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月曜日の午後、香港のクリス・ソー調教師は、滞在先のメイダン・ホテルからほど近い、普段に比べて異様なほど静かなドバイのショッピングモールにいた。

そこには、オイシン・マーフィー騎手、ミカエル・バルザローナ騎手、そして同じく香港勢として足止めされているカリス・ティータン騎手など、競馬関係者や有名ジョッキーが大勢滞在している。

ライアン・ムーア騎手もまた、ドバイのスーパーサタデー開催で騎乗した後、同様に足止めされている。そこではドバイのモハメド殿下が現地でレースを見守る中、遠くの空、街のスカイラインの向こう側にドローンとミサイルが見えたという。

ドバイ、隣接するアブダビ、バーレーン、カタール、クウェート、そしてサウジアラビアは、週末を通して高度な警戒態勢に入っていた。ミサイルとドローンを使ったイランの一斉攻撃に対抗すべく、防衛システムはフル稼働し、恐怖と破壊との対峙が続いていた。

警戒態勢は今も続いている。空港の多くは依然として閉鎖されたまま。生活はほぼ停止している。

「本当に静かですね」とクリス・ソー調教師はIdol Horseの取材に語る。「今のドバイは、むしろ平和な場所みたいに感じます」

しかし、UAE国防省の発表では、イランが土曜日に同国領空へ『137発のミサイルと209機のドローン』を使用した攻撃を行い、少なくとも3人が死亡したとされている。イスラエルと米国によるイラン国内への空爆が続く中、それに対する報復攻撃とされている。

その空爆により、イラン最高指導者のハメネイ師が死亡し、アルジャジーラによれば、これまでにイラン国内131の郡で少なくとも555人の死者が出たという。

問題は、ドバイがいま“台風一過”を迎えているのか、それとも、さらなる爆撃を控える“台風の目”にいるのか、という点だ。

月曜の朝、はるか北方では、イスラエルがレバノンのヒズボラによる攻撃への対応としてベイルートを空爆したという報で始まり、続いてイランがキプロスに駐留する米艦隊を攻撃する意図があると表明するなどの強硬発言も飛び出た。

さらに米国側からも発言があり、米国のドナルド・トランプ大統領はCNNに対し、「(紛争が)あまり長期化するのは見たくない。いつも4週間だと想定していた」と述べ、攻撃計画については「予定より少し前倒しだ」と続けた。

今夜、明日、あるいはその次の日に何が起きるのかは分からない。死傷者数が増え、株価が下落し、石油とガスの価格が急騰する中で、人々は平和的解決を、そして早期の終結を願っている。

「これは偉い人たちの戦いですから」と語るのは、UAEの騎手リーディングで現在首位を走る、シルヴェストル・デソウサ騎手だ。

「怖いですし、どうしていいか分からない。仕事が終わった時、それは一日の終わりなのか、それとも自分の時間の終わりなのか。明日もあなたとこの電話をしているのか。そう考えさせられます」

ブラジル出身のデソウサは土曜夜の開催中、競馬に向けて集中していた。「仕事をするだけ」だ。しかし、何が起きつつあるのかは把握しており、スタートゲートの裏では状況について話が出ていたという。

一方で、イギリスのリーディングジョッキーであるオイシン・マーフィー騎手は、「ここ(ドバイ)は安全だと感じています」と語り、ドバイで足止め中の現在について次のように話した。

「騎乗している間、自分が覚えている限りでは、空中での衝突のようなものは無かったです。それについてはあまり考えていません。何か直接的に紛争に巻き込まれているとは言えません」

「ただ、いつ出られるのか分からない。私たちは他の人たちと同じように、追加の情報を待っているだけです」

デソウサは待ってはいなかった。彼は一時的にアパートを離れ、街から離れた、平穏であってほしい場所へ移った。

デソウサはIdol Horseの取材に「ドバイの市街地から2時間ほど外にいます」と説明する。

「できるだけ都市部を避けようとしているんです。高い建物がある場所はね。100%安全だとは思いませんが、ドバイのように活動がある場所から離れていれば多少は……。普段自分が泊まっているところは、今回被害に遭った場所の近くなんです」

Silvestre de Sousa and El Nasseeb winning the G3 Mahab Al Shimaal at Meydan
SILVESTRE DE SOUSA, EL NASSEEB / G3 Mahab Al Shimaal // Meydan /// 2026 //// Photo by World Pool
Silvestre and El Nasseeb with connections after winning the G3 Mahab Al Shimaal at Meydan
SILVESTRE DE SOUSA, EL NASSEEB / G3 Mahab Al Shimaal // Meydan /// 2026 //// Photo by Dubai Racing Club

湾岸地域の競馬界には不確実性が多く、それが噂や憶測を生む。

「ドバイワールドカップは中止なのか?そう聞いたけど」と尋ねた人もいた。今週の競馬は開催されるのかと気にする声もあった。

「現時点では開催されます」と、メイダン競馬場に関係する公式筋は語る。

日本が誇るダート界のスター、フォーエバーヤングは、3月28日のドバイワールドカップに向けてすでにメイダン競馬場に到着しており、矢作芳人厩舎の公式SNSには、月曜朝に同馬と調教助手が現地で元気そうにしている様子が投稿されていた。

しかし、この開催に向けて日本、米国、欧州から遠征予定のオーナーや調教師は、状況の変化を注視している。紛争が続けば移動や出走について決断を迫られることになる。

今週のドバイ、カタール、バーレーンの開催に向けては、登録や出馬投票が引き続き進められている。異例の状況下ではあるが、“通常運転”が基本姿勢だ。事態への対処しながら進め、開催の可否は、主催者サイドの給与水準をはるかに超える上層部によって判断される。

ドバイでは日曜日のジェベルアリ開催が延期されたが、エミレーツ・レーシング・オーソリティとドバイレーシングクラブは、金曜日にメイダンの開催を予定している。カタールは水曜、木曜、土曜に開催があり、バーレーンは木曜と金曜に伝統のキングズカップ開催を控えている。

学校の授業はオンラインに切り替わり、スポーツや娯楽、サッカーやバスケットボールのリーグ戦を含め、カタールとバーレーンではすでに一時停止となっている一方、競馬開催についてはまだ何も発表されていない。

ニール・カラン騎手は先週金曜にバーレーンで騎乗し、その後イギリスへと帰国する便に乗った。

バーレーン国防軍総司令部は日曜未明、イランが同国本島を標的とし、米第5艦隊が駐留する海軍基地、並びに首都マナーマの住宅地を攻撃した際、防空部隊が45発のミサイルと9機のドローンを撃墜したと発表している。現地では死亡者が1人報告された。

カランは2日間のキングズカップ開催で再びバーレーン入りする予定だが、話している時点では、出入国便がない。

「次の2日間次第です。誰にも分かりません。ただし競馬場はマナーマは距離がありますし、標的となる米国関連の施設からも離れています」とカランは語る。カランはサウジアラビアに飛び、そこから陸路を車で渡ってバーレーンへ入国する予定だという。

「今のところ、中東地域で出入りできるのはサウジアラビアだけです」

Jockey Neil Callan in Hong Kong
NEIL CALLAN / Photo by HKJC

バーレーン競馬の著名トレーナー、ファウジ・ナス調教師は、刻一刻と移り変わる状況を見ながら対応しているという。

「今のところは競馬開催は中止になっていませんが、その話は出ています」とナス師は言う。「次の数日で何が起きるか次第です。軍も関わっている状況で、どんな計画になるのか分からない」

「競馬はどうなるか分からないですが、もしかすると観客を制限した形で開催されるかもしれません」

ナス師は、最初の攻撃は不安だったが、いまは自分たちも状況に慣れてきたと話す。

「バーレーンの中でも場所が違うんです。こちらのエリアからでも、遠くにミサイルが見えて、パトリオットが迎撃して爆発しているのが見えます。とはいえ、私たちは街から離れているし、競馬場も遠い。私が住んでいるところも町から離れています」

「イランの標的はジュファイールの海軍基地と、その周辺の建物です。ほかは、できる限り危険から離れているはずです。願わくば」

「最初に開戦したときは衝撃的でした」と彼は言う。「でも今は、感覚が麻痺してしまったといったところです」

それは月曜日の午後の話だった。午後7時までに、バーレーンの国営メディアは、防空システムが追加で79発のミサイルと59機のドローンを迎撃したと報じた。

カタールもバーレーンと同じような状況にある。競馬は予定通り行われるとされ、開催に必要な手続きも進められているが、実際に行われるかどうかは確実ではない。

アルライヤン競馬場に以前問題があった際には、開催が市外のアルウクダ競馬場に切り替えられたことがある。街から約45分の場所で、必要であれば、そして許可されれば、その選択肢もあり得る。

しかしカタールではこれまでに少なくとも20人が負傷しており、イランのミサイルとドローン攻撃は、インフラやドーハ近郊のアル・ウデイド空軍基地を標的にしている。

カタールの関係者の1人はIdol Horseに対し、多くの人が屋内にとどまり、買い占めを防ぐため市場やモールが24時間営業を続けていると語った。毎朝午前8時には政府から警報が送られ、必要な用事以外では外出しないこと、在宅勤務をすることが通知されているという。

ドバイに戻ると、ソー師は管理馬のシングドラゴンが3月6日の予定便で出国できること、そして同じ頃に自分も香港へ戻れること、できればそれより早い帰国が叶うことを願っている。

「念のため、中国大使館に登録しないといけませんでした」とソーは言う。香港ジョッキークラブ(HKJC)の関係者一団に、厩務員やクラブスタッフも含まれていることに触れた上での発言だ。

「初日の夜、ミサイルが上空を飛んでいるのが見えました。バルコニーからは爆発も見えた。爆弾なのか防空システムだったのかは分からないですが、とにかく、今ここはかなり安全のようです」

「いまは待つしかないです。いつになるかは分からないですね」

しかし月曜の夜、ひとつの答えの兆しが出た。ドバイの空港が、便の運航が直ちに再開されると声明を出し、アブダビは火曜日に再開すると発表したのだ。

ドバイで足止めされている競馬関係者は、まもなく動けるようになるはずだ。しかし、この紛争が終わるまでに、どれほどの破壊と恐怖と死と悲しみが生まれるのかは、誰にも分からない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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