良血馬は必然的に大きな期待を集めるものだが、その期待に応えられることは稀であり、ましてやそれを超えることはほとんどない。しかし、名牝の血を受け継ぐアランカールは、将来大きな舞台へと進む可能性を秘めている。
母にオークス馬のシンハライトを持つ良血牝馬、アランカールが土曜日の野路菊ステークスを鮮烈な豪脚で勝利。デビュー戦に続いて2勝目を挙げ、クラシック路線に名乗りを上げた。
これまでエリキング、ワグネリアンなどが制し、活躍馬の登竜門となっていたリステッド・野路菊ステークスだが、今年は1600mに距離を短縮しての開催。同レースが阪神のマイルで行われるのは2005年以来、長年JRAを観ているファンにとっては、新鮮な感覚を抱くレースとなった。
後のクラシック二冠馬・メイショウサムソンが制した前回の阪神マイル開催から20年後、1.8倍の1番人気で同レースに臨んだのがアランカールだった。父はエピファネイア、母は2016年のオークス馬という良血牝馬のアランカールは、2ヶ月前の新馬戦を快勝し、注目と期待を集めての2戦目に臨んだ。
アランカールはゲートを出ると、いきなり2馬身ほど馬群から遅れ、道中は6馬身近くも離れた最後方を追走。しかし、6頭立てのレースが進むに連れて進出を開始し、直線入口で北村友一騎手がゴーサインを出すと、大外から力強く伸びた。残り200m地点で逃げるコントレイル産駒のスウィッチインラヴを捉えると、最後は3馬身半突き放し、圧勝と呼ぶにふさわしい強さを見せつけた。
鞍上の北村友一は「瞬発力や反応の良さは新馬戦の頃より良くなっていた」と称賛。「すごく良い反応で、強い勝ち方でした。今日は冷静に走れたので、次もこのような走りができれば」と語った。
アランカールのラスト3ハロンの上がりは33.3秒をマークし、2位の34.5秒よりも1秒以上速いタイムを記録。勝ちタイムも1:33.5と優秀で、昨年12月にジャンタルマンタルが制した2歳G1、朝日杯FS(1分33秒8)を上回る走破時計での勝利となった。
時は遡り7月、アランカールは福島での新馬戦を4馬身差で制している。この時も上がり3ハロンは36.4秒と、2番手より0.7秒速い末脚を繰り出していた。新馬戦は随所で口向きの悪さを見せ、課題を残しての勝利だったが、今回の野路菊Sではスムーズな競馬を披露。斉藤崇史調教師も「うまく競馬ができた」と安堵の表情を見せた。
同馬を所有するキャロットファームは長年、自社を代表する名門牝系の活躍に支えられてきた。アランカールの祖母、シンハリーズもその一頭だ。この系統からは、アダムスピークやリラヴァティといった活躍馬がキャロットファームの勝負服で重賞を制しており、母のシンハライトも娘と同じ勝負服でターフを駆け抜けた。
もし来年、アランカールがシンハライトに続いてオークスを制覇すれば、1996年のエアグルーヴ(母ダイナカール)以来となるオークス親子制覇が実現する。さらに、祖母のシンハリーズは現役時代にアメリカのG1・デルマーオークスを制しているため、国境を越えた『三代オークス制覇』という、珍しい記録が達成される可能性も秘めている。
また、父のエピファネイアは、2020年のオークスを制し、同年の三冠牝馬となったデアリングタクトを輩出した実績もある。アランカーは血統面でも距離不安は少なく、クラシックシーズンに本領を発揮するタイプだろう。
はたして、アランカールは母と同じようにオークスへの道を歩むのか。その命運は、クロノジェネシスやクロワデュノールをG1馬へと導いた、斉藤崇史調教師と北村友一騎手のコンビに託されている。
今後の展望: 現時点での最優秀2歳牝馬の最有力候補