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ダニー・シャム調教師(チャップシン・シャム調教師)にとって、ロマンチックウォリアーを調教することは、ただの仕事以上のものだ。情熱以上と言うべきだろうか。彼の人生そのものなのだ。

私は2005年から2006年の間、ダニーの厩舎で所属騎手として活動していた。なので、彼のことをよく知っている。当時から仕事中毒で、それは今も変わらない。朝は厩舎に一番乗りで、帰るのは最後。いつも質問をして、決して満足しない。

彼は、香港競馬を代表する調教師、イヴァン・アラン師とジョン・ムーア師の弟子だったが、ダニーは師匠のやり方を真似するだけで満足することはなかった。どうしてそうなるのか、なぜうまくいくのか、根本を理解したかったのだ。

その好奇心と、強迫観念的なほどの仕事ぶり、そして大きな勇気が組み合わさった結果が、約20年後の今、ロマンチックウォリアーとして私たちが目にしているものだ。

私が最も感心するのは、ダニーがこの馬を、まったく異なる条件下でも、何度も何回でも、最高峰のレースで走れるように仕上げてきた、その準備力だ。

トップクラスの2000m戦で、馬を休み明け初戦から勝たせるのは簡単ではない。3週間後、もう一度それをやらせ、さらにピークを作るとなると、まったく別次元の話になる。

多くの馬はフレッシュな状態、休み明け初戦に良い走りができる。だがその初戦で、無理をしてやり過ぎてしまい、ダメージが残ることがある。2戦目では、しばしばその反動が出る。よくある話だ。休み明けで強烈な走りを見せても、そのパフォーマンスを繰り返せない。

ダニーはロマンチックウォリアーを完璧に仕上げ、休み明けの走りを繰り返せるように整えた。香港でもオーストラリアでも、2000m戦でそれができるようにするのは並大抵のことではない。卓越した調教力の賜物であるが、これは意外と評価されていないことが多い。

ロマンチックウォリアーはサウジカップを勝てる馬だった。勝ってもおかしくない馬だと、誰もが知っている。だが負けたことで、その評価が落ちたわけではない。むしろそれは、調教師としてのダニーの勇気を示した。世界最強のダート馬、フォーエバーヤングに再挑戦し、リベンジする覚悟がある。

それだけで、ダニー・シャムがどんな男なのかが分かる。

彼にとって、馬が常に最優先だ。結果には深くこだわるが、馬を犠牲にしてまでということは決してない。私が彼の厩舎で乗っていた頃、調教師が望んでいたのは、とにかく改善して、もっと良い結果を追い求めることだけだった。

今もその考え方は変わっていない。結果が、その野心に追いついてきただけだ。

Danny Shum celebrating Romantic Warrior's fourth consecutive G1 Hong Kong Cup win
DANNY SHUM / G1 Hong Kong Cup // Sha Tin /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

日曜日の香港カップは、ロマンチックウォリアーの4連覇で幕を下ろした。この4年間、どの勝利も、求められるものが違った。異なる準備。異なるプレッシャー。異なる期待。今回は脚の手術からリハビリを経て復帰し、7か月ぶりの復帰戦からの2戦目で臨んだ。

その道のりを見てほしい。ダニーは2023年、コックスプレートが目標のオーストラリア遠征を決行した。ロマンチックウォリアーは遠征初戦、休み明けのG1・ターンブルステークスで敗れ、人々は「大した馬じゃない」と言った。今思えば、見る目の無い話しだ。

ロマンチックウォリアーは、ベストではない状態でコックスプレートを勝った。仕上げの難しさ、それは誰もが覚悟していたが、それでもダニーは表彰台の頂点に彼を導いた。

その後、香港へ戻し、また休み明けで最高レベルのレースに走れるように整えた。ターンブルステークスの4着以降、ロマンチックウォリアーは11戦9勝。たった2回の敗戦も、サウジアラビアでフォーエバーヤングに負けたことと、ドバイでソウルラッシュにハナ差で敗れたことだけだ。

ダニーは逃げることを知らない。楽な道も選べるだろう。地元に留まり、香港国内で高額賞金のレースを勝ち続ければいい。それでも彼は海外へ行く。オーストラリア、日本、ドバイ。芝でもダートでも走らせ、しかも世界最強のダート馬を相手にしてもだ。

そして今、もう一度勝負を挑みに行こうとしている。

ロマンチックウォリアーに次のサウジカップも勝てないと言える理由はあるのか。ジェームズ・マクドナルド騎手はあのコースの特徴を掴んだ。馬自身もそこで経験を得た。両者とも、あの敗北を糧に、さらなる上積みを期待できるはずだ。

ダニー・シャムという調教師がロマンチックウォリアーで成し遂げたことは並外れている。そして、この物語は終わりを迎えたのだろうか。いや、まだエンディングではない。

香港国際競走:「馬場」の影響は?

香港国際競走の馬場について、特に内側がどれだけ悪かったか、随分と話題になっている。

私は馬場に散水しすぎたのではないかと思う。仮柵は外されていた。早い段階で分かった。勝てそうに見えた馬が、内ラチ沿いにいるだけで影も形もなく負けていった。何かおかしくないと、そんなことは起きない。

最初のレースから傾向は明らかだった。現地へ行く前の私の予想は固まっていたが、レース1が終わった後は、馬場の傾向のせいで、まったく別のものになった。ラチ沿いで完璧な形に見えた馬が、いきなり3、4馬身も失った。優位性が消えたのだ。

9レースのスターライズは負けないと思っていた。3レースのマジェスティックヴァローも堅いと思っていた。どちらも内を通り、どちらも大きく負けた。私に言わせれば、この2頭があそこまで後ろで終わるのはあり得ない。馬場のせいだと考えるしかなかった。

香港マイルでは、馬場の傾向を見た時点で、マイウィッシュは苦しくなると分かっていた。2番枠を引いたあと、私は本命にしていた。だが仮柵が外されているのを見た瞬間、その優位性は一気に3馬身ほどは失った。

2番枠を引き、ラチ沿いの3番手を追走するという利点が消えたのだ。もっとも、結局のところそれは関係なかった。どのみち勝っていなかっただろうし、今回は単純に走りが足りなかった。

騎手たちは対応を迫られた。ラチから離れる。良い馬場へ出す。位置を譲ることになっても、そうしなければならない。

すぐに分かった騎手もいれば、イン側にチャレンジして代償を払った騎手もいた。だが、それでも一日を通じて素晴らしいレースが続いたことに変わりはない。最強馬が順当に勝ち、4つのG1レースはすべて人気馬が勝った。

トップホースが勝った理由、馬場の恩恵ではなく、彼らが強かったからだ。

それが競馬だ。馬場は変わる。ならば、こちらが合わせる。そして本当に大事な場面では、結局は馬の格がものを言う。

ファストネットワークはケープオブグッドホープ二世になるかもしれない

ファストネットワークは確かに良い馬だ。カーインライジングにぶつからないレースなら、どこかでG1を勝てる馬かもしれない。

今年の香港スプリントで、ファストネットワークはカーインライジングの3着だったが、それは何も悪い結果ではない。彼はとても良い馬だ。ただ問題は、史上最強かもしれないスプリンターが同時期に走っていることだ。

Fast Network ran third behind Ka Ying Rising in the G1 Hong Kong Sprint
KA YING RISING, FAST NETWORK / G1 Hong Kong Sprint // Sha Tin /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

もし、デニス・イップ調教師がファストネットワークをドバイへと遠征させる決断をするなら、それは非常に賢い一手になり得る。もちろん、順調に行って遠征先でも実力を発揮できることが条件だが。

私が思い出すのは、ケープオブグッドホープとサイレントウィットネスの関係性だ。ケープオブグッドホープもサイレントウィットネスには勝てなかった。そこで陣営は、毎回のように2、3着の賞金を拾うだけではなく、海外を転戦させた。

オーストラリアでG1レースを勝ち、イギリスでもG1を勝った。そしてそれによって、サイレントウィットネスがどれほど強い馬だったかを、世界中の誰もが理解した。

ファストネットワークも、カーインライジングに対して同じ役割を果たせるかもしれない。彼の実力に疑いはない。遠征できるなら、彼自身の質を示せるし、香港のホームでどれほどハードルが高いかを浮き彫りにするだろう。

真のチャンピオンがいると、そういうことが起きる。とても良い馬たちが、どうしても越えられない存在に何度もぶつかる。そしてその良い馬たちが外へ出て世界の他の馬を倒した時、誰もが彼らが何と戦ってきたのかを思い知るのだ。

フラヴィアン・プラはHKJCも「捕捉済み」

先週のコラムで、私は香港で最も見てみたい騎手として、アメリカのフラヴィアン・プラ騎手の名前を挙げた。

日曜日にシャティンでレースを見ている間、香港ジョッキークラブ(HKJC)の関係者から、フラヴィアン・プラ騎手にはこれまで何度も短期免許を打診しているが、現時点では断られて実現していないと聞かされた。

いつか香港で彼を見ることができる日を願うしかない。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

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