのように早めに先頭に立ってしまうと、差し馬の餌食となるリスクが高い。だが、我慢の利く騎乗ができれば、思わぬ伏兵として台頭してくる可能性も十分にある。