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開幕直前の香港競馬 “25/26シーズン”、記者4人が選んだ「注目調教師」は?

躍進期待の調教師、崖っぷちの調教師、そしてチャンピオントレーナーは?Idol Horseの香港競馬エキスパートたちが、新シーズン注目の調教師を紹介する。

開幕直前の香港競馬 “25/26シーズン”、記者4人が選んだ「注目調教師」は?

躍進期待の調教師、崖っぷちの調教師、そしてチャンピオントレーナーは?Idol Horseの香港競馬エキスパートたちが、新シーズン注目の調教師を紹介する。

今シーズンのリーディング予想は?

マイケル・コックス:
ありきたりな答えかもしれませんが、安全策を取ってジョン・サイズ調教師の連覇に賭けたいと思います。サイズ師が最後に連覇したのは2018/19年シーズン、4連覇を達成した時以来です。

昨季は不振のシーズンから立て直し、24シーズン目にして通算13度目のタイトルを獲得しました。タイトル獲得の代償は翌シーズンに響くのが常ですが、サイズの安定感は際立っており、シャティンでの在任中に連覇を達成した唯一の調教師でもあります。

昨季の勝利数69勝は、2016/17年に開催数が88日間へ拡大されて以降のリーディング最小記録で、2015/16年に68勝でタイトルを獲得して以来の少ない勝利数でした。この時もその後3度のリーディングを重ねています。今季も再び上位争いを演じる可能性は十分に残されています。

デイヴィッド・モーガン:
ジョン・サイズ調教師の牙城を崩す可能性があるとすれば、2シーズン前に初めてリーディングを獲得し、昨季は50勝で4位に入ったフランシス・ルイ調教師でしょう。

彼は質の高い古馬を揃えており、その中には香港ダービー馬のキャップフェラ、パッキングハーモッド、パッキングエンジェルといった有力馬も含まれます。さらにPPG(未出走の輸入馬)を16頭抱えるなど、合計70頭の充実した布陣を擁しています。

Francis Lui wins Hong Kong trainers title
HKJC CHAIRMAN MICHAEL LEE, FRANCIS LUI / Sha Tin // 2024 /// Photo by HKJC

アンドリュー・ホーキンス:
トニー・クルーズ調教師が最後にリーディングを獲得したのは20年以上前ですが、依然として常に上位を争う存在です。

昨季は5位タイに終わりましたが、管理馬の出走数はデヴィッド・ヘイズ師を除けば最多でした。唯一の懸念は新戦力が少ない点ですが、既に勝てるレーティングにある馬、あるいは間もなく勝ち負けできる位置にいる馬を多く抱えています。序盤から勢いに乗れれば、シーズン中盤に再び勢いを取り戻し、タイトル争いに加わる可能性は十分にあります。

ジャック・ダウリング:
デヴィッド・ユースタス調教師は昨季、手がけた馬のほとんどが次々と結果を出す破竹の勢いを見せました。今季も厩舎の戦力を眺めれば、タイトル争いは決して夢物語ではありません。

8月26日時点で、管理馬数は71頭と全調教師の中でデヴィッド・ヘイズ厩舎(73頭)に次ぐ規模。さらに、将来性ある輸入馬、素質を隠し持つ若駒、PPG(未出走の輸入馬)、そして実績十分の重賞級と、理想的なバランスの戦力構成を備えています。

今シーズン、躍進が期待できそうな調教師は?

マイケル・コックス:
デヴィッド・ユースタス調教師が初年度を前向きに戦い抜いた姿勢は非常に好印象でした。2年目でいきなりリーディングを狙うのは難しいかもしれませんが、上位争いには食い込んでくると期待しています。

その理由はユースタス師の血統戦略にあります。彼は北半球・南半球を問わず、キャリアの浅い馬を積極的に導入しており、中にはマイナーな競馬場からの発掘例もあります。将来性ある素材を確保し、2024/25シーズンには無理に力を使い切らない慎重さも見せました。

ジャックが触れたように、ユースタス厩舎は戦力のバランスが理想的で、伸びしろも十分です。香港でまだ未出走の馬を27頭(PPG14頭、PP13頭)も隠し持っているという状況は、シーズン後半に大きな伸びしろをもたらすでしょう。

アンドリュー・ホーキンス:
ダグラス・ホワイト調教師は昨季、決して努力を怠ったわけではないのにも関わらず、目立った成績を残せないシーズンとなりました。

13度のリーディングジョッキーに輝いた名騎手として、香港の馬主たちに改めてその存在感を示す必要があるかもしれません。ただ、シャンワーをはじめとする有力輸入馬を抱えており、移籍馬をさらに数頭確保できれば、ランキングを大きく押し上げてくるはずです。

ジャック・ダウリング:
コディー・モー調教師は2024-25シーズンに40勝、勝率8.5%と堅実な成績を収めました。今季さらにステップアップしても不思議ではありません。

プレイフォーミルで初の重賞制覇を果たし、今季はマークウィンのような馬が厩舎の中心となる可能性もあります。PPGを17頭抱え、総勢68頭の戦力を手にしており、さらなる飛躍が期待されます。

デイヴィッド・モーガン:
ダニー・シャム調教師は昨季序盤、リーディング争いを演じる好スタートを切りましたが、2月以降に失速し、最終的には40勝で11位、ジョン・サイズ師との差は29勝となりました。

シーズン前半は251回の出走で29勝を挙げたのに対し、後半戦は259回で11勝に留まったのは明らかな失速ぶりでした。今季も同じように不振が続くとは考えにくく、立て直された厩舎がトップ5を狙える位置まで巻き返してくるはずです。

Danny Shum at Riyadh ahead of the 2025 Saudi Cup
DANNY SHUM / King Abdulaziz Racecourse, Riyadh // 2025 /// Photo by Shuhei Okada

今シーズン、プレッシャーが掛かる調教師は?

アンドリュー・ホーキンス:
ミー・ツイ調教師は昨シーズン、292戦して18勝にとどまり、厩舎の成績は引退瀬戸際のような下降線をたどっています。

管理馬数も30頭まで減っており、陣営の中に大きな上積みを期待できる要素はほとんどありません。現在64歳のベテラン調教師ですが、調教師を続けていくためには今季、大きなプレッシャーに直面していると言えるでしょう。

ジャック・ダウリング:
ジェイミー・リチャーズ調教師は昨シーズン、他の厩舎への移籍により22頭もの馬を失いました。

35歳の若手指揮官は、オリンピックステーブルからシャティン競馬場への厩舎移転を経て、新たな環境でのシーズン開幕に向けて好調なスタートを切りたいところです。最高レーティングの馬はレーティング77のヤングアチーヴァーで、この馬を筆頭に厩舎再建の起点としたいところです。

マイケル・コックス:
香港ジョッキークラブは近年、調教師の招聘で次々と成功を収めています。過去3シーズンでマーク・ニューナム師、ピエール・ン師、コディー・モー師、そしてデヴィッド・ユースタス師と、新顔の調教師たちがいずれも好発進を決めてきました。

そんな中で、ジェイミー・リチャーズ師の厩舎を継ぎ、オリンピックステーブルに入るブレット・クロフォード調教師にとって、この流れを引き継ぐのは容易ではありません。しかも来季にはジェームズ・カミングス調教師も加わり、血統面での強みを武器に即座に厚い支持を集めるのは必至でしょう。

新人調教師には一時的に注目が集まるとはいえ、クロフォード師に与えられる、存在感を示せる時間は限られています。

Brett Crawford celebrating a Durban July win with son James
BRETT CRAWFORD, JAMES CRAWFORD / Greyville // 2024 /// Photo by Chase Kaplan

デイヴィッド・モーガン:
リチャーズ師とクロフォード師が上述の理由で厳しい視線にさらされるのは間違いありませんが、ピエール・ン調教師もまた今季は大きなプレッシャーを感じていると見られます。

調教師デビューから目覚ましいスタートを切り、わずか2シーズン目でリーディングトレーナーにあと1勝と迫りました。しかし、3年目は期待を下回る成績に終わりました。もっとも、2023/24シーズンにほとんどの馬が力を出し尽くし、厩舎の新陳代謝が必要だったことを考えれば、多少の後退は想定内とも言えます。

ただし、香港は厳しい環境であり、多くの大物馬主が彼に馬を託している状況では、その一挙手一投足が監視されています。昨季に失望を招いたのは、ギャラクシーパッチのように大舞台で飛躍を期待された馬を一段上のレベルへと導けなかった点でしょう。今季の早い段階で重賞を勝つことができれば、ファンや馬主の間に芽生えかけている疑念を払拭できるはずです。

今シーズン、ぜひ見たい「見出し」は?

アンドリュー・ホーキンス:
“開催最終日、リーディングトレーナー争いは調教師3名の大激戦に”

香港競馬の “名場面” はビッグレース以外にも、シーズン終盤にリアルタイムで目撃されるタイトル争いの中にこそ生まれることがあります。

2013年、ハッピーバレーのシーズン最終レースでデニス・イップ調教師がチャンピオンを決めたあの瞬間を忘れられる人がいるでしょうか。騎手でも同じで、ダグラス・ホワイト騎手がブレット・プレブル騎手を追い詰めた例が思い出されます。少なくとも、長く過酷なシーズンの終盤で熱が冷めかける頃に、新たな話題を提供してくれます。

マイケル・コックス:
“地元調教師にも「留学制度」を導入、厩舎開業前に12ヶ月の研修機会”

ジェームズ・カミングス師は2026/27シーズンの香港デビューに備え、12ヶ月の準備期間が与えられています。しかし、なぜ地元調教師には同じ機会が与えられないのでしょうか。海外厩舎で研修を積むチャンスを与えれば、シャティン全体の厚みを増すことにつながるはずです。

デイヴィッド・モーガン:
「香港で女性調教師誕生、香港ジョッキークラブがライセンス付与」

女性調教師は世界各地で何十年もトップレベルで活躍してきたが、香港競馬では未だに女性が調教師になった機会はありません。

ジャック・ダウリング:
“デヴィッド・ユースタス師、「夢舞台」ロイヤルアスコットで勝利”

デヴィッド・ユースタス師の兄弟であるハリー調教師は、今年のG1・コモンウェルスカップをタイムフォーサンダルズで制しました。2勝目となったロイヤルアスコットでの勝利直後、父親のジェームズは息子たちに課題を突き付けました。

ITVの競馬中継カメラに向かって、ハリーには「メルボルンカップ制覇に挑まなければならない」と語り、デヴィッドには「香港からロイヤルアスコットの勝ち馬を出した叔父に続いて欲しい」と告げたんです。デヴィッドの叔父、デヴィッド・オートン調教師は2005年、ケープオブグッドホープで栄冠を手にしました。

家族の伝統を受け継いで約束の地に帰ってくる姿が見られたなら、実に素晴らしいストーリーになるはずです。

Racing Roundtable, Idol Horse

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