ジョアン・モレイラ騎手が香港競馬に帰ってくる?
キャスパー・ファウンズ調教師が、厩舎所属の新たな騎手として、モレイラを短期免許で招聘するプランを披露。短期免許の期間は10月下旬から12月までを予定している。実現すれば、香港騎手の勢力図に大きな変化が起こりそうだ。
モレイラは香港時代に通算1200勝を超える勝利数を稼ぎ、騎手リーディングは4回獲得。ザック・パートン騎手とは熾烈なライバル関係で知られていた。12月の香港国際競走に向けたシーズンの重要期間に、2人のバトルが復活する可能性がある。
現在、短期免許の申請は香港ジョッキークラブ(HKJC)の承認待ちとなっているが、ファウンズ師は実現に期待を寄せている。すでに馬主たちからの支持も取り付けており、10月26日のシャティン開催から騎乗開始を描いている。
「彼はその実績が物語るようにスーパースターです。香港での実績は並外れていました」と、ファウンズはモレイラについて語る。
「モレイラとは今でも良好な関係です。『今後の予定は?』と尋ねてみたら、『この先は2ヶ月ほど予定が空いていますね』と返ってきたんです。『じゃあ、うちで乗ってみない?』と話を持ちかけてみたところ、『ぜひ喜んで』と返事をもらえたので、今回の話が実現しました」
モレイラはファウンズ厩舎とのタッグで100勝以上の勝利数を残しており、2021年の香港ダービーでは同厩舎のスカイダーシーで勝利を挙げている。
そして、今回の起用はレースでの腕前だけが目的ではない。調教での騎乗のほか、若手見習い騎手のエリス・ウォン騎手への指導といった、厩舎全体への波及効果を見込んでいるとファウンズは説明する。
「うちの厩舎に所属するエリスの師匠にもなってくれるはずです。エリスはどんどん成長しているので先生役が必要というわけではないですが、助言があればきっと彼自身の役に立つはずです」
香港競馬のシステムでは、調教師が新たな『所属騎手』を迎える場合、厩舎に所有馬を預けるオーナーの同意が必要となる。85%以上の馬主が賛同し、厩舎から毎月の契約料を支払うことで、晴れて厩舎所属の騎手として認められる。
なお、所属騎手を設けるメリットとして、厩舎は契約騎手を優先的に起用できる『優先騎乗権』を得ることができる。ただし、厩舎サイドから騎乗依頼を出さない場合は、騎手は契約外の厩舎にも自由に騎乗することができる。
ファウンズ師は、申請の承認が前提としつつ、短期免許の期間を延長する可能性にも含みを持たせている。HKJCが通年免許を発行する選択肢もあれば、モレイラが引き続き、母国のブラジルをベースに世界を転戦する道もあるという。
「どうなるかは今後次第ですが、HKJCがシーズン終了後にまたオファーを出す可能性はあります。そうでない場合も、選択肢は色々とあります」

モレイラが香港競馬を去った経験は、過去に2回存在する。最初は2018年7月、全盛期の真っ最中に香港を離れ、JRAの通年免許に挑戦する道を選んだ時だ。筆記試験で不合格となった後、モレイラは翌シーズン早々に香港へと戻り、長年の盟友であるジョン・サイズ調教師の厩舎所属騎手として復帰した。
2度目は2022/23年シーズンの開幕時だった。股関節の重度の怪我と心理的ストレスを理由に、母国へと帰国し、ブラジルに住む家族と再開する道を選んだ。
モレイラが香港を離れた時点で、パートンはすでにトップジョッキーとなっていたが、以後はライバル不在の環境で独走態勢がさらに加速。2022/23年シーズンには179勝を挙げ、モレイラのシーズン最多勝記録を更新している。
一方、香港を去って以降のモレイラは、主に母国のブラジルを拠点に活動。地元のクリチバを拠点とし、サンパウロを中心に騎乗を続けてきた。6月30日に終了した2024/25年シーズンは、ブラジルの年間最優秀騎手賞であるモソロー賞を獲得。史上最多となる5度目の受賞だった。
また、多血小板血漿(PRP)療法での治療を続けた結果、長年悩まされてきた股関節の痛みも和らぎ、日本やオーストラリアでも短期間の騎乗も実現している。
モレイラは現在、JRAの短期免許を取得して今週から日本で騎乗中。来日初週の2日間は阪神競馬場で騎乗し、いきなり計5勝をマーク。今回の来日期間は9月28日のG1・スプリンターズステークスまでを予定しており、同レースでは国内最強スプリンターのサトノレーヴに騎乗する。
「彼に乗ってもらえるのを楽しみにしています。香港競馬界にとっても素晴らしいニュースだと思います」とファウンズ師は話す。
「ファンやオーナーも彼のことを愛しています。ジョアンは香港が誇る天才の一人です。厩舎の一員として迎えられることを嬉しく思います」
HKJCの関係者は、現時点でファウンズ師からの正式な申請は受け取っていないとしつつ、同調教師がレーシング部門トップのアンドリュー・ハーディング氏に対し、モレイラを厩舎の所属騎手として申請する意向であることを伝えていると明らかにした。