カーインライジングが、日曜のG1・チェアマンズスプリントプライズを前に、シャティン競馬場のパドックへと姿を現した。入場順は3番目。ほかの馬がカーインライジングの前に出られるのは、もはやパドックの入場順くらいだ。
18世紀後半から語り継がれる古い格言に、『エクリプスが1着、並ぶものなし』というものがある。今となっては、カーインライジングこそがその言葉を我が物としつつある。
勝利を重ねるその確かさで、カーインライジングはずいぶん前からシャティンのファンの心をつかんでいた。香港の競馬ファンは手厳しいこともあるが、一度心をつかまれると、声援で後押しし、馬券でもその支持を示す。
案の定、このスプリントG1へ向けてザック・パートン騎手が跨ると、パドック脇で待ち構えるファンは歓声を上げた。返し馬で馬場へ出ると、ラチ沿いのファンが旗を振って声援を送り、大型ビジョンのオッズは期待の大きさを物語っていた。
カーインライジングの単勝オッズは、またしても1.0倍。日本の短距離界を代表するG1・2勝馬、ロイヤルアスコット開催で2着の実績もあるサトノレーヴが2番人気だったが、そのオッズは大きく離れた84倍で、最終的には90倍まで上がっていった。
単勝プールには計9700万香港ドル(約19.7億円)が投じられ、そのうち9400万香港ドル(約19.1億円)がカーインライジングに集中。香港ジョッキークラブ(HKJC)は、ファンの馬券が賭けるに値するものとなるよう、同馬の単勝払戻を再び最低水準の1.05ドルに調整した。
競馬とは本質的に、どの馬が最も強いのかを証明するスポーツだ。議論があり、意見が分かれ、その見解に馬券という形で資金が投じられ、そして証明されるか、否定される。そのすべてが、この競技を動かす核心にある。
現代にも、フランケルが一番で、ほかは忘れていいと言う人々がいる。無敗の欧州王者が残した成績と、2010年代前半に1400mから2000mで見せた信じがたいパフォーマンスを重ねれば、その主張には確かな説得力がある。
出走数こそ少なかったフライトラインにも支持者はいる。ディープインパクト、ウィンクス、ブラックキャビアにも、それぞれ同じように支持する声がある。
短距離馬は概して、マイルから2400m前後までのいわゆるクラシックディスタンスを走る馬に比べ、評価が低く見られがちだ。しかし、カーインライジングは違う。議論はもはや『最強スプリンター』という枠を越えた。越えるべき段階に来ている。
「歴代の名馬の一頭だと思います」
カーインライジングがまたしてもコースレコードを更新し、楽に流しながら20連勝を達成した後、デヴィッド・ヘイズ調教師はそう語った。鞍上を務めたパートン騎手の手は、ほとんど動いていなかった。
「かなり前から、自分が管理した中で一番の馬かもしれないとは思っていました。1年ほど前には、間違いなく自分が管理した中で最高の馬だと確信しました。そして今は、自分がこれまで見てきたあらゆる馬の中でも、最高の一頭だと思っています」
カーインライジングがシャティン1200mで刻んだ時計は1分7秒10。これもまたコースレコードだった。しかも持ったままで、日本の短距離王者サトノレーヴに4馬身以上の差をつけた。現実離れしたものが、また現実になった。
「いま、私たちは本当に特別な瞬間の真っただ中にいます」
パートン騎手は帰路につくため競馬場を後にしながら、Idol Horseの取材にそう語る。スーツ姿で、片手で騎乗道具の入ったバッグを引き、もう片方の手には箱入りのトロフィーを抱えていた。
レース後には、国際ハンデキャッパーがカーインライジングのレーティングを130以上に引き上げるのではないかという話も出た。それもまた当然だろう。
「短距離戦で大きな着差をつけるのは基本的に難しいんです。相手を引き離すだけの余地があまりないからです」とパートン騎手は言う。
「マイルや2000m、2400mなら、距離がある分、相手を突き放す余地があります。短距離ではそれができない。でも、この馬はそれができるんです」

この日、シャティンで驚異的な走りを見せた王者はカーインライジングだけではなかった。
ロマンチックウォリアーは、今や世界的にもベテランの域に入っている。それでもこの8歳馬の走りは、4年前に初めてG1・クイーンエリザベス2世カップを勝った日のように、まったく衰えを感じさせない。
この日で同レース4勝目。隙のない、完成度の高い勝利。豪州、日本、ドバイで勝利を収め、国際的な称賛を集めてきたキャリアを象徴する走りでもあった。
さらに、世紀に残る名勝負の一つとなったG1・サウジカップでは2着。世界最高のダートホースに真っ向から挑み、おそらくわずかに仕掛けが早かった分だけ及ばなかったが、敗れてなお多くの称賛を集めた。
それでも、ロマンチックウォリアーは、世界的に受けるべき評価をまだ十分には受け切っていないのかもしれない。カーインライジングもまた、その並外れた才能に見合うだけの国際的な評価をまだ完全には得ていない。だが、この2頭をよく知る人々には、その価値は十分に伝わっている。
G1で2着に敗れた騎手が、笑顔で検量室へ戻ってくることはそう多くない。しかし、ジョアン・モレイラ騎手はそうだった。サトノレーヴが力を出す機会は作れた。馬もカーインライジングを相手に力を出し切った。それでも、結果は大きく離された2着が精いっぱいだった。
「並びかけて、プレッシャーをかけようとしました。でも、過去20年でおそらく世界最高のスプリンターに挑むのは本当に難しいです」
ブラジル出身の名手は、検量室へ戻りながらIdol Horseにそう語った。4コーナーを回ってからカーインライジングに圧力をかけようとした動きを指しての言葉だった。もっとも、カーインライジングがそれに気づいたかどうかも疑わしい。
「完全に置き去りにされました」とモレイラ騎手は振り返る。
そして、G1・クイーンエリザベス2世カップで日本の大きな期待を背負ったマスカレードボールも、2000mの大一番でロマンチックウォリアーを懸命に追ったが及ばず2着だった。何しろマスカレードボールはG1・天皇賞秋を制し、G1・ジャパンカップでも2着に入っている。
その鞍上、クリストフ・ルメール騎手は、詩的な賛辞を口にした。
「ロマンチックウォリアーに、時の力は及びません。年齢を重ねても、3年前と同じくらい強いままです。自分の仕事を本当によく分かっています。上手にスタートし、脚をためて、そこから加速します」
ロマンチックウォリアーの鞍上、ジェームズ・マクドナルド騎手もまた、マスカレードボールほどの実力と名声を持つ馬を相手にすることに「不安はありました」と明かす。
7月、アスコットで行われるG1・キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスへ向かう予定のマスカレードボールは、直線で21秒67という猛烈なラップを刻んで地元の英雄を追った。200mごとのラップは10秒72、10秒95。それでも王者には届かなかった。
「これがロマンチックウォリアーにとって最も厳しい試練になると言われていました」とマクドナルドは言う。
「でも、この馬は私たちにとって夢のような馬です。本当に乗っていて楽ですし、ほかの馬にはできないことをやってのけてくれます」
ロマンチックウォリアーに惚れ込むダニー・シャム調教師は英雄を指してこう表現する。
「この馬は本当に、本当に、本当に偉大なチャンピオンです」


香港チャンピオンズデーはG1レースが3競走行われる開催だ。マイウィッシュにとって不運だったのは、チャンピオンズマイルでのG1初勝利が、絶頂期にある2頭の桁外れの王者の勝利に挟まれる形になったことだった。
もっとも、マーク・ニューナム調教師やヒュー・ボウマン騎手が、そう受け止めたわけではない。
この日のマイウィッシュは、1番人気に推された日本のマイル王、ジャンタルマンタルに次ぐ2番人気だった。レースでは後方から一気に脚を伸ばし、キャップフェラをクビ差で下して勝利。昨年の香港ダービーで敗れた相手に雪辱を果たし、日本から遠征したジャンタルマンタルらを大きく退けた。
ボウマン騎手はレース後、「堂々たる勝ち方でした」と振り返った。
「レースへ向かう時点で自信はありました。私がゴーサインを出した時、この馬に何ができるかは誰の目にも明らかだったと思います。私たちにとって驚きではありませんでした」
驚きと言うべきか、必然だったのか。ジャンタルマンタルの香港遠征は2回目も大敗。出走可能なJRAのマイルG1・4競走を完全制覇、日本を代表するマイラーとして参戦した期待の大物は、衝撃的な結末に終わった。
しかし、午後の強い暑さの中で、ジャンタルマンタルは落ち着きを欠いているように見えた。後肢の内側とゼッケンの下に汗をかき、口の中では舌でハミを気にし、徐々にいら立ちを募らせていた。発走直前には支持もやや弱まり、オッズは上がりつつあった。
出遅れ、促され、速い流れの後ろで折り合いを欠いた時点で、勝負は決まっていた。
ジャンタルマンタルが不発に終わる一方で、チャンピオンズマイルの結果は、香港競馬の新興勢力に希望があることを示した。ロマンチックウォリアーは年齢を重ね、もう一頭の古豪、ヴォイッジバブルも5着に敗戦。キャリアの終盤に差しかかっている可能性がある。
それでも、マイウィッシュが1着に、そしてニューナム厩舎の後輩で今年の香港ダービー馬、インヴィンシブルアイビスも4着に入った。
「2頭とも誇りに思います」とニューナム師は2頭の活躍を振り返る。
「インヴィンシブルアイビスは、来季戻ってくれば、このレベルでもしっかり通用するはずです。マイウィッシュはG1を勝つまでに1シーズン余りかかりましたが、いまの走りを見る限り、これで終わりではないと思います」
「明日の朝、厩舎へ行けば、みんな活気づいていて、みんな笑顔でいるはずです。全員の努力が報われた勝利です」

それはヘイズ厩舎も、シャム厩舎も同じだろう。香港競馬界は、世界的な名馬2頭を自国に擁するという、稀有な幸運に恵まれている。しかもこの2頭は、単に強いだけではない。競馬そのものの価値を思い起こさせる、真の意味での名馬である。
カーインライジングは、世界のどこを見渡しても歴代屈指の一頭であることを、何度も何度も示している。もはや問われているのは、彼が現役最強スプリンターかどうかではない。
距離やカテゴリーの但し書きを外した時、世界最強の競走馬と呼べるのか。その議論である。
「怖いのは、あのスピードで流れて、みんながあれだけ速く走っているのに、この馬は本来あり得ないはずのもう一段のギアを使えることです」とパートン騎手は言う。
「でも、彼はそれをやってのけますし、しかもある程度余裕を持ってやっているように見えます」
「多くの場合、最後の1ハロンは、ただ馬なりで走らせているだけで、何もさせていません。まだ余力が残っていると言いたいわけではありませんが、毎回この馬にすべてを出し切らせているわけではありません」
カーインライジングがこのまま進み、ジ・エベレストを連覇し、さらに無敗街道を歩み続けるとしたら。50年後に名馬が語られる時、その名はエクリプス、フランケル、ファーラップ、セクレタリアトといった偉大な名馬たちと並んで語られるのだろうか。
それは時間の流れが解き明かしてくれるだろう。ただ、今この瞬間、この馬は信じがたいことを成し遂げており、香港の競馬ファンはその姿に心から魅了されている。