ライアン・ムーア騎手は、その日の仕事を終えていた。2勝を挙げたこの日、午後を通して身にまとっていた緑と白の勝負服は、アスコット競馬場の騎手控室に置いてきた。その活躍で大会の最優秀騎手に贈られるシルバーサドルを手にし、イギリス・アイルランド選抜にも総合優勝をもたらした。
今は青いスーツ姿で、バッグを肩に掛け、水のボトルを小脇に抱え、夏のフルーツが入ったカップを手に、アスコットのパドックから階段を上り、競馬場の鉄製の門へ向かっている。その先にはハイストリートがあり、さらに向こうに停めた車に乗れば、家族のもとへ帰ることができる。
「前回シャーガーカップに出た時は、ここから父の50歳の誕生日祝いに向かいました。それが今では、父も70歳です」と、ムーアはIdol Horseの取材に話した。
調教師のゲイリー・ムーア氏は、今年のシャーガーカップ前日にあたる金曜日に70歳を迎えた。20年前の2006年、同じ土曜日に父が50歳になった時、現在では最も名を知られる息子も、当時は22歳だった。大きな期待を集める若き天才であり、ノットナウケイトに騎乗してヨーク競馬場のG1・英インターナショナルステークスで自身初のG1タイトルを手にする、わずか数週間前のことだった。
それから多くのことがあった。現在42歳のムーアは、史上最高の騎手の一人として世界中に知られ、世界各地の大レースを数え切れないほど制している。
今回のシャーガーカップで手にした栄誉は、ムーアの輝かしい実績の中では、ささやかなものに映る。それでも、20年間この大会から離れていたムーアは、成長途上の若手騎手にとって、こうした舞台がどれほど重要になり得るかを理解している。自身も若手時代、遠く海外で行われた騎手対抗戦への参加が成長の助けになったからだ。
「若い頃、香港や日本の騎手対抗戦で、世界各地から集まったさまざまな騎手と一緒に乗れたのは素晴らしいことでした。若手だった自分にとって、とても貴重な経験でした」
香港ジョッキークラブ(HKJC)が期待する効果の一つも、まさにそこにある。
今年のシャーガーカップは第25回の節目を迎えたが、新時代の幕開けも感じさせた。HKJCが、世界各地の馬券売上を合算するWorld Pool(ワールドプール)の対象にシャーガーカップを加えたのは今回が初めてであり、香港競馬から単独のチームが結成されたのも初めてだった。
HKJCにとってチーム香港の狙いは、才能ある若手騎手たちに、毎週のように騎乗するシャティンやハッピーバレーを離れ、慣れない環境の大舞台で世界のトップ騎手と競いながら、騎乗技術を磨いてもらうことにあった。
ジェリー・チャウ騎手とルーク・フェラリス騎手の若手二人を率いたのは、経験豊富な先輩騎手で、主将を務めるヴィンセント・ホー騎手だ。3人は慣れ親しんだ環境を飛び出し、ムーアをはじめ、武豊騎手やクリストフ・ルメール騎手といった名手を含むライバルに挑んだ。
もちろん、香港では12月にハッピーバレー競馬場でインターナショナル・ジョッキーズ・チャンピオンシップ(IJC)が行われる。しかし、若き日のムーアが見知らぬ舞台へ赴いて成長したように、チャウとフェラリスも、アスコット初騎乗の経験から多くを学べるはずだ。
「これは人材育成の重要な一環です。World Poolやアスコット競馬場との提携も目的ですが、香港で育った騎手たちの成長を披露し、さらなる飛躍を後押しする舞台としても、非常に大きな意味があります」
HKJCで競馬事業責任者を務めるグレッグ・カーペンター氏はレース開始前、Idol Horseの取材にこのように語った。


香港勢にとって、今大会はこれ以上ない滑り出しとなった。チャウは開幕戦となる1000mのシャーガーカップ・ダッシュをトゥコサラマンカで制し、ホーが2着に続いた。第2戦では、フェラリスがダンシングインパリスで絶妙なタイミングから仕掛け、3200mのステイヤーズを制した。
「若手騎手がアスコットのような競馬場で騎乗し、そこで学ぶことは、極めて重要です」と、フェラリスの父で元香港調教師のデヴィッド・フェラリス氏は、ステイヤーズ勝利後にIdol Horseの取材に答えた。
「つまり、香港競馬そのものが学びの場なのです。そこで学ぶ最も大切なことはペース、すなわちペース判断です。各区間のラップを読み取ることが、レースの勝敗を分けます。香港で若手騎手たちが身につけるのが、そのペース判断です。極めて重要なことなのです」
香港で行われる最長距離の競走は2400mで、該当するのはわずか3競走。ルークは、それをはるかに上回る距離で完璧なペース判断を見せた。ルークによれば、これほど長い距離のレースに騎乗するのは「約7年ぶり」だったという。この勝利で『ライド・オブ・ザ・デー賞』を受賞した。
「今日は、先行馬の後ろでじっと構え、適切なタイミングで流れに乗った見事な騎乗でした」と、父のデヴィッド氏は評価した。「ルークは仕掛けを急ぎませんでした。早く仕掛ければ、馬はそこで終わってしまいます。できる限り仕掛けを待つ。実に見事でした」
「それは何度も言い聞かせました。早く仕掛けるな、と。ジェリー・チャウにとっても、これは非常に大きな経験になります。彼は驚くほど成長しました」
この日のチーム香港を象徴する存在は、まさにチャウだった。地元香港で好成績を残してきた生え抜きの若手が、欧州の舞台に足を踏み入れた。フェラリスと同じく、アスコットでの初騎乗を勝利で飾ったことを「夢のような」結果と表現した。
「このコースで坂を上り下りしながら騎乗するのは、本当に気持ちがいいです。香港とはまったく違う経験で、こうした経験を積むことが大切です」と、チャウは振り返った。
これまでWorld Poolは、国際競馬統括機関連盟(IFHA)による『世界のトップ100G1競走』ランキングを軸に展開されてきた。それだけに、シャーガーカップを対象に加えることは、新たな領域への一歩だった。
「世界のトップ100G1競走を引き続き重視しながら、提供するイベントの幅を広げています」と、カーペンター氏は説明する。
「さらに拡大できる機会もあります。アスコットはWorld Pool発足時からのパートナーで、今年はシャーガーカップの第25回開催という節目でもあります。さらに、World Poolを通じて提供できる競走数と開催日数について、香港政府から枠の拡大を認められました」
「今日のシャーガーカップを通じて、信頼するパートナーとともにトップ100以外にも関心を広げられる機会があることを示したいと考えています」
World Poolは先頃、グッドウッド開催の対象日を1日追加した。今後行われるヨークのイボアフェスティバルでも、対象日を1日増やす予定だ。
「私たちは可能性を探っていますし、提供する競走数と開催日数を拡大する余地もあります」と、カーペンター氏は続けた。「特にこの時期は、皆さんもご存じの通り、香港では競馬が行われていませんから」
アスコットにとって、World Poolの対象となることは大幅な増収につながる。一方、チーム香港の参戦は、大会に新たな魅力を加えた。アスコット競馬場でレース運営と広報を統括するニック・スミス氏によれば、これは同競馬場が大会に向き合う姿勢にも合致しているという。
「この大会は、新鮮さを保つために常に進化していく必要があります」と、スミス氏は述べた。「チーム編成を変えることも、その一環です。以前は女性だけのチームがありましたが、女性騎手の認知向上という役割はある程度果たされ、その形も役目を終えました。面白いことに、女性チームがなくなった今の方が、今日は普段より多くの女性が騎乗しています」
その女性騎手のうち、ノルウェーのフリーダ・ヴァッレ・スカル騎手と、イギリス・アイルランド選抜の主将、サフィー・オズボーン騎手が勝利を挙げた。


一方、カーペンター氏は、World PoolとHKJCの関与によって、2月にサウジアラビアで行われる大会、8月末に日本で行われるワールドオールスタージョッキーズ、12月のHKJC主催で行われるIJCといった、世界の主要な騎手対抗戦が連携する可能性について、「興味深い構想」と評した。
「騎手対抗戦同士を何らかの形で結びつけられれば、ファンの関心を高める機会になるかもしれません。まさに競馬界が取り組むべきことです」
しかしスミス氏は、トップ騎手には専属契約や騎乗予定があるため、騎手対抗戦同士の連携について「実現は極めて難しい」とみている。
「ライアン・ムーアに6つの騎手対抗戦へ出てもらうのは、ほぼ不可能です」と、スミス氏は指摘する。「以前にもこの案は持ち上がりましたが、トップ騎手には常に本拠地での騎乗予定があるため、実現に向けて話を進められませんでした」
ムーアが長い空白を経て今回出場できたのは、アイルランドのカラ競馬場が、G1・フェニックスステークスの開催日を日曜日へ変更したからにほかならない。同競馬場の幹部は、World Poolの主要パートナーであるアスコット、ヨーク、グッドウッド、レパーズタウン各競馬場の関係者と緊密に連携している。
カーペンター氏によれば、その日程変更をめぐり、カラ側との「話し合いは一切なかった」という。
幸運な偶然だった。しかし、そのおかげで約2万1000人の観客は名手の技を目にし、香港の若手騎手たちは、ムーアのホームで本人に挑むことができた。
この日の経験は、ルーク・フェラリスの大きな期待に「十二分に応える」ものとなった。本人は自身の勝利を、忘れられない一日の「最高の締めくくり」と表現した。
「成長途上の若手騎手にとって、新しい経験はすべて糧になります。アスコットでこのような経験ができるのは素晴らしいことです」と、フェラリスは付け加えた。
チーム香港は大会で2位にとどまったとはいえ、HKJCにとっても、有望な若手騎手を世界へアピールするうえでも、実質的にはあらゆる面で勝利といえる一日だった。