特別な一頭がどれほど大きな力を持ち、香港での騎手人生をどう変え得るのか。デレク・リョン騎手は、長年の経験からそのことを熟知している。
彼は若くしてベテランの域に達した騎手だ。まだ38歳ながら、香港での通算538勝は歴代14位に当たる。オリビエ・ドゥルーズ元騎手の記録まであと33勝。フェリックス・コーツィー、ジェラルド・モッセ、バジル・マーカスも射程圏内におり、エリック・サンマルタン、ロビー・フラッド、シェーン・ダイの勝利数はすでに上回っている。
G1初制覇は、ビューティージェネレーションと臨んだ2017年の香港マイルだった。同馬とのコンビは、軽斤量での騎乗機会から始まった。
そして、リョンはそのチャンスをしっかりとつかんだ。1400mのG3で逃げて主導権を握るという戦術転換が、ビューティージェネレーションの並外れた力を引き出した。それまでは中長距離向きの馬と見られており、シャティンの2200mのコースレコードを今も保持している。マイル戦では、誰にも止められない存在になった。
そのシーズンの後半、手綱はザック・パートン騎手に渡った。それでもリョンは過去を清算している。ただ、シーズンの大舞台へ自分を連れていってくれる次の一頭を見つけたいという、強い思いがあるだけだ。
ナンバーズは、その一頭になるかもしれない。高額で購入されて香港に移籍した同馬は、2026年の香港ダービーで2着に入り、G1・チャンピオンズ&チャターカップでもロマンチックウォリアーの2着に続いた。このステイヤーは、12月13日の香港ヴァーズか香港カップを目指し、11月8日(日)のG3・レディースパース(1800m)で始動する。
リョンにとって、ナンバーズが特別な理由は、香港入りの当初から関わってきた馬だからだ。
フランキー・ロー調教師のもとに移籍して間もない2025年10月、香港移籍後最初のバリアトライアルに騎乗し、以来、同馬に注目し続けてきた。香港ではここまで7戦して2勝を挙げている。2月には、レディースパースと同じコース、距離で行われるG3・センテナリーヴァーズを制している。
38歳になった今も、リョンは調教師たちに、なぜこうしたのか、なぜああしたのかと尋ねずにはいられない。いつも好奇心を持ち、謙虚に、問い続ける。その関心は馬そのものにも向いている。一頭の競走馬がどう育てられ、初めてのバリアトライアルからG1へとたどり着くのか。興味は騎乗の枠を越え、調教師の仕事にも広がり始めている。
「もちろん、馬が大好きなんです」とリョンは言う。
その謙虚さは、若い頃から培われてきた。「驕らず、いつも謙虚に」とリョンは話す。ニュージーランドのマタマタで、ランス・オサリバン調教師とアンドリュー・スコット調教師のもとで修業した、寒い朝の日々に学んだことだ。
その後はシャティンに渡り、ランス師の兄、ポール・オサリバン調教師のもとで見習い修業を続け、香港競馬での騎手人生を歩み始めた。
今は、熾烈なリーディング争いに集中している。目指すのはインターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ(IJC)への出場と、地元出身騎手の最多勝者に贈られるトニー・クルーズ賞の3度目の受賞だ。同賞は2016/2017年、2017/2018年シーズンに連続で受賞している。
シーズン序盤の順位にも、地元騎手同士の競争の厳しさが表れている。今週を迎えた時点では、9度の香港リーディングに輝いたパートンに続く2〜5位を香港出身の騎手が占め、上位8人のうち5人が香港ジョッキークラブ(HKJC)の騎手学校出身者だった。この5人で、シーズン最初の147レースのうち61勝を挙げており、全体の4割を少し上回る。
水曜夜のシャティン開催では、全9レースのうち8レースで地元出身騎手が勝ち、その躍進がいっそう鮮明になった。リョンもその一人で、今季の勝利数を11、香港での通算勝利数を538に伸ばした。
10ポンド減の見習い騎手としてジョッキールームに足を踏み入れた2008年とは、隔世の感がある。当時はダグラス・ホワイト騎手、ブレット・プレブル騎手、ダレン・ビードマン騎手、クリストフ・スミヨン騎手といった名手が顔をそろえていた。
当時、有力馬の騎乗依頼は外国人騎手に集まりがちで、地元勢は残された機会でやりくりするしかなかった。リョンによれば、それから最も大きく変わったのは、地元騎手に寄せられるサポートと信頼だという。
「今は以前よりもサポートしてもらえます。私たちもきちんと仕事を果たし、良い結果を出せますから、みんなが満足できるんです」とリョンは話す。
こうした意識の変化の背景には、シャティンから香港と中国本土の境界を越え、車で3〜4時間かけて通う従化の存在もあるとリョンは考えている。広州近郊にあるHKJCの従化トレーニングセンターでは、バリアトライアルの組数が、実施初年度の2018/2019年シーズンの132組から、今では1シーズン400組以上に増えている。
騎手たちは夜明け前に出発して従化へ向かうが、バリアトライアルへの騎乗報酬は支払われない。Idol Horseは2025年7月の記事で、騎手側が仕事量への懸念を訴えたことを受け、クラブが従化でのバリアトライアル開催日数の削減には同意したものの、騎乗報酬を支払う案は退けたと報じた。
同じ記事では、有力な外国人騎手には移動回数を抑えられるだけのサポートがある一方、まだ足場を築こうとしている騎手たちは、騎乗機会を得るために通い続けている実情も伝えている。
そうした騎手たちにとって、早朝の騎乗は将来への投資だ。「従化トレセンでのバリアトライアルへの騎乗を断れば、調教師の機嫌を損ね、結局、その調教師の馬に乗る機会を失うかもしれません」と、ある騎手はIdol Horseに話した。
リョンは、従化通いを前向きに捉えている。「従化トレセンは私たちの助けになっていると思います。進んであそこまで行き、バリアトライアルに乗れば、サポートという形で報われます」。2024/2025年シーズンには、その考えを実践した。前シーズンは2回だった従化への訪問を31回に増やし、勝利数も25から36に伸びた。
トップ騎手の離脱も、機会を広げている。昨季パートンに次ぐ2位だったヒュー・ボウマン騎手は、手術が必要な股関節の不調により、開幕開催以来、戦列を離れている。かつてボウマンに回っていた騎乗依頼を、ほかの騎手たちが手にする機会が生まれているのだ。
インターナショナルジョッキーズチャンピオンシップの存在も、良い方向へ変わったとリョンは言う。かつては多くの厩舎が有力馬を出さず、まだ仕上がっていない馬を登録していたため、地元騎手には、出走馬の中でもレーティングが低い軽斤量の馬が回ってくることが多かった。
その後、ルールが改められ、条件はより公平になった。各騎手がより対等な条件で4レースに騎乗でき、出走馬の質も上がり、賞金が増え、調教師へのボーナスも設けられている。
出場メンバーが出そろうのは、11月25日の開催終了後のリーディング順位が確定してからだ。リョンは、その一枠をつかみたい。これは、地元出身騎手たちがシーズン序盤から躍進していることの裏返しでもある。活躍する仲間が増えるほど、出場権を得るのは難しくなる。
その枠を巡る地元騎手同士の争いは「まさに戦争です」とリョンは表現する。
「良いことですし、健全な競争です」