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「のんびり屋」でも闘志は本物、ハートオブオナーがサウジカップに向けて正念場のG1挑戦

苦しくなってからが本当の勝負。出遅れ癖、安定のズブさ、それでも最後は伸びてくる。ハートオブオナーがサウジ行きの切符を掴むべく、ドバイのG1に挑戦する。

「のんびり屋」でも闘志は本物、ハートオブオナーがサウジカップに向けて正念場のG1挑戦

苦しくなってからが本当の勝負。出遅れ癖、安定のズブさ、それでも最後は伸びてくる。ハートオブオナーがサウジ行きの切符を掴むべく、ドバイのG1に挑戦する。

12月19日のメイダン競馬場、ハートオブオナーは1900mのリステッド競走を走っていた。レースのスタートから約55秒が過ぎたあたりで、鞍上の腕が力強く動き始め、騎乗馬にペースアップを促した。

Idol Horseの取材に「正直に言うと、向正面に入った辺りでは最下位を覚悟していました」と答えるのは、騎乗していたジョッキーのサフィー・オズボーン騎手だ。

「今回は困った結果になりそうだなと思いました。正直な感想としては」

騙馬のハートオブオナーは今回もスタートに出遅れると、後方2番手に着ける。前には7頭、懸命に促していたのは自分と、もう1人の騎手だけだった。ほかの面々は落ち着いたまま、じっと構えている。数秒後、オズボーンが鞭をひとつ入れると、ハートオブオナーはようやく脚を使い始めた。

最後のコーナーを回って直線へ向いた時点で、砂を浴びながら走るこの馬の後ろには5頭。さらに1頭が並びかけ、先頭の2頭は2馬身半前にいた。

オズボーンが呼吸を合わせながら追い続けると、ハートオブオナーはそれに応えて伸び続ける。砂の舞うダートでも勢いは落ちず、じりじりと差を詰め、ついに前を捉え切った。

両腕が動き始めてから実に1分間と5秒後、オズボーンは落ち着いたまま手綱を馬の首元へ低く落としていた。ハートオブオナーは後続に1馬身半差を付け、先頭でゴールを駆け抜けた。

「楽して乗れる馬ではありません。私なら乗りこなせなかったでしょうね!」と語ったのは、トレーナーのジェイミー・オズボーン調教師だ。彼は27年前、トップクラスの障害騎手として現役生活を終えた人物で、その3年後に娘のサフィーが生まれている。

いま陣営が描く夢は、ハートオブオナーがG1・サウジカップの主催者から出走の機会を得て、2月14日にリヤドで行われる賞金総額2000万米ドルの舞台へ挑むことだ。

「まだそこまで行っていませんし、招待も受けていません。ただ話は進めていますし、結局のところ金曜の結果次第ですね」とオズボーン調教師はIdol Horseに語った。「今季の冬のローテーション全体は、次の一戦を軸に動くことになります」

その金曜の試金石が、メイダンでのG1・アルマクトゥームチャレンジである。ハートオブオナーは12月の勝利で2着、3着だったウォークオブスターズとアルトリウスと再び対戦する。いずれもブパット・シーマー厩舎という強力ライバル陣営の所属馬だ。

Saffie Osborne riding Heart Of Honor to victory at Meydan in December 2025
HEART OF HONOR, SAFFIE OSBORNE / The Nakheel Conditions Stakes // Meydan /// 2025 //// Photo by Dubai Racing Club

トレーナーはハートオブオナーを「怠け者」と呼び、ジョッキーは「のんびり屋」と表現する。いずれにせよ、メイダンで7戦4勝・2着3回という好成績を残す、厩舎の看板馬への愛情を込めた言い方だ。

昨年、G2・UAEダービーではアドマイヤデイトナに僅差で敗れたが、それも含めてメイダンでの存在感は強い。さらに昨夏には、米国三冠レースの2戦にも挑戦。ジェイミー、サフィー、そして馬主のジム&クレア・ブライス夫妻をアメリカへと導いた。

ただ、それは思い描いた結果にはならなかった。当時、まだ牡馬だったハートオブオナーは、やはり出脚が鈍く、今ではお決まりとなっている後方からの競馬を強いられる。終始、じりじり脚を伸ばすに留まり、G1・プリークネスステークスは5着、G1・ベルモントステークスは6着に終わった。

だが、メイダンでのハートオブオナーは別物だ。ゆったりとしたスタート、緩慢な走り出し、そして最後に一気に差し込んでくる強烈な追い込み。今季は2戦2勝で、そのスタイルがファンの心を掴みつつある。

地元厩舎ではなく国際厩舎の所属でありながら、ドバイの競馬場で人気馬になり始めている。

「厩舎では普段、首を下げて歩いています。会ったことがある中でもトップクラスに落ち着いた性格の馬ですよ」とサフィー・オズボーンは明かし、ハートオブオナーの“扱いやすい性格”について説明する。

「大小の差はあれど、どの馬にも癖はあります。特に良い馬ほど。でも全体としては、これ以上ないくらい扱いやすい馬です。何をしても本当にのんびりしているし、プールで泳いでいるのを見ても、浮かぶために必要な分しかやっていないんですよ」

ただ、ハートオブオナーを「怠け者」「のんびり屋」という一言で片付けてしまうと、この4歳馬の本質は見えてこない。

「実はすごく面白い性格で、私たちはいつも気が抜けません」とサフィーは語った。「ああいう馬って調教でも怠けていそうに見えるでしょうが、調教ではすごく頭が切れているし、仕事もすごく前向きです。先週の追い切りは本当に驚くほど良かった。レースの中ではのんびり屋ですが、それはもう変わらないと思います」

「のんびりしているとはいえ、競馬場に行くとレース前に少しスイッチが入る感じがあって、リラックスさせるために早めにパドックから出すようにしています。ゲートの中ではちょっとだけ落ち着かなくなるんです」

ただし、ゲートが開いてしまえば、少なくともレースの4分の3は、いつもの眠そうな雰囲気に戻る。

「前走はゲート内で使うカバーを試したんですが、ちょっと引っかかったみたいで、逆にもっと遅くなってしまいました。だから今週はそれを使いません」

「私もかなり大変なんです。でもこちらが本気で追い出すと、この馬はそこからもうひと伸びしてくる。もう一段ギアが上がるような感覚です。信じられないくらいの末脚で、それがこの馬なんだと思います。もっと早い段階で無理に動かしたら、その良さを消してしまうでしょう」

ジェイミー・オズボーン師は、この馬の「根本的にズブい」性質こそが武器だと考えている。

「この馬は絶対に掛からない。スタミナを無駄なく使います。だから最後の4分の1、みんなが本当に苦しくなって失速していくところで、相手ほどはペースが落ちない可能性がある。それがこの馬の上手い立ち回り方です」

調教師はさらに、今回ウォークオブスターズとアルトリウスを再び倒すには、スタミナを無駄にしない走りが必要になるとも見ている。

12月の前走ではハートオブオナーは3歳馬として年齢定量戦の恩恵を受け、ウォークオブスターズはG1馬として斤量増も課されていた。だが今回は、全馬同一の斤量での対決になる。

「これまで以上の走りを見せないといけません。それが出せれば、サウジカップに出走できる可能性はあると思います」

「ただ、あれはウォークオブスターズの今年初戦でもありました。サウジカップへの招待を得るには、彼に勝つ必要があるのか。もし負けたとしても、僅差で、そして強いレースになって、ウォークオブスターズが116(レーティング)に見合う走りをしたなら、こちらも招待されるかもしれない。そこにも期待しています」

Trainer Jamie Osborne with Heart Of Honor owner Jim Bryce at Meydan trackwork
JIM BRYCE (OWNER), JAMIE OSBORNE / Meydan // Photo by Dubai Racing Club
Heart Of Honor completing trackwork at Meydan
HEART OF HONOR / Meydan // Photo by Dubai Racing Club

ハートオブオナーが4歳シーズンに入り、成長とともにまだ良くなるのではないかという希望もある。

「前走は、おそらく自己最高だったと思います。議論の余地はありますが、たぶんそうでしょう。だからこそ、もう一段前に進めてくれることを期待しています」とオズボーン調教師は述べ、娘も同じ意見を口にする。

「前走は、初めてちゃんとした手応えを掴めた日だったと思います。私が本気で追い始めた瞬間、馬が一気に反応したんです。手前替えも上手くなっていて、今は反応が鋭いです。最後の数ハロンで、一気に格を感じさせるんです」

「最初の数ハロンは不安になったり、悪い展開が脳裏をよぎるのも理解できますが、いまはみんなこの馬のことを分かっているし、それがこの馬自身の特徴なんです。願うのは、終いで必ず一番良い脚を使ってくれることですね」

鞍上のサフィー・オズボーンにとっては、次の金曜日も“楽なレース”とはならないだろう。それがお馴染みのパターンだ。だが、ハートオブオナーには強さがあり、ダートの一流馬に必要な闘争心を兼ね備えている。

ジェイミー・オズボーン調教師は「ダートで戦うには、馬の気持ちが並外れていなければいけません」と語る。「高いレベルで戦い続けるなら、何度も何度も『また行ける』と思えるだけの、精神的なタフさと賢さが必要です。厳しいんです。消耗戦のダート競馬に楽なレースなんて存在しません」

「馬は毎回、ダートに足を踏み入れた瞬間に『銃撃戦』に向かうと覚悟を決めますし、キックバックの痛みも伴います。だから勇気を当たり前だと思ってはいけません。でも、その点は意識しておかなければならないんです」

アルマクトゥームチャレンジでもハートオブオナーがその闘志を見せることができれば、サウジカップの夢はまだつながる。たとえ、華やかな勝ち方にはならなかったとしても。

「たぶん、この馬は“泥臭く”勝つのが持ち味なんでしょうね。スムーズにはならないし、見栄えのする勝ち方でもありません」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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